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砂漠も今日は瑞々しい 5

終わりの見えないような旅をともにするので、ちゃっちゃと人物の支度を済ませなければならないですね。ただ、終わりは見えなければ、展開にはつながりませんに。

今回は色々これからのための設定的な描写が多くなってますかも。

 この店で働き始めたばかりの頃は、街が賑やかで人の気にあふれていたから混乱していた。でも今は、お店に来る人が現れるのがなんとなく雰囲気で分かるようになった。ずっと家にいたときは、音も少ないもので、風の音さえ音楽だったような体だから。

 この街はそのあらゆる感覚に働きかける要素が多くて、悪く言えば騒がしい。まだうちの静かな方が落ち着くんだ。

 その後に来たお客さんはその影を畳んだような薄い気配で、ふっと現れる。ただ、この人もちょっと見覚えがある気がする。


「今日はベル君はいるかね。」

 その声を発する喉から顔まではフードで隠れていた。唸り声っぽく喋っているのはなんでだ。

  「いいえ。今はお店にはいませんよ。何をお求めで。」

「じゃあ、ひとまずそこの籠にあるやつだ。なんだっけあれ。」

  「えっと、いちじくですか?」

「そう、それを一つ取ってくれないか。」


  「このいちじくは一つで、30カロンになり…。」

 彼の手に渡そうとした時、食い気味で前のめりな気配が気になった。代金を先に済ませてもらおうと考えていたから、私がいちじくから手を離すのを遅らせていたら彼は一気に引っ張って私は前に転びそうになった。

 うわっ。

  「ちょっと待って!」

 彼も一瞬戸惑ったが、引っ張って倒れそうになった私をうまく押し返してくれた。


「おい、なんだよもう。だめか。」


 じゃがいもの籠に手をつこうとして、バランスは崩れたままだが顔を上げようと姿勢を立て直す。

 彼の顔があらわになった。少年は私が店番をしているのを狙おうとしたのだろう。ただ、今回は私の勘がちょっと良かった。手を引っ込めてそのまま去ろうとしたのを、私は少し気になって声をかけてしまった。


  「いや、まだ行かないで。ベルさんいないし。」


「なんだよ。」

  「お金、なんで出さないの?」

 この疑問をどう思われても良かった。

  でも、純粋に知りたかった。

   私だけはまだ、息が落ち着かないが。

 あの日のオレンジの少年は…。


「別に、いちじくの一つや二つにそんな金が出せるかっての。払われねえならそれが一番だろ。必要なことだけにしないと生き残れないぜ?」

 いちじくは、私が強く握ったためにその果汁が手に滴るのを見て、彼に背を向ける。さっきの籠からいちじくをもう一つ拾った。

  「そ、そう。じゃあさ、これあげるよ。今日くらいはいいんじゃない?」

「へえ、お前信用されてるから俺と組むってか。」

  「えっと…。」

 一人で理解したつもりになった少年は、語りを速める。

「俺はお前からも盗れなかったら、ここでオレンジも食えないからな。お前がそんな平和的な手に出るとは思わなかった。いや、そんな意外じゃないか?」

  「うん。とりあえず、はい。」


 彼は悪気もなく、私の手からいちじくを引き抜いた。

「頼んだぜ。俺も秘密は守るから!」

 そう言って彼は人混みを通り抜けていった。やはりその速さは尋常ではないと思えた。


 私は緊張していた。

 本当は彼に渡したのは、私が帰りにもらえる果物の分ということにする予定なのだ。けど私はなんとなく彼に気圧されて、笑み頷いていた。言葉に表し難いいろいろな感情が私を出迎えてくれた。全部知らないものばかりだった。

 なんだか彼と戦って負けたみたいな、年も離れていない彼と私が違いすぎてるみたいな、でも仲良くなれたのかなみたいな、誰かを助けてあげたみたいな、もう一度やり直したいみたいな、人におごって浮かれたみたいなの。


 でも、彼はいい人なのか分からないけど頼ってみたいという矛盾も隣に佇んでいた。

 ぼーっとしていたら、果汁の手触りさえ、乾いて消えた感じがした。



「おーい。今日もやっといてくれたかい?」

  「あ、はい。全然いつも通りです。」

 おばさんが後ろから声をかけた。帰ってきたみたいだ。街に影が染み始めるとき、明るみはあかね色と呼ばれる。

「今日はもう終いだね。選んだかい?」

  「はい。今日はいちじくでも貰おうかと。」

「二か三個くらいかな、いや小さかったら三個くらいは持ってきな。」

 おばさんが代金を入れる袋からお金を確認しながら、背中で応えた。

 いちじくを一つ握って、さよならと告げた後、うちへ帰った。まだオレンジをかじる気は起きないけど、少しは色づいたかな。


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