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第一話:圭太

 平成十八年七月、T県T市内のゲームセンターに、少年、野田圭太のだ けいたは二人の女子高生を連れ込んだ。

 学校が終わってから、女性を求めて市内を歩き回り、成功するかどうかも分からない声かけを熱心に続け、時に露骨に嫌悪を示されながらも、繁華街から路地裏まで徘徊すること四時間。圭太はようやく、地元のT県立高校の制服を着た女子高生二人組にありついたのである。

 圭太は彼女達と三十分ほどゲームに興じた後、あの手この手で口説き落とし、男子トイレ内に人気がないのを確認してから、二人をトイレに連れて行った。さらに彼女達をボックス内に押し込むと、壁に手をついて立たせて、自らも中へ入り、鍵をかけた。

「白!」「ピンク!」

 圭太はそう叫ぶと、二人のスカートをめくり上げた。

 左の子の下着は白で、右の子の下着はピンクだった。

「やった!色が当たった!」

 圭太は目を見開いた。そして、持参したデジタルビデオカメラでどちらを先に撮影するか、しばし考えた。顔の好みなら左の子だし、スタイルの良さなら右の子であった。ボックス内の床に膝をつき、両手でスカートを持ち上げたまま、ああでもない、こうでもないと悩んでから、ようやく決心した。

「白いパンツの方をまず撮ろう!」

 背負い式のバッグから、ビデオカメラを取り出した。少年の持ち物にしては不釣合いな、時価二十万円相当のビデオカメラを右手で構え、液晶画面で映り具合を確認しつつ、左手で少女のスカートをめくり上げては、白い下着にレンズを向けて撮影にいそしんだ。

 次に、ピンクの下着をはいた子の撮影に移ったが、五分ほどでバッテリーが切れてしまった。圭太はこれ以上の撮影は断念して、ゲームセンターを後にした。


 翌日、圭太は何食わぬ顔で学校へ行き、教室の自分の席に座ると、登校してきた友人達に挨拶をしながら、昨日の女子高生二人組の撮影が、バッテリー切れによって中断されたことを、今更ながらに悔やんだ。

 充電状態を確認せずに家を出たという失態があるし、長時間の撮影をするのならば、みだりに液晶画面は使用せずに、節電するべきであった。二十件の声かけをして、付いてくるのが一人か2人。ビデオ撮影まで至るのは、さらにその中の数分の一。それが圭太の平均的な成果だったから、撮影ミスは許されないのである。

 だが、バッテリーを十分に用意したところで、納得のいく撮影ができるわけではない。昨日のようにトイレ内の撮影では、いつ男性客に気付かれるか知れたものではなく、下手をすれば警察に通報される可能性があった。さらに、圭太のような少年が、夜の町をうろついて女性達に声をかける姿は、おせじにも自然とは言えなかったし、これまた警察に通報される危険性があった。

 圭太はクラスメイトに向かって、自分は大金持ちの資産家の息子だと自慢していた。全国有数のエリート校へ進むことが約束されており、今は超一流の家庭教師を付けて、毎日勉強にいそしんでいると吹聴していた。

 そんなクラスメイトへの建前がある以上、圭太はどうしても、警察に補導されるなどという失態を演じるわけにはいかなかった。かといって、女性達の撮影をやめる気は少しもなかった。

(トラブルがあっても、余裕を持って撮影を続けられる。人目を気にすることなく、思う存分、撮影に没頭できる。そんな、確実な撮影方法がないだろうか)


 午前の授業が終わり、給食をたいらげ、昼休みになった。

 永山芳樹ながやま よしきが、圭太の席に近づいてきた。芳樹の手には、大人向けのファッション雑誌が握られている。芳樹はおもむろに雑誌を広げ、女性モデルの水着写真――彼らにしてみれば随分大きなお姉さんに見える――を、圭太の眼前に広げた。圭太の目に、白いビキニを着た、女性モデルの胸の谷間が飛び込んでくる。圭太は、体が一瞬熱くなるのを感じた。しかし、芳樹は圭太の興奮をからかうように、ページをすぐに閉じた。芳樹の顔は「少ししか見せてやらないよ」と得意そうだった。圭太は頭に血が上るのを抑えながら、心の中で、「この豚!」と唱えた。

 圭太は小太りで肥満を気にしていたが、芳樹は圭太顔負けの超肥満児であった。

 二人は、今年四月のクラス替えで晴れて同級生となったが、席替えをしても隣り合うようなことはなかったし、遊びの嗜好が合うわけでもなかった。それでも芳樹は、圭太と無関係でいる気は少しもないようで、圭太の容姿にケチをつけては、あの手この手の嫌がらせを四月早々から始め、現在においても、彼の嫌がらせは少しも衰えることはなかったのである。


 放課後、圭太は自分専用の家賃三十万円の高級マンションへ帰宅した。このマンションは、その豪華さから不動産屋の間ではよく知られた物件で、市内の富豪達が多く入居し、五階建てで、全部で二十部屋あり、圭太の部屋は三階の302号室であった。

 圭太はドアを開けると、リビングを通り過ぎて、PC室と自ら名付けた八畳間の部屋へ入った。そして、時価二十五万円相当のデスクトップ型パソコンを立ち上げると、昨日撮影した女子高生二人組の映像の編集に取り掛かった。まずは白い下着の少女の映像が手際良く編集されて、DVDに記録された。ケースにはタイトルが書き込まれた。「T県立高校三年二組山内真由美」。圭太は、少年とは思えぬ慣れた手つきでタバコに火をつけ、引き続いてピンクの下着の少女の映像の編集に取り掛かった。これは五分と経たずにバッテリー切れになった問題作で、映像はすぐに終わってしまった。仕方なく、DVDケースに「T県立高校三年二組北原陽子(途切れる)」と書き込んだ。

 圭太は二本目のタバコに火を付け、二十畳の広いリビングへと移り、高級ソファに座ると、出来上がったばかりのDVDを、これまた高価な大型ワイドテレビで鑑賞した。

ここで思い出されるのは、昼の芳樹の一件であった。圭太はここ半年あまり、女子高生を始めとして、数多い女性達に声をかけ、自作DVDを製作してきた。作品の中には、女性達の下着が映っているものも多い。それなのに芳樹ときたら、雑誌の水着写真を見せびらかして――しかも、芳樹が見せた水着モデルよりも、今、画面に映っている女子高生の方がよほど美人なのにも関わらず――悦に入っていた。

(この映像を見たら、あいつはどんな顔をするんだろうか?)

 ワイドテレビには、スカートをめくり上げられた女子高生の姿が映し出されている。少年の圭太には、十分刺激のある映像だった。


プルルル……。


 ソファの前に置かれているガラス張りのテーブルの上で、電話が鳴った。圭太はリモコンでテレビのボリュームを下げると、白い受話器を取った。


「もしもし、圭太だけど」


「お母さんだけど、今、家庭教師の先生がこっちに来てるの。圭太の部屋へ向かわせていい?」


「気分が乗らないから、家庭教師はもう要らないって言ったでしょう?」


 テレビ画面では、白い下着の女子高生の映像が終わった。圭太は「T県立高校三年二組北原陽子(途切れる)」のDVDをセットする。


「俺の部屋には誰も入れたくないんだよ」


 圭太は乱暴に受話器を置い、て母との会話を打ち切った。ソファに寝転んで三本目のタバコに火をつけると、リモコンを掴んでテレビのボリュームを元に戻し、口から煙を吐きつつ、テレビ画面を眺めた。


 圭太がクラスメイトに吹聴していた話の中で、大金持ちの資産家の息子であるというのは紛れもない事実であった。圭太の実家は百坪を超える三階建ての大豪邸。圭太用の子供部屋など、複数用意することも可能だった。だが、圭太の父は、勉強に専念できる環境を作るためだと、この檜風呂の付いた高級マンションを息子に貸し与えた。さらに三十万円の小遣いを毎月与え続け、その上、名の知れた家庭教師も雇った。圭太の父の資金力は、これだけの出費があっても、実家の生活になんら影響がないほどであった。



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