1 始まり
始まりがなんだったのか、それはとても些細な事だったと思う。だけど今、解ることは、私の、高遠千早の日常は地獄であることだけ。
いじめ。
小学校の高学年くらいのことだったろうか。クラスで人気者の男子が私に告白をしてきた。男子からも女子からも好かれている少年だった。
彼が何故、私に告白してきたのかは解らない。クラスの中でも地味で内向的な私のどこに魅力を感じたのだろうか。
初めての事に私はすぐに返事をすることが出来なかった。彼も直ぐには返事を求めなかったから、考える時間はあった。そして、返事をすることはできなかった。
告白を受けた日の翌日。クラスの女子のリーダーに詰め寄られた。告白を断れ、ということだった。
当時、まだ友達だった子から聞いた話ではリーダーは私に告白してきた男子の事が好きだったらしい。つまりは嫉妬。
女子の中心で目立っていた彼女に私が逆らえるはずもなく、私は彼の告白を断った。元々、付き合うということについても考えていなかったから、そんなに問題じゃなかった。
問題だったのはそのあとだ。彼は諦めなかった。そして彼女は彼が諦めなかったことを知ってしまった。
ある日。登校するとクラスの雰囲気が違った。友達ではないけれど、普通に挨拶を交わしていた知り合いに今日は無視された。教科書を忘れて隣の友達に見せてほしいと頼むと、また無視された。ただそのあと、こっそりとメモを渡された。
小さなメモに、更に小さく一言だけ書いてあった。
『ごめんね』
それで分かった。どうやらそういうことらしいと。
不思議と悲しいとは思わなかった。