~天使の涙~
曇った空から雪が降り続くここは、北国にある、とある教会の孤児院だ。
僕、桜川雪斗は、先日、交通事故で両親を失った。
身内はみんな僕を引き取ろうとしなかった。
何故って?
理由は簡単!
僕の眼の色さ。
僕の髪は日本人には典型的な黒髪だ。
でも、眼は違う!
僕の眼の色は、血の様に真っ赤なんだ。
だから皆気味が悪いって今まで差別されてきたし、虐めにもあってきた。
きっとここでもそうだろう。
シスターは、優しそうにしてたけど、僕にはバレバレ!
だって、化物見るみたいな感じで、顔強張ってたもん。
他の孤児の連中も同じ!!
僕の事なんかお構いなし!!
本当、好きでこんな眼の色持って生まれたわけじゃないに・・・・・・。
案の定、僕は、来たばかりで他の子とは、いきなり慣れないだろうからって云う建前の下[一人部屋]に通された。
いっそ、嫌なら嫌って言ってくれた方が楽なんだけどね。
そんなこんなで部屋の片づけを済ませ、廊下に置いてあったトレーに乗った夕食を食べ終えると、外はすっかり暗くなり、雲から月が顔をのぞかせていた。
満月だ!
その時ふっ、と僕は思いついた。
こんな美しい月明かりがあるなら、昼間見た礼拝堂のステンドグラスが美しく輝いているのではないか?と。
それを見逃す手は無いと僕は、黒いコートを着て礼拝堂へと足を運んだ。
もしかしたら、まだシスターが居るかもしれないと、礼拝堂についてから思い至ったが、明りが無いのと人の気配が無いのを確認し、ゆっくりと礼拝堂の重い扉を僕は、開いた。
中に入ると予想通り、いや、それ以上に美しく素晴らしい光景が目に飛び込んできた。
月明かりに照らされるステンドグラスの聖母マリア。
ガラスの乱反射でキラキラと光るシャンデリア。
薄暗くとも月明かりで神秘的な雰囲気を醸し出す礼拝堂は、それはそれは美しかった!
存分に美しい礼拝堂を満喫した僕は、正面のステンドグラスに背を向け扉の方へと向かって歩き出した。
【Sacred light to my cause(聖なる光よ我が元へ)♪
The song of the blessing to his person(祝福の唄よ彼の者へ)♫】
突然、礼拝堂内に歌声が響いた。
振り向くとそこには、長い薄蒼の髪に花飾りで留めた長いベールを被り、真っ白な質の良さそうなドレスと長いショールを身に纏った女性が教壇に座っていた。
良く視ると彼女の背には薄い6対の翼が生えていた。
僕はそんな彼女に思わず魅入ってしまった。
それに気付いた彼女は、ベールの影に隠れていたあまりに造詣が整った美しい顔に極上の笑みを浮かべ、僕に話しかけてきた。
『貴方、私が視えるのですか?』
その問いに疑問を持ちつつも頷く。
彼女はそれにより機嫌を良くしたようで、教壇から飛ぶ様に降りるといきなり僕を抱きしめた。
『嬉しいっ!!私の事を視れる方は、もうこの教会にはいらっしゃらないと思っていたんですもの!!・・・・・・あ!申し訳ありません!突然!お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?』どうやら彼女は何やら特殊な存在らしい。
とりあえず僕は、彼女に名乗る事にした。
「僕は雪斗。桜川雪斗。あなたは?」
『雪斗様ですね?私はソフィアと申します。先程は、とんだ御無礼を。お許しくださいませ』
彼女ソフィアは、僕に深々と頭を下げて謝罪をしてきた。
僕は、慌てて頭を上げる様に言った。
それでもまだ納得がいっていない様子のソフィアに僕はある提案をした。
「それじゃあ、お詫び代わりに僕と友達になってくれる?もちろん様付けは無しで!あ、でも君が嫌ならいいよ。僕、気持ち悪いでしょう?」
僕が、自分の提案をすぐに撤回しようとすると、ソフィアは不思議そうな顔をしながら僕に聞いた。
『どこが気持ち悪いのですか?雪斗さ・・・雪斗は何も気持ち悪く等ありませんわ』
その言葉に僕は驚いた。
そして思わず問返した。
「え?だってこんな眼の色気持ち悪いでしょ?血みたいで。みんなから悪魔の子だって言われていたし・・・・・・・」
それは、思い出したくない過去。
そして、変わらない現実。
しかし、ソフィアは違った。
『眼の色が違うのがそんなにおかしな事なのですか?罪なのですか?侮辱されるべき事なのですか?私は雪斗の眼、とても好きですわ!キラキラしていて、真っ直ぐで、吸い込まれそう。まるで極上のルビーの様です。身の上の評価しか出来ない方々と親しくなられる必要などございませんわ!私が雪斗を認めます!だって雪斗は大切な友達なのですから!!』
ソフィアは、そう言いながら満面の笑みを浮かべて僕の心の闇を振り払ってくれた。
そして、僕はソフィアの背に手を廻し抱きつきながら、泣き続けた。
翌朝、目が覚めるとそこは自分に宛がわれた一人部屋だった。
昨夜の事は、ソフィアは、月が魅せた幻だったのかと思いだしたその時、手に何かを握っている感触を感じ、開いてみる。
するとそこには、ソフィアのベールの留め金をしていた花飾りが一つあった。
夢ではない!
昨日の夜の出来事も!
ソフィアも!
また、逢える!!
これが、僕と僕の愛する天使との始まりの物語だった。
僕は少しでも長く、少しでも近くに、ソフィアを感じられるように。
側にいられるように、神父になって、人としての生涯を彼女に捧げた。
To her love(彼女に愛を)
To you a blessing(貴方に祝福を)
The ease that is eternal for us(私達に永久の安らぎを)