4,拾った土産
それからまもなく源内達は相模屋に戻った。
「ささぁ、中へ中へお通りくだされ」
帰雲は林太郎を案内して奥座敷に向かって廊下を歩いていた。
「こんな遅くになってお帰りですか、おじ様」
奥座敷から源内の帰りの遅いのを心配していたさなえがやって来た。
「誠に申し訳ない帰雲このとおりじゃ、すまんすまんのー」
帰雲は頭を低くして平謝り。
「おじ様にそんなに言われたら怒れません」
「いやいや本当にすまんすまん」
「あら・・・」
さなえは帰曇の後ろに豊吉がいるのに気付いて少し慌てた。
「豊吉様」
恥じらう様に、さなえの頬がをぽっと赤らんだ。
「いゃいゃ色々とありましたな久し振りでしたで遅くなってな」
「それにしてもよろしゅうございましたな、また近々参りましょう。のぅう帰雲殿吉原にお願いしますぞ」
良信は周りの事など我関せずと、またよろしくと帰曇の懐をおどけてポンポンと叩いた。
「豊吉様も・・・吉原に」
「いやいや何も豊吉殿は・・・」
何とかさなえのご機嫌を収めたのにと、帰曇は良信を空気の読めないご仁だと睨らんだ。
良信の横で林太郎が腕を抑えて堪えているのにさなえが気付いた。
「申し訳ございません。お怪我を」
「良信様、それよりも勝様の治療を」
蔵造が気を使って良信に言った。
「おおっ、そうじゃった薬箱薬箱」
良信はそそくさ林太郎の腕を持って座敷に入り治療を始めた。
「勝林太郎と申します。本当に危ないところをお助けていただきありがとうございました」
「いやいや、その様にあらたまってこちらこそご丁寧に痛み入るわい・・・そうそう」
源内は何を思ったか、やおら話を始めた。
「帰雲さんよ、お前さんの親父さんの景晋さんは気持ちが良かったぜ。ロシアの船が開港しろとやって来た時に、もう二度と近寄るなってきっぱり啖呵をきってな」
「親父殿が長崎奉行の時の事でございましょ」
「時にあんたさんは欄学をおやりのようだが西洋との付き合いはどうお考えかな」
突然、源内が林太郎に問い掛けた。
「私は広く国を開いて、欧米列国の技術や文化を取り入れて国を強くしてから戦うなら戦うべきだと考えております。それが今の日本には必要です」
「ほほーぅ、あんたさんは開国かい」
「今のままで喧嘩をすれば日本は負けます。清国の二の舞えに」
負けるかい」
「どうしてそんな事をお聞きになるので・・・あなた様はいったいどなたで」
林太郎は源内の座っている後ろの床の間にある物に目が止まった。
「エレキテル?」
林太郎は書物で見た事のあるエレキテルだと気付いた。
「あっ、もしやあなたは・・・」
その時、浅右衛門の手が脇のある刀を掴んだ。
「これこれいけませんよ」
「しかし・・・」
「このお人なら大丈夫だよ、ねー勝さん。このお方は必ず世のため人のために行く行くは働くお人じゃから」
「ご隠居にはこのお方の明日が見える様ですな」
帰曇も林太郎なら大事にはなるまいと源内の判断に納得した。
「伊左次さんやご苦労だけど勝さんを家までお送りしておくれ」