日常と変化
きよかは、日常に戻っていた。
平日は仕事へ行き、
休みの日には実家へ帰る。
そして、冷凍コンテナの中で、
四人との時間を過ごす。
静かで、変わらない時間。
誰にも邪魔されない、安心できる場所。
そんなある日、休憩室で同僚たちが盛り上がっている話題が耳に入った。
「最近、ペットカメラつけたんですよ!」
スマホを見せながら、同僚が嬉しそうに言う。
「仕事中でも、家にいる子の様子が見られるんです。
それだけで、全然寂しくなくて」
その言葉に、きよかは一瞬、思考を止めた。
——いつでも、姿が見られる。
(……カメラ)
冷凍コンテナに、置けないかしら。
その日の帰り、きよかはネットでカメラを探した。
小さくて、静かで、暗所でも映るもの。
数日後、
きよかはそれを、冷凍コンテナの目立たない位置に設置した。
それ以来、仕事を終えて帰宅すると、
まずスマホを開くようになった。
画面の中には、変わらない四人の姿。
「……ただいま」
小さく呟く。
彼らの姿を確認する時間が、
胸の奥に残る寂しさを、少しだけ和らげてくれた。
もう一つ、
きよかの日常には小さな変化があった。
以前、通勤路で声をかけてきた年下の男性と、
よく顔を合わせるようになっていた。
会うといっても、
彼が一方的に声をかけてくるだけなのだけれど。
「きよかさん!!」
いつも、嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってくる。
好意はない。
けれど、少しずつ、心を許し始めていた。
彼の名前は、三原陵。
二十二歳の大学生だという。
勤めている病院の近くの大学に通っているらしかった。
「今日も会えましたね! あっ、これ!」
屈託のない笑顔で、飲み物を差し出してくる。
「ありがとう」
「ほぼ毎回会いますけど……
もしかして、待ち伏せしてる? 大学、ちゃんと行ってる?」
冗談めかして言うと、陵は大げさに胸を張った。
「心配してくれるなんて、優しいなー!
大丈夫ですよ! 本当に偶然です!」
「……そう?」
「そうそう!
僕ら、運命なんですよ!」
きよかは適当に聞き流しながら歩く。
すると、前方に同僚の姿を見つけた。
「あ、同僚いるから、行くね」
「分かりました! また!」
陵は残念そうにしながらも、
「お仕事頑張ってください!」と手を振った。
昼休み。
同僚と食事をしていると、
突然、その話題が出た。
「きよかさん、最近さ、彼氏に送ってもらってるでしょ?」
「えっ!?」
思わず咽せると、
同僚はニヤニヤしながら言う。
「いいなー、羨ましい」
「違いますよ! 彼氏じゃないです!」
慌てて否定すると、
別の同僚が、ほっとしたような表情を浮かべた。
「……ですよね。
僕も違うと思ってました」
そう言って、にこにこしながら箸を進める。
きよかは、その様子を横目で見ながら、
静かに考えた。
——
新たな出会いや好意を感じている
そのどれもがありがたいし嫌いではない
だけど、、、
4人を愛する人と過ごす時より幸せな瞬間にはまだ出会えていなかった。




