壊れた初恋
彼が豪邸の門をくぐった瞬間、足を止めた。
「……ここ、きみの家?」
声に、隠しきれない動揺が滲んでいる。
高い天井。
磨き上げられた床。
生活というより、展示のために存在しているような空間。
きよかは、その反応を予想していた。
「驚いた?」
彼は、言葉を探すように周囲を見回してから、頷いた。
リビングに通し、向かい合って座る。
沈黙が落ちる前に、きよかは口を開いた。
「……私ね、あなたのことが好き」
迷いはなかった。
「初めてだったの。
誰かを、こんなふうに大切に思ったの」
彼は驚いた顔で、きよかを見る。
「あなたのためにしたこと、全部……
あなたと一緒にいるためだった」
言葉を選びながら、
きよかは自分の過去を語った。
選んだ道。
失ったもの。
守ったもの。
「全部、あなたのため」
しばらくの沈黙。
彼の顔色が、少しずつ変わっていく。
「……きよか」
その声は、震えていた。
「それは……愛じゃない」
立ち上がる気配。
「ごめん。俺、帰る」
きよかの胸が、強く締めつけられた。
「待って」
手を伸ばす。
彼は、それを振り払った。
玄関へ向かう背中。
逃げるような足取り。
きよかは、追いかけた。
「待って……お願い」
彼はきよかの声を振り切るように駆けていった
消えてしまった方をみつめ呆然とする
彼なら受け入れてくれると信じていたから
外は暗くなっていた
追いかけないと、、、
夜道は危ない
彼には安全に帰って欲しかった
タクシーを呼び彼の帰宅路を運転してもらう
——視界に人だかりをとらえた
タクシーから降りて人だかりの方へ向かう
なんだか悪い予感がしていた
人を掻き分けて前にでると
きよかの目の前に
彼だった物が倒れていた。
ついさっきまで、
あれほど美しく、清らかだった人。
その姿は、もう“彼”ではなかった。
ぐちゃぐちゃになった手足、擦り切れた顔
血で赤く染まった塊のなかで
飛び出した骨の白さだけがきよかには美しく見えた
「…….....」
声が、出ない。
近づくことも、触れることもできない。
壊れてしまった。
完全に。
きよかは、その場から離れ、家の方へ歩きだす
胸の奥が、からっぽになり
目の前のことを受け入れたくなかった
「……違う」
ぽつりと、零れる。
「こんなはずじゃ、なかった」
愛した人が、
美しかった彼が、
目の前から消えてしまった。
その瞬間、
きよかの中で、何かが崩れた。
——失うくらいなら、
壊れるくらいなら、
最初から、変わらない形にしてしまえばよかった。
夜風が、頬を撫でる。
彼は私を受け入れてくれなかった
だから彼は、、、
受け入れてくれなかったあの瞬間に戻れたら
そしたら絶対に、、、
彼を彼のまま閉じ込めてしまうのに
きよかは自分の愚かさが憎かった




