第十五話:手錠購入
深夜十二時。圭太のマンション。PC室。
圭太はパソコンに向かっていた。暗い部屋に、パソコンの起動音がかすかに響く。部屋はしんと静まり返っている。
赤い光が、圭太の顔を照らした。
『確実に撮影』
ようこそ。我がサイトへ。
仲間がいてくれて嬉しいよ。
大人も子供も私は区別しない。
皆、存分に、性欲を満足させるべきだ。
「入り口」
「舞さん……」
圭太はマウスを動かし、「入り口」をクリックした。
三つの選択肢が表示された。
「撮影方法」「撮影手段」「撮影技術」
「撮影手段」に矢印を合わせ、クリックした。
「老人」「大人」「子人」
「子人」をクリックした。
「金銭」「合意」「強制」
「強制」をクリックした。
三つの選択肢が現れた。真っ赤な画面に浮かぶ、三種の物騒な道具達。その姿は、冷徹な処刑執行人を思わせた。
「スタンガン」「手錠」「睡眠薬」
「睡眠薬を買いたいんだ」
圭太は矢印を、「睡眠薬」に合わせてクリックした。すぐに画面が切り替わった。
『買い物カゴ』
ただいま「睡眠薬」が一箱入っています。
現在のお買い上げ金額は、一万五千円です。
あなたの氏名・郵便番号、住所を入力してください。
「野田圭太」「XHY−GIMS」「T県T市……」
圭太は氏名・郵便番号、住所を入力した。
画面下側に「注文確定」の表示がある。
「注文確定」をクリックした。以前は、ここから「徐々にエスカレートしてください」の画面へ飛んでしまい、睡眠薬を買えなかった。
今夜は上手くいくだろうか――。圭太は唾を飲み込み、真っ赤な画面に身を乗り出した。
画面は、なかなか切り替わってくれない。
(早く変われ。『注文ありがとうございました』と表示されろ)
まだ、画面は切り替わらない。
「睡眠薬を買うんだ」
圭太が呟いたとき、画面が切り替わった。思わず覗き込んだ。真っ赤な背景に、白い文字が書いてあった。
「注文不可」
「徐々にエスカレートしてください」
圭太は、椅子にもたれかかった。
「やっぱり、ダメか。なぜ、睡眠薬を買えないんだ!」
画面に向かって、圭太は問いかけた。このサイトはスムーズに買い物が進まない。苛立ちが募る。
画面は無表情に、「徐々にエスカレートしてください」という文字を、圭太に突きつけていた。
「注文不可」
「徐々にエスカレートしてください」
(睡眠薬が欲しいのに)
画面が唐突に切り替わった。以前と同様、何の断りもない。圭太を無視して、自動的に切り替えられた画面には、物騒な道具が一つだけ表示されていた。
「手錠」
「今度は手錠か」
圭太は画面の向こうの、サイトの管理人に向かって言った。
「分かったよ。手錠を買おう。徐々にエスカレートしていけばいいんだろう?」