再会
陵は以前にも増して、きよかに想いを伝えるようになった。
時間が合う日は必ず送り迎えをしてくれる。
仕事帰りの夜道。
バス停。
休日の買い物。
どんな時も、気づけば陵がそばにいた。
「迎えに来ました」
屈託のない笑顔。
その真っ直ぐさに、きよかも少しずつ心を許し始めていた。
自分を守ろうとしてくれる人。
離れないと言い切る人。
それは、今まで出会ってきた誰とも違っていた。
そんなある日だった。
病院の仕事を終えたきよかは、陵に連絡を入れる。
迎えに来ると言われ、外で待っていた時だった。
「清水きよかさんですか?」
振り向くと、警察手帳が目に入る。
きよかの心臓が、一瞬だけ強く打った。
「はい」
声は落ち着いている。
「少し、お話よろしいでしょうか」
元樹の名前が出た。
通勤バス。
運転手の証言。
親しそうに話していた二人。
きよかは表情を変えない。
「通勤バスが同じで」
淡々と答える。
「その時間だけ話す程度の関係でした。知人……くらいでしょうか」
警察官はメモを取りながら頷く。
「そうですか」
これで終わる。
そう思った。
だが――
一人の警察官が、きよかをじっと見ている。
視線が離れない。
そして。
「……きーちゃん?」
きよかの思考が止まった。
その呼び方。
胸の奥に眠っていた記憶が、突然引き起こされる。
施設にいた頃の呼び名。
ゆっくりと顔を上げる。
「……海くん?」
警察官の顔がぱっと明るくなる。
「やっぱり!きーちゃんだ!」
昔と変わらない笑顔。
優しくて、正しくて、誠実な人。
施設で、兄のように慕っていた存在。
「会いたかった」
その言葉に、きよかの胸が温かくなる。
懐かしい感情。
安心感。
けれど――
同時に、陵の顔が浮かぶ。
海はポケットからメモを取り出し、連絡先を書く。
「時間あるときでいいから、連絡くれる?」
差し出された紙を受け取る。
「うん……必ず」
そう答えた瞬間だった。
「きよかさん」
背後から声がした。
きよかの肩が小さく震える。
振り向くと、そこには陵が立っていた。
静かな笑顔。
けれど、その目は鋭く海を見ている。
「警察ですよね?どうしたんですか?」
きよかは事情を説明する。
陵は一度だけ海を見る。
ほんの一瞬。
それだけで十分だった。
そして、きよかの手を掴む。
自然な仕草。
だが、どこか強い。
「僕たちデートなので」
穏やかな声。
「もういいですか?」
海は一瞬だけ陵を見た。
何かを測るように。
それから小さく頷く。
「すみません。ご協力ありがとうございました」
きよかの手は、まだ陵に握られている。
二人はその場を離れた。
歩きながら、陵は何も言わない。
ただ――
きよかの手を、離そうとしなかった。




