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源内倶楽部  作者: 修大
6/13

6,お試し

 一刻ほどして雨が上り、源内一行は品川宿を出て大井村の幕府訓練所に向かった。

「いやはやちょっと物足りなかったですな」

「また改めて参りましょう」

「旦那方は吉原の方がいいんじゃないんですかい」

 帰雲と良信の話に三吉も加わった。

「ところで帰雲の旦那。あっしらが品川宿でドンチャンやってる最中にどこに行ってたんですかい」

「ん、何。野暮な事は言いっこなし。昔のれこがな」

「さすが帰雲の旦那だ品川くんだりまで馴染みがいらっしゃるとはねー」

「三吉、いい加減に持ち場に戻らねーか」

「兄い、すんません」

 三吉と入れ替わる様にして、浅右衛門が帰雲に近付いて来た。

「いかがでございました」

「浅右衛門殿の思われた通り、後を着けていたのはご老中阿部様の手の者でございました。それにしてもいい塩梅に雨が降り出して雨宿りは秘め事の簑がわりには幸いでございました」

「面倒なら、ひと思いに」

 浅右衛門は腰の刀の柄を握った。

「いやいや下役でもお神ですからな、後々面倒な事になります」

「左様か」

「ご隠居もその方がお望みでしょうから」

「それでその者達はおとなしく納得いたしましたので」

「因果を含めて、たっぷりと鼻薬を握らせましたので心配はござらぬ・・・おお、着きましたな」

 源内達は幕府訓練所に到着した。

「それでは、またちょいとひと仕事してまいりますかな」

 帰雲は、木戸に向かってひとり歩き出した。

 近付いて来た帰曇に木戸番が手にした六尺棒を身構えた。

「待て待て何用じゃ、何処へ行く」

「ご苦労じゃのぅ」

 帰雲は懐から木札を取り出して木戸番に見せた。

 木札を見せられた木戸番が慌てて脇にある番小屋の中に駆け込んだ。

「そのままちょいとお待ちを」

 振り返り浅右衛門達にそう言うと帰雲も番小屋の中に入って行った。

 しばらくして帰雲が番小屋から出て来た。続いて番役人の侍が小屋から慌てて転げ出して来て、木戸を開け深々と頭を下げて源内達を向かい入れた。

「先程申した通り何人も近付いけてはならんぞ、よいな」

「はっ、かしこまりました・・・それ!木戸をしめろ!」

 木戸番が木戸を閉め、他の数人が警護の持ち場に走った。

「さぁ、まいりまましょう」

 源内一行は訓練所の奥に歩き出した。

「あの慌てよう、だいぶ有難いお札の様でござんすね」

 三吉が木札に興味ありありと帰雲の側にやって来た。

「旦那、黄門様の印篭じゃーござんせんよね」

「これかい」

 帰雲が懐から木札を取り出した。

「こいつはすげーや」

 伊左次と良信も集まって来た。

「まあ同じ様な物じゃな」

「あっしら火事となりゃー木戸もなにもお通り御免ですっ飛びますがね」

「これさえ有れば江戸城の門も開けられる代物さ」

「兄―。葵のご紋入りですぜ!」

 三吉が帰雲の持っている木札を指差して叫んだ。木札には徳川家の紋所と墨で天下御免と文字が書かれて朱印が押されてあった。

「三吉、いけねーょご迷惑だぜ。旦那、申し訳ございません」

「いいんだよ。ほれ持ってみな」

 帰雲は木札を三吉に手渡たした。

「こっ、こいつはすげー!」

 三吉は手渡された木札を目を丸くしてまじまじと見直した。

 三吉はやおら木札をみんなに向けって歌舞伎役者の様にみえをきった。

「この紋所が目にへーらねーか」

「へぇへぇー恐れ入りました」

 良信がおどけて応えた。それを見て皆大笑い。

「帰雲さん。ここら辺でいいのじゃないか」

「左様でございますな」

 源内達は木々に囲まれた広場の真ん中で止まった。

 駕篭から出て、源内はぐるりと辺りを見回した。

「あの辺がよいかな」

「へいかしこまりやした、おいみんな」

 伊左次達は大八車で運んで来た箱を下ろした。

「この絵図面の様に組み立ておくれ。頼んだよ帰雲さん、わたしゃここで一休みしとるからちょいと疲れたわい」

「大丈夫でございますかなご隠居」

 すぐに良信が源内の脈を見た。

「少しお疲れのようですが、でも心配はいりませんな。ちょいと品川宿でお遊びが過ぎましたかな」

「ちょっとな」

 帰雲は源内から絵図面を受け取り、伊左次達に発射台の組み立ての指図した。


「これでいいんですかい」

「そしたら、こいつをここに乗せてと、これでよろしいので、ご隠居」

「出来たかい」

 源内はゆっくり立ち上がり帰雲達の方へ歩きだした。

 源内はしばらく図面と見比べていた。

「いいよ、これで大丈夫。花火を乗せておくれ」

「へい」

 伊左次は別の箱から花火を出して発射台に乗せた。

「その横にある歯車を回して、ん・・・」

 源内は斜め上を指差した。

「海は向こうじゃな」

「左様で」

「回しておくれ」

「へいッ!」

 伊左次は歯車を回した。水平だった発射台が動き出した」

「それでよし・・・始めておくれ三吉さん」

「いいですかい始めますぜ」

 三吉が火打で火縄に火を付けた。

「それじゃーようがすかい、花火に火を付けますぜご隠居」

「いいよやっとくれ」

「それじゃ付けますぜ」

「やっとくれ」

 三吉は火縄の火で花火に火を付けた。

 ジュジューッ!と花火の火縄が燃え白い煙が上がった。

「おおーつきましたぞ」

 良信も少し興奮気味で叫んだ。

 次の瞬間、花火が空に向かって発射台から飛び出した。

「花火の尻から火を吹いてらー」

「なるほど知っている花火とは違いますな」

 みんな花火の飛び上った空を見上げていた。

「花火と違う所は的に向かって飛んで行く所さ。鳥のように側まで飛んでいって的の真上で中の火薬が爆発する。離れた所からでも大丈夫と言う訳だ」

「真上に打ち上げる花火とは違いますね」

「的が火事になるって段取りだ」

「火事ですかい、火消しのあっしらが火付けですかい」

「日本を救う火付けだよ」

「そいつは面白れー」

「今日は試しだから海が的だ」

「上に上るだけじゃなくて的めけて飛んでいくので」

「そうさ、あの羽でな」

「そいつはすげーや・・・おや、ご隠居、何だか様子がおかしいですぜ、花火がクルクル回りだしちまいましたぜ」

「何じゃ何じゃ」

 思わぬ事態に、源内も心配そうに見上げた。

「あららっ、海とは反対の方に飛んでますぜ」

「ああ、見えなくなっちまいました」

 花火は低く垂れ込めた雨雲の中に消えて行った。

「見えなくなっちまいたしたぜ」

 突然、雷が鳴り響いた。それと同時に雲の中で閃光が光り、爆音がした。

「壊れちまったんですかい」

「まだ試作だ。中の火薬は少なくしてあるはずだから大事はなかろう」

「大丈夫ですかね」

「ああ、お釈迦になっちまった様だわい。しかたねーから戻るとしようかい帰雲さん」

「ご隠居、大丈夫でございますか、身体にさわりますゆえお駕籠へ」

 気落ちした様子の源内を見て心配になった帰雲は抱き抱える様にして源内を駕籠に乗せた。

「蔵造さんや、帰ったら文を書くから、それを持って秩父の吉田村に行っておくれ」

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