恋する乙女
部屋に、鉄が錆びたような金属の香りが充満していく。
きよかは、血に染まった彼を愛おしげに見つめ、そっと唇を重ねた。
「デート、どこにしましょうか?」
返事はない。それでも、きよかは楽しそうに続ける。
「私も明日お休みなんです。部屋の掃除が終わったら、お気に入りの場所に連れて行ってあげますね」
元樹に向けて、くったくのない笑顔を向けると、もう一度、優しくキスをした。
それから彼女は、ベッドに横たわる彼をシーツごと引き寄せ、風呂場へと運ぶ。
「このままじゃ……ずっと一緒には過ごせないんです」
囁く声は、謝罪のようでもあり、約束のようでもあった。
「だから、許してくださいね。明日、しっかり処置してあげますから」
きよかは微笑む。
「そしたら、たくさんデートできますから」
優しい声と笑顔とは裏腹に手に握られているノコギリは残酷な音を立てて元樹の四肢を切り離していく
バスタブには赤い血と切り取られた物が無惨に置かれていた
先ほどまで確かにつながっていた元樹の顔を、きよかはそっと持ち上げ、静かにキスを落とした。
そのままシャワーをひねると、水音が浴室に満ちていく。
しばらくして、彼女はシャワーを浴槽へ向けたままにした。
水に溶けていく気配を背に感じながら、きよかは浴室を出る。
部屋の片付けを始める時間だった。
汚れたシーツと布団は洗濯機へ。
床は丁寧に拭き上げ、窓を開けると、夜風がこもった匂いを外へ運んでいく。
マットレスは、あらかじめ敷いていたベッドパッドのおかげで、何事もなかったかのようにきれいなままだった。
フレグランスに火を灯す。
それだけで、部屋はすぐに“いつもの空気”を取り戻す。
衣服や下着は手早く洗い、まとめて袋に入れた。
「……私も、お風呂入らないと」
きよかはシャツを羽織る。
ワンピースのような丈だが、下に何も身につけていないその姿は、無防備で、どこか現実感が薄かった。
そのまま玄関を出て、隣の部屋へ入る。
ここは角部屋と同じ家具、同じ家電が、同じ配置で揃えられている空間だった。
シャワーを浴び、髪を乾かすと、きよかはクローゼットの前に立つ。
パジャマを一つひとつ確かめるように選びながら、小さく笑う。
「こっちのほうが、元樹くん好きかなー♡」
ピンク色の、ふわふわしたパジャマに身を包むと、きよかは再び隣室を出た。
「元樹くん、お待たせ!」
そう言って、ショウケースの前でくるりと回ってみせる。
「どう? 部屋着、可愛い?」
満足そうに頷きながら、水音を止める。
「すぐにデート行かなきゃだから着替えなきゃだけど……どうしても見せたかったんだ」
様子を確かめるように視線を落とし、きよかは微笑んだ。
「もう、ほとんど落ち着いたね」
きよかは切断面にタオルとビニールを被せ丁寧にスーツケースにしまう。
元樹の顔だけはスーツケースには入れず、頭が収まるほどのショウケースに丁寧に納め、上から白いシーツをそっとかけた。
「ちょっとだけ、待っててね!」
そう声をかけると、きよかはクローゼットの前に立ち、可愛らしいワンピースを一着選ぶ。
着替えを終えると、元樹の“かけら”が収められたスーツケースを持ち上げ、エレベーターで駐車場へ向かった。
自分の車のトランクにそれを積み込み、きよかは満足そうに頷く。
「元樹、お待たせ!」
次に、ひときわ大切そうにショウケースを抱きかかえ、足早に車へ戻る。
助手席にそっと置き、シートベルトをかけてから、にこやかに微笑んだ。
「じゃあ! 出発!」
どれくらい走っただろうか。
四時間ほど経った頃、きよかは一軒家の前で車を停めた。
周囲には他の家はなく、木々に囲まれた場所に、手入れの行き届いた要塞のような建物がぽつんと建っている。
その横には、大きな冷凍コンテナが設置されていた。
きよかは慣れた手つきでスーツケースを降ろし、コンテナの鍵を開けて中へ入る。
内部には、同じ大きさのスーツケースが三つ、整然と並んでいた。
「またあとでくるね」
空いている場所に、四つ目のスーツケースを並べると、きよかは静かに扉を閉めた。
再び車へ戻り、助手席の元樹のもとへ。
「お待たせ!」
ショウケースを抱き上げ、愛おしそうに腕の中に収める。
「元樹が、きれいなままで少しでも長くいられるように、私、頑張るからね」
優しく語りかけながら、家の玄関へ向かう。
「実家がこんな田舎で、ごめんね」
鍵を開け、扉を押しながら、きよかは明るく続けた。
「それに、いきなり実家に連れてきたら緊張しちゃうよね。でも大丈夫。もう、家族はいないから」
そう言って、きよかは元樹に話しかけながら、静かな家の中へと足を踏み入れ




