役立たずの自宅警備員(笑)
自宅警備員は自宅を警備するだけの役立たず、
そんなことを言われたことがある。
その時は何も言い返す気力はなかった。
事実だと思っていたからだ。
しかし今は違う。
俺は世界を警備している。
あの魔王から……。
俺は28歳独身。大学を中退して引きこもり……。
もとい自宅警備員になった。
親は俺に無関心で、
大学をやめたことも、
家で引きこもっていることも、
何も言わなかった。
ただ一言「飯は食え」
とだけ言った。
食事を部屋に届けてくれることはなかった。
でも、
毎日食事はテーブルにあった。
親と顔をあわせるのが気まずい俺は、
親が出ている間にリビングに行き飯を食った。
毎月1日には、
部屋のドアの隙間から封筒に入った1万円が届けられた。
何も書かれていない。
たぶん小遣いのつもりだったのだろう。
冷めているのか、
寛容なのか、
よくわからない親だった。
親の職業は知らない。
ただ時折、
家の中に薬品の匂いがした。
母親の名前も父親の名前も知らない。
ただ母さん、父さんとしか呼ばなかった。
親の笑顔を見たことはなかった。
今思い返せば、表情すら思い出せない。
ただ無機質な機能としての親だったのだろう。
今二人はどうしているのだろう。
異世界に来た今、
少しだけ気になった。
まあいい。
そんなことより、今は世界を守ることに集中しなければ。
……
異変が起きたのは、
30日前。
俺が魔除けのツボと呼ばれるインターネットの匿名掲示板をROMっている時のことだった。
突然ドスンという、突き上げるような衝撃が襲った。
俺はクッションを抱え、机の下に潜り込んだ。
しばらくして、机の下から戻ると、部屋の棚にあった美少女フィギュアが倒れ、何体かは少し離れたベッドの羽毛布団に突き刺さっていた。
辺りを見渡したが、幸い壊れているものはなかった。
(助けて……)
大丈夫そうだ。
俺は魔除けのツボの中で、地震情報がないか確認する。
しかし、リアルタイムすぎたのか、地震に関してのスレは立っていない。
俺は検索エンジンを見る。
(インターネットに接続されていません)
そう表示が出た。
おかしい……。
俺は魔除けのツボに戻る。
魔除けのツボは、スローペースながら、書き込みが増えている。
読み込み時間はかかるが、新しいスレも立っている。
なぜ?
(助けて……)
俺はもう一つの異変に気が付く。
外がやけに暗い。
時間を見るとまだ15時を回ったところ。
パソコン画面が見づらいので、いつも締めきってはいるが、
雨なのだろうか、窓から光が見えない。
俺はふたたび検索エンジンで天気予報を検索した。
(インターネットに接続されていません)
まただ。
(助けて……)
俺は魔除けのツボに戻る。
(ピーーー!ガガッ!ギュルルルルル!キィィィン!!)
何の音だ。
あれ……。
この音は聞き覚えがある。
たしか、インターネットのダイアルアップの接続音だ。
魔除けのツボは、スローペースながら、書き込みが増えている。
おかしい。
動いている。
(助けて……)
俺は窓のカーテンをそーっと開ける。
真っ暗だ。
何かがおかしい。
俺は意を決して、窓を開けた。
窓の外には、蔦が張り巡らされており、光すら見えない。
そして蔦には、赤紅色の小花がついていた。
俺は蔦を引っ張ると、何本か取れ、悪臭が出た。
くさい……。
俺は思わず、鼻を抑える。
何なんだ。これは……。
(助けて……)
俺は蔦を窓の外に戻し、窓ガラスを閉めた。
俺は部屋の扉を開ける。
するとそこは家のトイレだった。
おかしい。夢でも見ているのだろうか。
ここから部屋の外に出られたはずなのに、トイレしかない。
俺は閉じ込められたのか?
頭がおかしくなりそうだった。
(助けて……)
俺は魔除けのツボに戻る。
全世界中が俺みたいな状態なら、
何か書き込みがあるはず。
俺は必死で、書き込みを探す。
しかし見つからない。
俺だけに起きている現象なのか?
トイレはある。
ベッドもある。
インターネットには接続できないが、
魔除けのツボはある。
なんとか生活はできそうだ。
違う、だめだ。食事がない。
俺は引きこもりになって初めて、
外に出たいと思った。
働いたら負けだ。
そんな言葉にひかれて、
俺は自宅警備員になった。
しかし、
このままだと。
俺はヤバイ。
どうしよう。
「もう!助けてって何度も言ってるでしょ」
羽毛布団のほうから、微かな声が聞こえる。
俺は目をこらす。
美少女フィギュアの一体がごそごそ動いている。
あぁヤバイ。
極度のストレスのせいか、
幻覚まで見えてきた。
「もう!ちょっと引っ張ってよ」
美少女フィギュアのほうから声が聞こえる。
俺は、
目をこらす。
やはりごそごそ動いている。
念のため、
他のフィギュアも見るが、
動いているのは、この一体だけだ。
そっと手を伸ばし、美少女フィギュアに触れる。
えっ、柔らかい。そして少し暖かい。
それは俺の知っている美少女フィギュアの感触じゃない。
「なにしているの!くすぐったいでしょ。ちょっと引っ張ってよ」
美少女フィギュアのほうから再び声が聞こえる。
俺はそっと美少女フィギュアを引っ張る。
やけにリアルだ。
しかし、こんなフィギュアを買った記憶がない。
俺が少し引っ張ると、美少女フィギュアが突然動いて、空を飛び始めた。
「うわ」
俺は驚き、尻をついた。
「なんでそんなに驚いてるの?
そうか私が可愛すぎたのね。ムリもないわ」
美少女フィギュアが髪をさっと肩に流す。
「うわフィギュアがしゃべった」
俺は驚き、指をさす。
「なによフィギュアって?私は妖精よ。妖精知らないの?」
美少女フィギュアは腰に手をあて、怒っているようだ。
「妖精なんてお話の世界の中だけのものだろ」
俺は言った。
「妖精は普通にいるわよ。ほらあなたの近くにも……、
あれこの子たち魂がないわよ。
蝋人形かしら」
フィギュアが他の美少女フィギュアをつついている。
「それは美少女フィギュアという人形だ」
俺は言った。
「そうなの。でもリアルね。まあいいわ。私はジュノ。よろしくね」
美少女フィギュアが手を差し出した。
俺は混乱していたが、
思わず指を差し出した。
「それでね、君には魔王を討伐していもらいたいの」
ジュノは言った。
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