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第八話:真っ赤なスタンガン

配達員に代金一万五千円を渡すと、圭太はさっそくスタンガンの入った箱をリビングルームに持っていった。

テーブルの上に置き、胸の高鳴りを感じながらじっくりと眺めてみる。真っ赤な箱だ。縦二十五センチ、横二十センチ、厚み五センチほどの大きさで、箱はぴたりと張りついた透明なビニールに覆われている。ビニールには圭太の住所氏名が書かれたシールが貼ってある。せっかく真っ赤な箱なのに、白いシールが邪魔だ。全身真っ赤に染まったきれいな姿を見たくて、圭太はビニールをはがした。

「美しい」

表、裏、横、すべて真っ赤だ。無駄な文字や、絵柄がどこにもない。差出人の名前も書かれていない。全身真っ赤の箱の美しさにしばし見とれてしまう。この美しい箱の中に、これから女性達を次々と襲うであろう、スタンガンが入っているのだ。そう思うと圭太の心臓は高鳴り、早くも女性達が失神して倒れこむ姿を想像する。

「とてもきれいな箱だ。傷つけないように大事に開けよう」

圭太は両手をそっと箱の両脇にあてて、フタを静かに持ち上げた。フタは音もなくすっと上に浮き上がる。

「意外と小さいんだな」

開けられた箱の中央には、タバコの箱とほぼ同じ大きさの真っ赤なスタンガンが置かれていた。周囲には純白の綿が敷き詰められている。真っ赤なスタンガンと真っ白な綿のコントラストが美しい。スタンガンの小ささに驚いた圭太であったが、その鮮やかな赤い塗装に目を奪われ、すぐに気に入ってしまった。さっそく手にとってみる。

「けっこう軽いな。電池を入れればもっと重くなるか」

綿に埋もれていた電池を取り出した。普段目にする円筒状の電池ではなく、四角形の箱型電池だ。これも真っ赤だ。電池まで塗装するとは、「確実に撮影」サイトの管理人は細かいところまで手が込んでいる。スタンガンの底部をスライドさせて、電池をセットする。電池の重みが加わってスタンガンの重量感が増す。翻って本体先端部を見てみると、中央に内向きの電極が二本、その両端に外側へのびる電極が二本、計四本の電極がある。この電極だけは銀色だ。ここから放電されるのだろう。

スタンガンを右手でかるく握ってみると、親指にボタンがあたる。これがトリガーだろう。このボタンを押せば、先端部の電極から放電が始まり、目標を打ち倒してくれるはずだ。反対側の人差し指にはスライド式のスイッチがあたる。スイッチ部の上下には白い文字で「最強」「最弱」と書いてある。スイッチを上にスライドさせると「最強」、下にスライドさせると「最弱」となる。この文字が意味するのは何なのか。威力が変わるということか。それを確かめるため、圭太はいよいよこのスタンガンの試し撃ちをすることにした。

腕を上げて高く構えて、スタンガンをなるべく体から離す。人差し指をスライドさせ、まずは「最弱」にスイッチを合わせる。期待と不安を混じえながら、いよいよ親指でトリガーを押す。

パチ……パチ……パチ……

あっけいないほど小さな音を出しながら、白く弱々しい閃光が電極から放たれた。

消えかかりそうな夏の線香花火のような頼りない稲光だ。スタンガンの知識のない圭太でも、「最弱」には人を失神させる威力はないことがすぐに分かった。圭太は試しに自分の左の人差し指を閃光に当ててみた。

「少しだけピリッとくるな。こんなんじゃ女なんか倒せやしない」

「最弱」では触った瞬間、皮膚の表面にわずかに痛みが走るだけだ。これぐらいなら慣れればいくらでも触っていられる。女性にこれを浴びせてみたところで、すこし驚かせる程度だろう。失神させるなど到底不可能だ。

圭太はもう一度腕を高く上げてスタンガンを体から離すと、いよいよ本番の「最強」にスイッチを合わせてトリガーを押した。

バチバチバチバチバチ!!!

「うわあ!!」

青白いすさまじい閃光と、想像をはるかに越える轟音に驚いて、圭太は思わずスタンガンを床に落としてしまった。「最強」が放つ閃光は恐ろしく、明るく、激しく、嵐の日に空を一瞬青く染める稲光が、自分の目の前に落ちてきたようだった。このまま手で持っていれば死んでしまうと恐怖を感じ、反射的に手を離してしまった。

「すごい威力だ。これなら女は一発だろう」

「最強」の威力がすさまじいことはわかった。だが気になることがる。これだけの稲光を起こす「最強」を女性に浴びせた場合、相手は死亡するのではないか。

「死なれては困るんだ。警察の世話にはなりたくない」

このスタンガンの威力の目安となるデータがないか、説明書を探してみる。箱の中をのぞいてみると、スタンガンがはめこまれていたその下に、赤いカードが置いてあった。カードには白い文字で何か書いてある。さっそく手にとって見てみる。

「最弱:少ししびれます」

「最強:かなりしびれます」

抽象的であいまいな文章だ。数値を挙げるなりして威力の目安を教えてほしい。しかし、カードにはこの二文しか書いていない。「最強」だとかなりしびれることは、あの稲光を見れば感覚的に理解できる。しかし、具体的にどの程度の威力なのかが知りたいのだ。「最強」だと相手の女性を死なせる可能性があるのではないか。それとも稲光が派手なだけで、人を死なせるような威力はないのか。そのあたりを示す情報がほしいのだ。

「それにしても『最強』と『最弱』とはずいぶん極端な設定だよな。あいだに『中間』とかも設定してくれればいいじゃないか。なんでこんな両極端な設計にするんだ。危なっかしくて下手に使えないじゃないか」

このスタンガンを真っ先に浴びせたい相手として浮かぶのは、舞である。しかし、このスタンガンは舞を死なせる可能性がある。舞に欲情はすれども、それ以上に愛着がある。失神はさせるが致命傷は負わせない、という確認をとってからでないと、舞に向かって使うわけにはいかない。彼女の体を思う存分触りたいが、必要以上のダメージを与えるのは気が引ける。できれば無傷で、ほんの数分間失神してくれればいいのだ。このスタンガンの威力――特に「最強」の威力――を確かめなければならない。

「そのためにはまず、死なれてもかまわない相手に実験をするしかない。しかしその実験で、相手に死なれたらどうする?俺は殺人犯になる。そうなればクラスメイト達に一生笑われることになる。特に芳樹に」

スタンガンについての基礎知識を仕入れるため、圭太はPC室に向かった。

パソコンを起ち上げ、スタンガンの情報を集める。一通り目を通してみる。最近のスタンガンは小型化が進んでいて、タバコの箱大というのはごく標準的な大きさだと分かった。真っ赤なスタンガンの小ささは別に異常でないことが分かり、圭太はホッとした。市販されているスタンガンの中で、威力を二段階に切り替えられるものはないようである。この点では、真っ赤なスタンガンは異色の存在ということになる。さらに情報を集めてみると、極めて重要なポイントにたどりついた。

「スタンガンの効果は、相手に押し付ける時間に左右される」

スタンガンが相手に与えるダメージは、単純に電圧の高さで決まるのではなく、相手に電極部を押し付けてから、そこで何秒間トリガーを押し続けるかによって大きく変るのだという。大体の目安として、電極部を体に押し付けてから五秒以上トリガーを押せば、相手は立ち上がれなくなるようだ。

「これはあくまで市販のスタンガンの話だ。俺の真っ赤なスタンガンはどれぐらいか。市販のものよりは威力が高く設定されているだろう。まずは三秒を目安にやってみよう」

あとは実験をするのみである。




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