デート
待ち合わせは駅前だった。
陵は三十分前に来ていた。
落ち着かず、同じ場所を何度も往復している。
「早いね」
きよかの声に振り返る。
「……きよかさん」
一瞬、言葉を失う。
白のワンピース。
控えめな化粧。
風に揺れる髪。
「可愛い、って言わないの?」
からかうように言うと、陵は慌てて口を開いた。
「可愛いです。めちゃくちゃ」
真顔。
きよかは小さく笑った。
「ありがとう」
⸻
昼のカフェ
窓際の席。
「きよかさんって、甘いの好きですか?」
「気分による」
「今日は?」
「今日は……苦いの」
「俺と一緒ですね」
「何それ」
笑い合う。
会話は自然だった。
仕事の話、大学の話、
子どもの頃の話。
「きよかさんって、昔から綺麗だったんですか?」
「え?どうだろ。でも努力はしたよ」
「いや、今が完成形すぎて」
きよかは視線を逸らす。
「完成なんてないよ」
その言葉の重さに、陵は気づかない。
⸻
水族館
暗い館内。
青い光に包まれる。
「こういう静かなとこ、好きです」
「意外」
「騒がしいの苦手なんで」
巨大な水槽の前で立ち止まる。
魚たちがゆっくり泳いでいる。
「綺麗ですね」
「うん」
「……閉じ込められてるのに、綺麗」
陵の言葉に、きよかの指先がわずかに震えた。
「逃げないから、綺麗に見えるのかな」
「え?」
「なんでもない」
⸻
帰り道。
夕焼けが差す歩道。
「また、あの看護師の人と飲んでましたよね」
不意に陵が言う。
「見てたの?」
「……偶然」
嘘ではない。
「仲良いんですか?」
「普通」
「俺、嫌でした」
足を止める。
「嫌って?」
「きよかさんが、誰かと笑ってるの」
声が低い。
「俺だけに向けてほしいって、思っちゃいました」
正直すぎる告白。
「重いよ」
「知ってます」
陵は笑う。
「でも、きよかさんにだけは重くなりたい」
その目は冗談ではなかった。
「俺、きよかさんを一番理解できる自信あります」
またその言葉。
きよかは心の奥がざわつく。
――理解?
誰も私を理解なんてできない
わかっているのに....
陵は理解したがる。
それが、嬉しくて少し怖い。
⸻
デート後
直ぐには帰る気分にならず1人で買い物をして
自宅に戻る。
静かな部屋。
靴を脱ぎ、深呼吸する。
スマホが震える。
【今日は本当に楽しかったです】
すぐにもう一通。
【俺、絶対きよかさんを幸せにします】
きよかは返信せず、ソファに座る。
そして、いつものようにスマホを開く。
冷凍コンテナのカメラ映像。
四人が並んでいる。
「……ただいま」
安堵。
だがその瞬間。
――コツン。
小さな金属音。
映像の奥、扉の方向から。
きよかは息を止める。
もう一度。
――ガチャ。
明らかに、ノブを回そうとする音。
誰かが、外にいる。
スマホを握る手が冷たくなる。
「やめて……」
小さく呟く。
四人は、何も知らずにそこにある。
守らなきゃ。
きよかは立ち上がった。
バッグを掴む。
車の鍵。
メッセージが鳴る。
【無事着きました?】
陵からだ。
返信はしない。
今はそれどころじゃない。
玄関を飛び出す。
エンジンをかける。
夜の道を、実家へ向かって走り出した。




