黒い森
クレイト王国、王都ディアマント。
王都の中心に、クレイト王家が住まうディアマント城がある。
隆盛を誇る王城の一部屋に、いつものごとくノックの音が響いた。
「王子、ヴァン王子!朝でございますよ!」
クレイト王国第一王子ヴァン・クレイト・シュライエルの世話役、レオ・ブロッサムは
ため息をついた。
部屋の向こうから返ってくるのは沈黙のみ。
「レオ様」
いつの間にか現れた青年が声をかけた。
金髪碧眼、鼻筋の通った整った顔立ちに高い背丈、と女性受けする容姿の青年。
ヴァンの護衛、カイザ・ルーウィントゥックである。
「おはようございます、カイザ様」
「おはようございます」
挨拶を交わし、部屋の扉を見つめること数秒。
「・・・・ここは私にお任せ下さい。王子の服は準備されているのですよね?」
「はい、こちらに。・・・・毎朝、申し訳ありません」
溜め息交じりの台詞にいえ、と首を横に振る。
カイザに服を渡し、では、とレオは立ち去った。
彼は世話役とは名ばかりで、色々と問題を引き起こす第一王子の雑務係兼三人いる王子たちの起床係でもある。
少しだけ早足で、第二王子の部屋へ向かった。
毎朝大変だろう、とカイザも小さく溜め息をつき、豪華な装飾の扉を開ける。
いつも通りの叫びと共に。
「起きろっ、ヴァンッ!」
閉め切られたカーテンを開け、窓を開ける。
爽やかな朝の空気が入ってくるその部屋には。
「・・・・・・・・ん・・・・・」
未だ毛布にくるまって寝ている王子が一人。
カイザは王子の毛布を容赦なく引きはがした。
ヴァンの寝起きは、すこぶる悪い。
というか、遠慮なく叩き起こさない限り、起きてこない。
(ったく、これだから・・・・!)
第一王子ともあろうものを、護衛である自分で起こさなければならない状況になるのだ。
ただでさえ負担の大きいレオに、これ以上迷惑をかけてなるものかと自ら名乗り出た、という裏話もあるのだが、そこは割愛する。
カイザはヴァンの護衛にして幼馴染でもある。
彼らは自他共に認めるほど仲が良く、お互いのことをよく知っている。
故に。
「ん~・・・・・・寒いぃ・・・・・」
「もう朝だ、とっとと起きろ!いい加減自分で起きられるようになれ!」
「無理」
「努力しろ!」
彼だけが遠慮なく、容赦ない口調で叩き起こすことができるのだ。
まるで駄々をこねる弟を起こすようだ、実家の弟は元気でいるだろうか、と頭の片隅で考えを巡らせつつ、ヴァンの意識が完全に覚醒するまで言葉を重ねていく。
「お前、成人するまで半年切っただろ!いつまで子供のつもりだ!」
「さぁね・・・・成人なんて知らないけど~」
「そんな簡単に終わる話じゃねぇだろ!」
「簡単だよー、俺は一つ歳をとる、それだけだろ?」
「―――ったくっ!取り敢えず起きろ!」
「やだ。寒い」
「・・・・お前・・・・・っ!」
埒があかない。
仕方が無い、と溜め息をつき、彼は告げた。
確実にヴァンが起きるだろう言葉を。
「分かった、そんなに寝ていたいなら寝ていろ。
但し、王と王妃にお前の妻を決めて頂けるよう進言するからな!」
効果は抜群。
瞬間ヴァンは飛び起き、呆れ顔のカイザにおはよう、と声をかけたのであった。
「・・・そんなに嫌かよ、結婚・・・・」
「嫌だ。多分一生しない」
「お前、王になるんだろうが・・・・」
「それでも嫌だ」
ヴァン王子、かなりお気に入りです。自由人です。
カイザは苦労性。ヴァンに振り回されまくってます。
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