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貴方を愛すること  作者: りな


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22/27

運命か偶然か

紅茶の湯気が、静かに立ちのぼる。


 きよかは向かいに座る陵を見つめた。


 さきほどまでの遠回しな空気は消えている。


 陵は深く息を吸った。


「ごまかしません」


 はっきりとした声。


「俺、あの夜……ここにいました」


 きよかの瞳がわずかに揺れる。


 だが、遮らない。


「クラブの前であの男を待ってて.....それで、きよかさんの車を追いました」


 静かに続ける。


「門を越えて、この家の敷地に入りました」


 一拍。


「不法侵入です。ごめんなさい」


 きよかの指先が、カップを握る。


「庭で……見ました」


 陵は目を逸らさない。


「きよかさんがあの男を殺して、最後にはバラバラになるまで全てを」


 言葉を選ばない。


 だが、過度に描写もしない。


「俺、あの人を殺そうとしてた」


 初めて、声がわずかに震える。


「でも、きよかさんが先だった」


 静寂。


「怖かったです」


 正直な言葉。


「でも、それより――」


 息を吐く。


「救われたって思いました」


 きよかの表情が固まる。


「あの時きよかさんが泣きそうな顔をしてたから」


「愛おしげにあの男を抱きしめてたから」


「俺、嫉妬して。それできよかさんに恋してたんだって自覚したんです」


 きよかは動かない。


 陵は続ける。


「そのあとも、しばらくここにいました」


「きよかさんがあの男を家に運ぶのも見ました」


 嘘はない。


「でも、誰にも言ってません」


「今まで一度も」


 きよかの喉がわずかに上下する。


「どうして?」


 問いは低い。


 陵は即答する。


「あなたを守りたかったから」


 迷いがない。


「それに俺が見たきよかさんを、俺だけのものにしたかった」


 執着にも近い言葉。


「それから、きよかさんに会えなくなって。苦しくて忘れようとしました」


「でも無理だった」


 目が熱を帯びる。


「きよかさんは俺の運命だったから」


 部屋が静まり返る。


 きよかはゆっくりと立ち上がる。


 陵の前まで歩み寄る。


「……怖くないの?」


 近い距離。


 息が触れそうなほど。


「私に殺されるかもよ?」


 陵は瞬きもしない。


「怖いですよ」


 一拍。


「俺が死んだらきよかさんが他の男を見つめて、喋って、デートして、恋や結婚をするかもしれない事が怖いです」


「俺だけを愛してくれるなら、僕だけにあの顔を見せてくれるなら俺はきよかさんに殺されたい」

 

 その言葉は真実だった。


 きよかの胸が、強く打つ。


(本当に運命の人かもしれない.....)


 信じてもいい?


 それとも、殺してしまう?


「……人の家に侵入して覗き見るなんて最低よ」


 きよかは言う。


「はい」


「でも、今ここにいるのは、私が招いたから」


 陵は息を呑む。


「選んだのは私」


 きよかの瞳が深くなる。


「だから」


 静かに。


「あなたが本当に運命の人なのか見極めるのも私」


 陵の背筋に冷たいものが走る。


 だが、逃げない。


「俺は逃げません」


 即答。


 きよかは、わずかに微笑む。


 それは優しさではない。


 試す者の笑み。


「……本当に?」


 沈黙。


 屋敷の奥から、わずかな機械音が響く。


 冷たい低音。


 陵は、その音に気づく。


 そして理解する。


 ここから先は――


 戻れない。


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