死神の住処
蝉の声が鳴り響く真夏の日、太郎は真剣な面持ちで座っている祖父の前に正座して座っていた。どうにも大事な話があるからというらしい。しかもそれは一定年齢になった村の子どもたちに毎年話されていることであった。
「死神の住処?」
太郎は聞き返した。
「そうじゃ。村の神社があるじゃろ。その神社裏の山を登った先に少し開けた場所があるのじゃが、そこには絶対に入ってはいかん」
「入るとどうなるの?」
太郎は祖父に聞いてみると、
「その場所に入ると、みんな死神に魅入られてしまって、死んでしまう」
祖父はしわしわの声でそう言った。
太郎は真夏の怪談話みたいに感じたが、祖父はそれに気づいたのか、
「冗談ではないぞ。何年か前、ふざけて入った村の若者が三人入って行ったが、全員死んでしまった。しかも、あの場所に入ればどんなやつでも死神に魅入られてしまうから、わし等も骨を拾うことができない」
「そうなの?じゃあ、今も」
太郎は恐る恐る祖父に聞いてみる。
「そうじゃ。ふざけて入った若者はもちろん。あの場所に入った奴らの骨はあそこに残ったままじゃ」
太郎はつばを飲み込んだ
「これは何百年も守られている村の掟じゃからな。良いか、絶対に神社裏の山には入ってはいかんぞ。良いな」
と、祖父が太郎の目をまっすぐに見つめて言った。
「うん。わかった」
太郎は大きくうなずいて、祖父と指切りげんまんをした。
そして、その後すぐに部屋の奥から母が昼飯を知らせる声が響き、太郎は祖父と共に昼飯を済ませた。
昼飯を食べた後、太郎は外に飛び出していった。
「あ、いたいた」
太郎が昼飯の後にいつも行く公園に向かうと、学校の友人が二人いた。
「今日は遅かったな」
「そーだぞー、遅刻だぞー」
恭平と裕太が意地悪そうな表情で言ってきた。
「ごめんごめん」
太郎は手のひらを合わせて二人に謝った。
「何やってんだよ、まさか寝てたのか?」
恭平が聴いてきた。
「えっと、じいさんの話を聞いていたんだよ」
太郎が答えると、
「なんだ?また太郎じいさんの世間話に付き合ってたのか?」
裕太が呆れたような表情でいい、「太郎のおじいさんは話が長いんだよな」と、愚痴を言った。
「まあ、そんな感じかな。なんか、死神の住処?の話を聞かされた」
「死神の住処?」
恭平と裕太は声を合わせて言った。
「なんか、神社裏の山を登った先にあるんだって。なんか、下手な怪談話よりも怖いなって感じたな」
太郎が身体を震わせて言うと、
「へえ。ねえ、せっかくだからその死神の住処って所に行ってみようぜ」
恭平が提案してきた。
「お、いいじゃん。夏だし、怪談の真偽を確かめるか。水遊びだけじゃ物足りないからな」
裕太もその提案に乗った。
「ええ、怖いのヤだよ。それに絶対に入っちゃだめだって、念押しされたし、怒られたらどうすんの」
太郎は祖父の言葉を思い出し、乗り気ではなかった。しかし、恭平は
「怒られたら、その時はその時だよ。大丈夫だって」と言い、
「もしかしたら、村の大人たちがお菓子を大量に隠しているかも」と裕太が言った。
恭平も裕太もやると言ったら、聞かない性分である。
「ほら、お前も本当は気になるだろ?行こうぜ」
と、恭平が太郎に聞いた。正直、気になっていた。
「わかった。行くよ。でも、ちょっとだけね」
太郎は好奇心に負けて、行くことにした。
そうと決まれば、三人は目的地の神社へ行くことにした。神社は三人がいた公園から徒歩で二十分のところにあった。
「ついた、ついた」
「周りに大人はいないな」
三人は周囲に大人がいないことを確認して、神社裏の山に入った。
「うわあ、竹がいっぱいだよ。こんな所、入れるの?」
太郎が不安そうに言う。
「こんなのかき分ければいいんだよ」
恭平が竹を手で横に分けながらずかずかと歩いて行った。
「ん?なんかあるよ」
裕太が奥に目を向けて言った。
「壁?」
生い茂る竹藪の奥に鉄網が左右に広がっていた。
「なんだ、行き止まりじゃん」
恭平が残念そうに言った。
「待って、あそこ」
裕太が右を見てみると、ドアがあった。
三人がそのドアに近づいてみた。
「これなんだろう?」
裕太が指を指した鉄網に何やら模様があった。
「なんだろう?黄色と黒色の部分があるね」
太郎がそう言い、三人は錆び付いて、色も落ちている看板をまじまじと眺めた。
「もしかして、死神のマークとかかな」
恭平は秘境に潜り込む探検隊のように目を輝かせて言った。
「ラッキー。鍵かけてないじゃん」
恭平がうれしそうに言いながら、中に入った。その後を裕太も続いた。太郎は何か言い知れぬものを感じていたが、それよりもその先が気になるという思いが強くなっていた。
「なあ、誰が一番先に死神の家に着くか競争しようぜ」
恭平が言った。
「いいじゃん、やろうやろう」
裕太もそれに賛同した。そして、恭平が合図をして、二人は走り出していった。
太郎は登り疲れ、走る気にはなれなかった。
二人が走り出してすぐだった。
「うっ、おえええええええええ」
遠くから何か液体が出る音とうなり声がした。
「おいおい、なんだよ、恭平。つかれたの、、、」
裕太が茶化そうと言いだした時、裕太も地面に倒れた。
「おえええ」
太郎の前を走っていた二人がゲロを吐き、倒れた。
「二人とも、どうしたの?」
太郎は近づこうとした。
「あれ、なんか、世界が回って、、みえる」
太郎はこれ以上前に進んではいけない。これ以上この場所にいてはいけないと感じ、急いで、山を下りることにした。
「二人とも待ってて、すぐに誰か連れてくる!」
太郎はめまいで倒れそうになりながら、頑張って下山した。
「おじいちゃん!おじいちゃん!」
太郎はなんとか家に着き、祖父を呼んだ。
「なんだ、なんだ。おい、どうしたんじゃ」
祖父は汗だくで来た太郎を見て、驚愕した。なぜなら、鼻血を大量に出し、顔色も悪かったからだった。
「おじいちゃん、きょうくんとゆうくんが山に行って、倒れちゃった」
祖父は全てを察した。
「お前、住処に行ったのか。死神の住処に行ったのか」
祖父は太郎に詰め寄った。できれば嘘であってほしかった。
「ごめんなさい。気になっちゃって、行っちゃった。ごめんなさい」
祖父はその言葉を聞き、腰が抜けそうになるが、ひとまず、帰ってきた孫を治療しようと、奥の間にいる母に預けた。
太郎はそのまま、近くの病院に行くことになった。
祖父は恭平と裕太の家に行き、事情を説明して、二人の父と共に現場に向かうことにした。
祖父たち三人は鉄網のところまで来たが、遠くに恭平と裕太が倒れていた。
恭平と裕太の父は自分の息子を確認し、行こうとしたが、祖父に止められた。
「だめじゃ。あやつら、この一線を越えてしもうた。超えてしもうた以上、もう助からん。」
祖父の言葉に恭平と裕太の父は絶望した。
「そんな、どうにかならないのですか」
裕太の父がすがるように祖父に聞いた。
「どうにもならん。なんとか助けようとも、遠すぎる。それにわし等もここに何分も居ると、死神に魅入られてしまう。ここでお別れじゃ」
恭平と裕太の父も村の禁忌をちゃんと理解しているからこそ、なおさら絶望した。
「何百年も続く禁忌を犯しおって、馬鹿ものめ、、、」
祖父は無念に感じた。
後に太郎も病院のベッドで血を大量に吐いて亡くなった。
――――――――――
「市長、本当に良いのですか?住人からはまだ根強い批判がありますが」
スーツ姿の秘書が中年の小太りの市長に言った。
「誰も手を挙げないから、仕方なく手を挙げたんだ。それに、手を挙げることで、中央のお偉いさんに恩を売れるし、補助金という名目でお金が大量に町に入るんだ。それを適当に市政で使って、あとは懐に入れるんだ。お前にも分け前をくれてやるよ」
小太りの市長はそう言いながら、山の麓から工事の様子を見ていた。
「でも、他に誰も手を挙げないのは分かりますよ。あんな事故がありましたし。それに自分も地元ですからね」
秘書は複雑な表情で言った。
「ところで市長、政府からはこの使用済みのものをどのように処理するかは、ちゃんと聞いているんですよね?」
秘書は市長に基本的なことを聞いてみた。
「ん?そんなもの、適当に埋めとけばいいだろ。時間が解決してくれるんだろ?」
秘書は呆れた。これから先、何百年という歴史でいったい何人の罪なき人々が、または何も知らない人々が犠牲になるのか不安になった。
竹が生い茂る山を囲むように鉄網が伸びていた。鉄網には真新しい看板があり、そこには黄色の背景に黒の三つ葉が黒丸を中心に広がるマークが描かれてあった。
完
読んでいただきありがとうございます!
ちょっと風刺も含めた作品となりましたが、楽しんでいただけたら幸いです。




