母の裏切り
「あんた人の男になにやってんだよ!」
お母さんの髪の毛を思い切り掴んだ。
「痛い!!」
お母さんは嫌がる太一に無理やりキスしようとしていた。
「止めろ美咲!」
太一が止めにかかる。
「いいから黙ってて!おまえなんなんだよ人が居ない間に!」
「なぁに美咲そんな怒っちゃって。いやだわぁ」
なんてのんきに言ってる。それでまたイライラして
「ふざけたまねしてんじゃねぇよ!」
「美咲!お酒飲んで酔ってただけだよ!しょうがないよ」
待てよ...?お母さんは飲み屋で働いている。
いつもお酒を飲んでくるけど、お酒臭いだけで酔った姿は
見たことない。お母さんはすごくお酒に強い。
なのにそこらへんで買ってきた缶ビールで普通酔う?
こいつ、酔ってるふりしてる。
まじでうぜぇ
「太一?お母さんはお酒にすごっく強いんだよ」「え?そうなの?」
「毎晩飲み屋で働いてるんだけど酔ってる姿一度も見たことないよ」
「え?それ本当?」「嘘付くわけないじゃん」
「あらぁばれちゃった?」
やっぱりこいつ嘘ついてたんだ。
「なんなんだよ!出て行け!」
「ここは私がお金を払って住んでいるの。居候のくせに
なめた口きくんじゃない!」
「なんで今まで優しかったのに...」
「なんで優しくしていたのか分からないの?」
え?この人は本当にお母さん?
「いい会社に就職していい給料貰って私に
恩返ししてほしかったのよ。」
は?この人何言ってるの?
いい会社に着かせて給料を私から搾り取ろうとしていたの?
最低。最低。最低。最低....
私は無意識のうちに台所から包丁を取り出し、
高くかざしていた...
「グサッ!!」
鈍い音が部屋中に響き渡る。
私が手に握った包丁が血だらけに染まる。
それから私の腕から床へと血が流れる。
状況が把握できない。
私は確かにお母さんに刺したはずなのに...
「こんなことしちゃだめだ!」
太一がぐったりしながら叫んだ。
そのまま床に倒れた。
なんで?なんで?
お母さんはビックリしながらこちらを見ている。
そして、慌てて荷物をまとめ何処かへ逃げていった。
私が刺したのに。
あいつには罪がないのにいい機会だと思って逃げたのだろう。
「美咲...」
太一の声はもう虫の鳴く声ぐらいに弱々しくなっていた。
いけない。こんなことしている場合じゃない。
我に返った私は急いで救急車を呼んだ。
太一が救急車に乗せられる。しかも私のせいで。
後悔と母への憎しみでいっぱいになった私は
その場から逃げるように走った。無我夢中で。
どうしていいのかわからなかった。
ただ、今の自分から逃げたかった。
いくら逃げても私は私。
どうすることもできない。
そう気づいたときに私は溜めていた涙を思いっきり開放した。
泣いても泣いてもまだ出てくる。
私はまた、自分を傷つけた。
太一ともうしないって約束したのに。
ごめんね太一。
リストカットだけが私に生きている証拠を与えてくれた...
私は今病院に来ている。太一が許してくれるかどうかは
分からないけど、やっぱり直接謝りたい。単純にそう思った。
「ガラガラガラッ」
部屋に響いた。太一のベッドは一番奥。
カーテンをしているから中は見えない。
急に怖くなってきた。捨てられるんじゃないか。
そう思った。でも今謝らなかったら後悔する。
私は強くなるんだ。
もう逃げない。泣かない。
強くなる...




