重すぎる立場
俺は、
このジュノという自称妖精が言っている言葉の意味がわからなかった。
時間を常に持て余すなか、転生物のラノベなどは何百冊と読んだ。
ひきこもりが世界を救う設定の話もいくつも読んだ。
若干面白そうだなと思ったこともあった。
でも、
現実として、俺にはムリだと思っていた。
人が苦手なんだ。
コミュ力が圧倒的にない。
ムリだ。
「ちょっと待ってくれ。俺は自宅警備員、つまりひきこもりだ。魔王なんて討伐できない」
俺は言った。
「えっ、なんで?暇でしょ」
ジュノは不思議そうに尋ねた。
「暇じゃない。好きなラノベも見たいし、アニメも見たい。やりたいことは山ほどある」
俺は言った。
「えっ?でも……もう見れないんじゃない?」
ジュノは少しいじわるそうに言った。
俺は部屋の扉を開ける。
相変わらずトイレのままだ。
窓を開ける。
窓の外は蔦で覆われたままだ。
「ここから出られそう?」
ジュノはニタニタ笑っている。
「お前がやったのか?」
俺はジュノを睨みつけた。
「私じゃないわ。ただあなたは世界のひずみに巻き込まれたのよ」
ジュノは笑っている。
「こんな蔦。俺が取ってやる」
俺はクローゼットから昔に使っていた皮の手袋を取り出し、それをはめ、窓の蔦を引きちぎり始めた。
ジュノは俺の周りを飛び回り、様子を観察している。
「無駄よ。その蔦は回復能力が異常に高いヘクソカズラ。大化ヘクソカズラよ」
ジュノは鼻を押さえている。
俺は10分ほど、
蔦を引きちぎったが、再生するたびに強固になっていく気がする。
「だから無駄よ。その蔦は切れば切るほど、硬くなるわ」
ジュノは鼻を押さえている。
その一言に俺は、
気力をへし折られた。
「こんな状態で魔王討伐なんかムリだろ。
外にも出られないのに」
俺はジュノを鼻で笑った。
ジュノはパソコンを指さす。
「それで救えるわ」
ジュノは言った。
「パソコンで?
何を言っている。
インターネットもつながらないんだぞ。
それにどう救う」
俺は尋ねた。
「じゃあ、それに触ってみなさい」
ジュノはパソコンを指さした。
俺はパソコンに触れる。
すると見知らぬ蝶々のアイコンがあった。
「それに触ってみなさい」
ジュノは蝶々のアイコンを指さした。
ウィルスじゃないだろうか?
俺は警戒し、そのアイコンをウィルススキャンしようと、カーソルを合わせた瞬間、
別の画面が開いた。
そこにはどこかの世界が映っている。
それは、
魔王軍が侵攻した世界のなれの果てだった。
俺は言葉を失った。
(はぁっ。あっ。ああぁー)
ふと声の方を見ると、ジュノが顔を紅潮させながら、身体を押さえている。
「どうした。大丈夫か?」
俺は尋ねた。
「……はぁはぁ、
大丈夫じゃないわ。早く閉じなさい」
ジュノはパソコンを指さした。
俺は別に開いた画面を閉じた。
ジュノは息を切らしている。
「あの画面はいったい?」
俺は尋ねた。
「あれは私が来た国のそう遠くない未来よ」
ジュノは答えた。
未来予知か……。
「それで君に起きた現象は?」
俺は尋ねた。
「……あれはね。
身体がおかしくなっちゃうの。
なんかくすぐったいというか、
ヘンな気持ちになるというか」
ジュノは答えた。
まったく意味がわからなかった。
「あの画面を見ると、ああなるのか?」
俺は尋ねた。
「どう言ったらいいのかしら。あっちの世界のモノとあなたの世界をつなぐとき、媒体が必要になるの。それが私。つまり私を通して、あっちの世界のモノがこちらにやってくる。逆にこっちの世界のものをあっちの世界に送るときも、私を通す」
ジュノは答えた。
ジュノはあっちの世界と、こちらをつなぐルーターのようなものなのだろうか。
「身体には毒ではないのか?」
俺は尋ねた。
「わからないわ。でも連続で長時間し続けると、身体と心がもたないそうよ」
ジュノは答えた。
この子は身体を張っているのか……。
俺には少し同情心が芽生えていた。
よく見ると、
ピンク色の髪に、美しく透き通るような白い肌。キレイな瞳の色。
俺のコレクションのナンバーワンでも、足元にも満たないクラスの美少女だった。
「しかし、魔王を討伐するといってもどうする?
ここは閉鎖された世界だ。
食事もないし、飲み物もない。
早々に俺らが倒れる」
俺は尋ねた。
「それなら大丈夫。時間がくれば食事は用意されるわ」
ジュノはテーブルを指さした。
するとテーブルに麦茶とコップが現れた。
これは家の冷蔵庫にある麦茶とコップだ。
「これは家のだ。なぜ?」
俺は尋ねた。
「なぜって?つながっているからよ」
ジュノは答えた。
「つながっているのに、なぜ出られない」
俺は尋ねた。
「食事や飲み物はデータ量が小さいわ。しかしあなたという存在を送受信するには、データ量が莫大すぎる」
ジュノは答えた。
データ量……、
どういうことだ。
ダイアルアップ接続?
妖精。
身体の負荷。
もしかして……。
まあいい。
「つまり食事と麦茶を用意されている間は、大丈夫というわけだな」
俺は尋ねた。
「そうよ」
ジュノは答えた。
よくよく考えると、
今までと何にも変わっていない。
「じゃあ、俺は魔王と戦わなくても、食事はもらえるってことだ」
俺は見透かしたような目で尋ねた。
「ええそうよ。
ただね。
これだけは言っておいてあげる。
あっちの世界が滅びた時、次の標的はこっちの世界よ」
ジュノは答えた。
「じゃあ、戦わなくても、やられるってことか」
俺は尋ねた。
「そうよ」
ジュノは答えた。
「ずいぶん大役じゃないか」
俺は苦笑いをした。
「そうよ。
だから前任者356名は全員リセットボタンを押した」
ジュノは答えた。
「なんだ。リセットボタンって……」
俺は尋ねた。
「その蝶のアイコンをクリックして、キーボードの左右下AB上右下左と押せば、リセットしますか?と案内が出るわ。それを押すとリセットできる。そしてリセットすると、記憶は消され、生まれた時の状態からやり直せるわ」
ジュノは答えた。
俺は一瞬リセットボタンを押す衝動にかられた。
しかし記憶を保持したまま、セーブした時点まで戻れるリセットならいいが、
このリセットボタンはそうじゃない。
記憶のない状態でスタート地点に戻れるだけだ。
もう一度やり直したら、うまくやれるのか?
その自信はなく、
リセットボタンへの衝動は消えてなくなった。
「わかった。
できる限りのことはする。
でも、無理なら俺は逃げる。
リセットボタンを押すまでの付き合いだ……」
俺は力なく笑った。
「わかった。
あなたが消えれば、私の存在も消える。
私の命はあなたに任せたわ。
ありがとう相棒」
ジュノは力なく答えた。
その目に希望はなかった。
あの時の俺のように……。




