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学パロ短編集  作者: かの
1/7

弟視点

宮下灰花。


1年前、負傷したくず兄を病院まで運んでくれて、付き添ってくれてた張本人。

奴は偶々通りかかった所にくず兄が怪我をして倒れていたのだと言う。だからどうして怪我を負ったのか知らないと言うけれど、嘘が下手だなあと思う。一度もこっちの目を見やしない。

何度問い詰めても脅しても暴力に訴えてみても一貫して知りませんとしか返ってこなかった。

駄目元で怪我を負った当の本人に何があったのか尋ねても、自宅の階段から落ちましたとか口にしやがる。屋外で発見されて運ばれたってのに適当にも程がある。


右目の損傷がひどくて、この日からくず兄の右目は視力が落ちて色も変わっていってしまった。そんな大怪我を負ったのに俺はその経緯を何も知らない。

悔しかった。


その日を境に灰花をよく見かけるようになった。

と、いうか。

くず兄と一緒にいるのをよく見かけるようになった。

休みの日にはプリンを持って遊びに来るし、友達にでもなったのだろうか。

いやいやあのくず兄に友達なんて。


くず兄は質の悪い事に無自覚に外面は良いから寄ってくる人間は多い。けど、あの性格だからすぐに離れて行ってしまう。

なにせ人の顔と名前を覚える気がないのだ。名乗った所で次の瞬間には忘れているのだからお話にならない。

くず兄と接したらそんな人間性はすぐ分かるだろうに、物好きな奴。


でも、そんなくず兄を理解した上で。

親しくなりたいと思ってくれているのだとしたら。

そんな風にくず兄に接してくれているのだとしたら。


それはとても嬉しい事だと思った。



偶然にも灰花はくず兄と同じ高校に通っていたらしい。

頻繁に顔を合わせるようになっていたのでその度に、くず兄の学校生活について尋ねていたら、いつの間にか俺が尋ねるまでもなく、くず兄の学校での様子を教えてくれるようになっていた。

授業中だとか休み時間だとか昼休みだとかの様子から、その日図書室で閲覧した本のタイトルまで。俺の記憶が正しければ灰花とくず兄は違うクラスなんだけど。本当よく見てるな。

昼休みに“中庭でくずはさんが寝てるっす!“と、くず兄の寝顔の写真が添えられたメールが届いて反応に困った事もあった。


とは言え、高校生活を送っているくず兄の姿を知れるというのは新鮮なもので。

正直一緒に過ごせる灰花が、羨ましかった。


くず兄は未だに灰花の名前を覚えていないけれど、灰花はそんな事気にも留めない様子で接している。


凄いな。

俺なんか昔は忘れられる度泣きながら掴みかかったというのに。


今では少し時間を置いた程度なら忘れられはしないけれど、それというのも俺は家族で弟で、くず兄と一緒に過ごしてきた時間が誰よりも、それこそ両親よりも長いからというだけだ。

きっと、もっと長い時間視界に入らなければやっぱり、忘れられてしまうのだろう。


灰花は、強い奴だなと思う。

俺なんか忘れられるのが怖くて、一分一秒離れていたくないのが本音だから駄目駄目だ。

くず兄は一見しっかりしているようで自分の事にすら無関心だから俺が見ててやらないと。

ついててやらないと。


なんて、思ってみても。


くず兄が大怪我をして昏倒している事を知らないままのんびり夕飯の買い出しをしていたってのが現実だから。

それでも、なんの確証もないけれど、灰花なら、くず兄に怪我を負わせる事なくうまく立ち回って、守れたんじゃないかと思う。この辺りでは喧嘩が強いってそこそこ顔と名前が知られているらしいし。髪染めてピアス開けて制服着崩して、そんな見るからに不良な奴とくず兄が一緒にいて悪い噂でも立ったらと心配した事もあったけど。


なんていうのかな。


ちゃんとくず兄と話をしてくれてるんだ。

いつだって楽しそうに嬉しそうに笑ってて。

怒る時はちゃんと怒って。

まっすぐ。


いい奴なのだと思う。


悪い噂が立ったら俺が潰せばいいだけの話だ。


いつだったか灰花が俺に話してくれた事がある。

くず兄が道を踏み外さないように見守りたいって。守りたいって。


なんだ。くず兄、良い友達が出来そうじゃん。


これをきっかけに、もうちょっと広く世界を見てくれたら良いのにと思う。

灰花なら、根気強く付き合って、腕を無理矢理引っ張ってでも見せてくれるだろうけど。


だってあいつも、くず兄の事、だいすきだって、分かるから。

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