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じぃちゃんの楽しい葬式

作者: Napo

祖父が亡くなった。

お通夜での夜更かしに小さな子ども達は大はしゃぎ。広い畳の上で転げ回って遊んでいる。

かくれんぼが始まると祖父の棺を開けたり閉めたり。

注意をしてみたが

開けたり閉めたり。覗いて閉めたり。


永遠の眠りさえ覚めてしまいそうな騒ぎである。


祖父の通夜に駆けつけた親戚は何年ぶりかの再会を喜びあった。

「じぃちゃん」の話よりも近況報告や世間話。大人達も笑顔で誰も涙を流していない。


 棺の前には440円が置いてあった。


「これはじぃちゃんが残した遺産なの?(笑)」

私が言うと。


「この人数で争うの?ウケる!」


「貴方にはビタ一文でも絶対渡さないわ!」


なんて冗談も飛び交った。


とにかくみんな集まって嬉しそうだし、結婚式で集まったかのような空間だ。  


別に、生前の願いでじぃちゃんが

「俺が死んでも葬式では泣かないでくれよな」

なんてセリフは無かった。


祖父が亡くなった事が実感出来ていないのもある。

お泊まりルンルン気分すらある。ビールのせいで楽しい。

私の母達も自分の親が亡くなった雰囲気では無い。明るく、まるでパーティーの様な夜だった。


朝を迎えた。

朝からお菓子を囲み、おにぎりを食べる。

やはり全然お葬式気分では無い。


この人生で様々なお葬式に行ったが、こんなにも楽しい、そして明るい葬式は初めてだ。

どちらかと言うと、正月休みのダラダラ家族のある日の様子に近い。

座布団を重ねて大喜利ごっこには私も参加して、姉も山田君ばりに座布団運んでくれた。

 

しかし最後のお別れが始まった。


夫を亡くした祖母が最後のお別れをする姿を見て、悲しい気分になる。


斎場では子ども達が私にこう言った。 


「ねぇ、じぃちゃんどこ行くの?」 


私には「天国だよ。」とか「星になるのよ。」なんてつまらないことは言えない。


だから正直に答えた。



「おじいちゃんは、これから焼かれてしまうのよ。」


子どもたちの顔から笑顔が消えてしまった。


「なんで焼くの?…」

すかさず私はこう続けた。


「食べるよ」






罰当たりと言われてもいい。



福岡県のじぃちゃんの口癖は

「よかよか」だった。

構わん、構わん。って意味だと思う。


交通事故でひき逃げされそうになって重傷負っても


「よかよか」と相手を責めず


私が中学の頃に新幹線に乗り、家出して訪ねた時には祖母が騒いでいても


「もうよかよか、それより飯食え」


大昔騙されて借金出来ても責めもせず。


古くて楽しいからって何時まで誰がどれだけじぃちゃんちで騒いでも。


「スネークショーーット」という技をあみだし、仏壇の部屋でボールで遊ぼうが。


ふすまに穴あけようが


砂壁をほじっても


じいちゃん手作りのお風呂場。劣化してて浴槽のタイルを剥がすのが楽しみだった。

誰も教えて無いのに、何故か私の子どもや姉の子どもも剥がしてあそんでいる。

剥がす感触が楽しくて、ブルーで綺麗だから集めて遊んだ。



「よかよか」


ニコニコもせず、不機嫌でも無い。いつもそんなじぃちゃんだった。


だから関東から駆けつけた孫達が酔っ払って通夜なのに全員爆睡しても

「よかよか」と言ってくれると思われ。


ひ孫達が棺を開けたり閉めたり、開けたり閉めたりしても

「よかよか」と言ってくれると思われ。


もしかしたら本当に焼いて食べても怒らない気さえする。



楽しかったお葬式から一年が経った。




私はじぃちゃんの孫なのに


「よかよか」が出来ない。


すぐ怒り、傷つけられたら相手を恨み。


眠りを妨げられると不機嫌になる。


だけど、じぃちゃんみたいな暖かくて不思議な人になりたい。

私が死んだ時にも、悲しまれるだけで無くって、じぃちゃんのお葬式みたいにみんなが

家族らしく過ごしてくれたら嬉しい。

食べられるのはごめんだけど。


じぃちゃんの家が壊されてしまうかも知れないと聞いて、大人になったのに懐かしくてまた風呂場のタイルを剥がして持って帰った。姉はそれを聞き、30半ばにして羨ましがっていた。



タイルを見つけて握ってみたら、今頃寂しくて寂しくてたまりません。


悲しくて悲しくてたまりません。




じぃちゃんありがとう。

じぃちゃんの孫で良かったです。





じぃちゃん




ごめんなさい。



こんな孫でごめんなさい。



私は誓います。





絶対に







もう二度とタイルは剥がしません。


実際に私の祖父が去年亡くなった時の実話です。

もしかしたら先に到着していた者が私を迎える時に涙していたら私も涙と悲しみで過ごしたかもしれません。

笑顔で迎えてくれ、笑顔で抱きしめてくれた皆に感謝。

子どもたちの無邪気な明るさに感謝。

おじいちゃんに感謝。

 

絶対!


絶対タイルは剥がしません!!


読んで頂いた方に感謝!!ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほのぼのしました。 ワタシの血縁地域「静岡」には、「よかよか」に相当する言語がありません。 「人を許す」を率先してくれた人も思い当たりません。 長寿で人望がないと、この雰囲気は、無理ですよね…
2013/07/28 06:58 退会済み
管理
[一言] とてもあたたかいお話しでした。 うちも、おばあちゃんのお葬式のときに 一通り泣いたら、皆で宴会になり、こどもははしゃぎ、 楽しかったのを思い出しました。 タイル、大切にされているんでしょ…
2013/03/31 16:08 退会済み
管理
[良い点] なんともいえず、ふわっとしました いいお話をありがとうございました
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