序
初めまして、aswadといいます。
ど素人が書いたものなので、生温かい目で読み流してやってください。
一応ジャンルは恋愛ですが、作者本人も本当かどうか悩んでいます。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
「旦那様ぁぁぁぁぁ!!」
「いやぁぁぁ、あなたっ!!」
大きな騒ぎになっている屋敷の前に、一人の人物が立っていた。
黒い布で頭を覆い、全身黒ずくめの、体に対して大きめな服を着た小柄な人物。
昼下がり、まだ日も高いと言うにも関わらずだ。
闇よりも、夜よりも深い漆黒の瞳をしたその人は、屋敷を見上げ小さく笑う。
「Auf Widersehen、ティヴァー侯爵」
くるりと背を向け、黒い人物は歩き出す。
どこからともなく、ガラガラと馬車の音が響いてきた。
「そこの、黒ずくめのきみ!」
声が届いた。
黒い人物は足を止める。
車輪の音が止み、ドアが開いた音がする。
振り返れば、身なりの良い姿をした少年が息を切らせて走ってきた。
頭一つ分以上は背丈が違う少年を、漆黒の瞳が見上げる。
「何者だ」
無表情に、無感情に、中性的な少しだけ高めな声で問うと、息を切らせていた少年は言った。
「エアゾルド・シュライエル・・・・いや、エアゾルド・クレイト・シュライエルだ」
相手の名を知り、漆黒の瞳に驚きが浮かぶ。
「クレイト王国の王子が、何故ここに?」
「エアと呼んでくれないか?身分を知られては面倒だからな」
「・・・・・・・・・・」
黒い人物が呆れ顔になると、エアゾルドは急に真剣な顔つきになる。
「頼みがある」
空気が静まり、黒い人物はエアゾルドを真っ直ぐに見返す。
「長男、ヴァン・クレイト・シュライエルの暗殺を依頼する―――シュヴァルツ・ヴァルト」
まことしやかに流れる、一つの噂があった。
全身黒ずくめの服を着て、黒い布で頭を覆った、漆黒の瞳を持つ暗殺者。気づけば人の群れの中に在り、世間話をしている。
一目見ればすぐにそれと分かりそうな姿をしているのだが、誰も気づかない。
他人に指摘され、そこで初めて気づくのだ。
彼らは口をそろえて言う。
『あまりにも違和感がなさ過ぎる』
それは、暗殺者が人の群れの中にいることであり、黒ずくめの格好のことでもある。
そして、彼らは続けるのだ。
『あの人は本当に暗殺者なのか?』
会話を交わせば一般人となんら変わらない。
何より。
その人物は容姿はおろか、性別・年齢などの素性が全く知られていない。
名も知らぬ暗殺者を探す警察を、とある学者が皮肉って言った。
〝まるで黒い森に隠された黒い木の葉を探し出すようだな〟
いつしか、その暗殺者には異名がついた。
その学者の国の言葉を借りて。
―――Schwarz wald
シュヴァルツ・ヴァルト―――『黒い森』と。
誤字・脱字等がありましたら、遠慮なくご指摘ください。