第三話:虚栄の積み重ね
奇妙なホームページに出会ってから数日後、圭太の周りにはもう一つ、奇妙なことが起こった。
肥え太った巨体を見せびらかして幅をきかせ、圭太への嫌がらせを繰り返してきた芳樹が、突然、学校に来なくなったのである。
不信に思った圭太が担任教師に確認すると、芳樹は夏風邪をこじらせているとのことであったが、とても信じられなかった。
きっと何か企んでいるに違いない。圭太は芳樹を疑り続けた。
次の日も、その次の日も、芳樹は学校には来なかった。
七月下旬、一学期最終日。
待ちに待った終業式がやって来た。
広い体育館に全校生徒五百名が整然と並び、ステージでは、マイクの前で校長が熱心な講話を行っている。
夏休みを控えて機嫌が良いのか、退屈な講話を聞かされても、生徒達の表情は明るかった。
圭太は、背丈順に並んだクラスメイト達の、前から三番目に並び、時折、校長の話にうなずく仕草を見せたが、頭の中では夏休みの間、女性達を十人以上撮影するのを目標とし、痴漢は百件以上やろうと考えていた。女性達の下着姿や、尻の感触を想像するのに夢中の圭太であったが、終業式が終わって教室へ戻り、成績表を担任教師から渡されると、その表情は一変した。
手渡された成績表は、ページ一面「もっとがんばろう」で埋め尽くされていた上に、教師による批評欄には、「集中力を極端に欠く」という辛辣なコメントが書き込まれていた。
これに怒り狂った圭太は、担任教師に、このような成績をつけるのは全く不当であると抗議し、さらに、批評欄のコメントの変更を要求したが、まともに取り合ってはもらえなかった。
放課後、職員室に行ってもう一度抗議したが、やはり聞き入れられなかった。
夏休みの開始に胸躍らせて校門を出て行く生徒達の中で、圭太は一人浮かない表情をしていた。
家庭教師の授業を拒み続けた三ヶ月あまりの中で、机に向かって勉強をした日は一日もなかったが、だからといって、成績がこれほど下がるとは思っていなかった。この成績表を両親に見せれば、せっかく貸し与えられた高級マンションも、勉強には何の効果もないとして、解約されてしまうかもしれない。毎月三十万円の小遣いも、減らされてしまうかもしれない。
「圭太君、成績表見せてよ!」
クラスメイト達が近寄ってきた。この成績表を見られれば、いつもの理屈もさすがに通じないだろう。
圭太は何も言わずに、走って逃げ出した。
駆け足でマンションへ戻ると、オートロックの入り口の前で、夏風邪で寝込んでいるはずの芳樹が立っていた。
圭太がかねて疑っていた通り、芳樹は肌つやも良く、健康そのものといった感じで、Tシャツとハーフパンツで巨体を包み、どこかスッキリした顔をして、圭太を待ち構えていた。