国王一家・続
紹介続き。
「構わないでしょう?王位を譲る場合は甥か姪に」
「・・・将来王太子となる孫の顔ぐらい、見せてはくれないの?」
「えー」
ヴァンは横目で隣の席を見た。視線を受け止めたのは、穏やかな笑顔のヴァンの次席。
「僕は結婚しませんし、不可能ですからね?大神官位に就くことができるのは、敬虔な
独身男性のみですから」
第二王子のイリスザートである。
栗色の髪を母から、青紫の瞳は両親から譲り受けた。
細身の体に柔らかな髪、大きな瞳に優しげな笑顔と宛ら少女のような美貌。
彼が姫であったら、と、溜め息をつく貴族も多いほどだ。
だが、一方ではその美貌が嫌味の対象になっていたこともある。
「女の顔立ちをした軟弱王子」だの「姫君が王位を狙い、男装しているのでは?」だの、
「実は女装の趣味があるらしい」だのと囁かれていた。
幼少時、体があまり丈夫でなく、外に出て遊ぶ機会が少なかったことも原因の一端を
担っていたのだろう。
ヴァンが悪戯を考え、仕掛けるようになったのも、この頃からと言われている。
彼には我慢ならなかったのだ。
弟に対する悪口など。
現在は完全に単なる趣味と化しているが。
囁かれていた当の本人はと言うと、笑っていた。
冷笑でも捻くれた笑みでも自嘲でもない、温かで穏やかな優しい笑顔を浮かべて。
『皆様のお気持ちはよく分かります。自分を客観視してみても、そのように思えますから。
ですが、僕は精進して、立派な人になるつもりです』
彼が言う〝立派な人〟とは、一体どのような人であるのか。
答えが分かったのは、御年十の春のこと。
年齢の割に小柄であった少年は、将来のことを問われ、父王を見上げて宣言した。
『父上、僕は大神官位に就こうと思っております。
王位という高い身分からではなく、国民に近い目線で、民を支えていきたいと存じます』
ついては、王位継承権を放棄すると。
はっきりと、そう告げた。
その台詞に、ある者納得し、ある者は虚言だと笑い飛ばし、ある者は実は王位も狙って
いるのでは、と疑った。
けれど、王は疑わなかった。
そうか、と一言頷いて、彼のために大神官を月に二度、招くことにした。
但し、万が一の時のために、と王位継承権は剥奪せずにおいたけれど。
一年が経ち、二年が経って、徐々に人々は彼を見直した。
強固な意思と揺るがぬ信念を持って、彼が本当に大神官を目指しているのだと。
今ではイリスザートもまた、多くの人々に愛されてやまない王子となっている。
「・・・・うーん、イリスはそうだよなぁ」
ヴァンは困ったように、更にその横を見る。
イリスザートを挟み、そこに在るは。
「何ですか、兄上。王位を甥姪に譲るぐらいなら、私に譲って頂いても良いでしょう」
第三王子、エアゾルド。
栗色の髪に青い瞳と、上の兄二人のように両親から受け継いだ整った顔立ち。
まだ少し幼さの残る顔立ちの彼は、兄弟の中においてある意味異質な存在であった。
否、まともだと言った方が良いのかもしれない。
王という権力に対し、酷く執着するのだ。
それが、最も王位から離れている故なのか、王位を継ぐ兄に対する反感からくるのかは
分からない。
唯、王位を望むのだ。
幼い頃から、その兆しはあった。
徐々に表面化し、そしてついには。
家族全員が知るところとなった、筈である。
意図的か無意識か、その話題で三男をからかうのが長兄。
王位継承権第一位、その人である。
エアゾルドの言葉に、感情の読めない表情で返す。
「えー、そんな冗談はやめようゼ」
「冗談を申しているつもりはありませんが。と言うか、そのふざけた物言い、やめて頂けませんか?」
「やーだーね。エアもイリスも硬いんだもん、仕方ないでしょ」
「僕は元からこの言葉遣いですので」
「私も、そう簡単には変えられませんから」
「応用効かせろよ、そこは。それにほら、エアは俺と闘うんだろ?」
何気ない一言に、その場の空気が凍りつく。
エアゾルドを見据えたヴァンは、静かに言った。
「なら、対等でなければいけないと思うけど?」
「・・・・・・・・」
エアゾルドは自嘲気味に小さく笑い、しかし燃える瞳で兄を見る。
「生憎、この言葉遣いは抜けないようですから。
・・・・ですが、兄上がそう仰るなら、幾らでも、―――どんな手を使ってでも、貴方と闘いますよ」
不敵な笑みに、小さくヴァンは頷く。
緊迫感が増す場。
「いいよ、幾らでもかかっておいで」
ヴァンも答え、そして。
―――にやり、と笑った。
(・・・・あ・・・これは・・・・・つーか、あの笑い方は・・・・・!)
まずい。
その笑顔の意味を知るカイザは一人、身震いをする。
鳴り止まない警鐘。
(やばいっ・・・・!)
そんなカイザの様子など全く気づかずに、ヴァンは告げた。
「但し、何百倍の悪戯が返ってくるか分からないから、そこだけは注意してね」
「・・・・・は?」
思わず間抜けた声を出すエアゾルド。
ウィンドゥル、マリアンヌ、イリスザートはやはり来たか、と溜め息をつく。
「ふっふっふっ・・・・楽しみにしていて」
「・・・・・・・・・」
呆然とするエアゾルドを見、カイザは内心で大きな溜め息をついた。
(・・・・知りませんよ、エアゾルド王子。あいつ、やる気満々だから)
彼の企む悪戯は。
下手をすれば、否、恐らく大体ほとんどきっと。
この世に起きるどんな凶悪犯罪も可愛く思えてしまうほど、質の悪いものだから。
ようやくご紹介。
・・・・・・・・王道が好きな私ですが、なぜかキャラクターが王道にならない不思議。