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第1話(プロローグ)

 俺、平谷並介ひらたにへいすけは何をやっても平凡なモブキャラである。

 成績は万年5段階中の3だし、運動も得意な方でもない。顔もキャラメイクをするときに最初に表示される初期アバターのように平凡。

 かといって、オタクみたいに趣味があるわけでも、何かに秀でた知識があるわけでもない。

当然、彼女もいたためしがない。しがない童貞である。

 何をやっても、どこをとっても、平々凡々。

 何の特徴も無き、悲しき男。

それが俺、平谷並介である。

しかし、そんな俺でも誰にも負けないことがある。


 それは、ドスケベであること!


 だが、そんな俺のたった一つの強みは、世間一般からするとただの汚点にすぎない。

 ドスケベであることは、世間一般では罪であり悪である。

 異性に欲情することは、いつの世も忌み嫌われる最低最悪の所業。

 友達から嫌われ、度を越えれば法で裁かれる。


 アニメみたいに、風呂で鉢合わせたり、風でスカートがめくれパンツが見えてしまったり、倒れた衝撃で胸を揉んでしまったり……、そんなラッキーでスケベな夢みたいな出来事は起こりえない。


 彼女を作って、その彼女と、好きなだけドスケベすればいいではないか。

 確かにそれは真っ当な意見だ。

 だが、俺みたいにドスケベなだけで何の取り柄も無いモブ陰キャが、そんな簡単に恋人なんて、できる訳が無い。 

 だからこそ、俺たちのような非モテドスケベ人間は、リア充カップルの姿を、唇をかみしめながら眺め、画面の中にいる触れもできない女の子で泣きなが抜いて、雀の涙ほどの小さなドスケベを解放するしか道はないのだ。

 ドスケベな陰キャにって、この世界は生きづらいのである。


 もし……仮に、俺のような恋人が居ないモブキャラでも、合法的にドスケベできる相手が居るとしたら。



 そんな夢があるとしたら――――。


「きゃあ、平谷君のドスケベ!」


自分の部屋に入ると、そこにはなぜか俺の部屋で着替えている下着姿の女の子が居た。

 ついに、頭がおかしくなり、幻想が見え始めたのか。

 ところがどっこい、これは紛れもない現実なのだ。


「いや、ここ俺の部屋なんだけど……」

「そんなに私の下着姿が見たかったのかしら? 本当にドスケベね」

「いや、同じクラスの男子の部屋に不法侵入してお着換えしているきみの方がよっぽどドスケベだと思うけど。……というか、なんで、平然と俺の部屋に居るんだよ」

「あら、平谷君のお母様から合鍵を貰ったのを忘れたのかしら?」

「そういえば、そうだった……! というか、他人に合鍵渡すとか、どういう神経しているんだ、あの人」

「これで、いつでもどこでも、ラッキースケベし放題ね、平谷君っ♡」

「プライベート空間までもラッキースケベに侵食されるなんて、どれだけドスケベなんだよ……」

「お母様もお父様もいない。二人だけ。私を好きなだけ蹂躙できる。ああ、あなたは私をどうやって嬲るのかしらッ♡」

「好きなだけ……じゅるり」


 この子の名前は、名月さん夏輝めいげつなつき

 同じクラスで同じ図書委員に所属している女子生徒である。

 普段は目立たない大人しい地味子であるが、その正体は超絶ドスケベ女子。

 彼女は俺にこのように“ワザと”ラッキースケベを仕掛けてくるのだ。



「きゃあ!」


 名月さんは何もないところで躓き、仰向けに倒れる。

 そして、俺に見せつけるように、スカートを捲し上げ始める。

 パンツがちらりと見える。


「ああ♡ 私のおパンツ、見られちゃったわっ♡ もーう、見ているのバレているんだからね♡」

「し、白……! やっぱり白が一番ドスケベ……」

「今日の勝負下着よ♡」

「勝負下着⁉」

「ねえ、今、何を想像していたのかしら? 私に分かるように教えてほしいわ」

「その……名月さんとのドスケベを」

「平谷君はドスケベね。もう我慢できなくなっているのでしょう。ほら、よく見なさい」


 名月さんはスカートをまくり上げながら、パンツを俺の顔に近づけてくる。

 そんなことをされたら、俺のようなドスケベ男子高校生の脳は焼き切られるだろう。


「ちょっとトイレに……」

「あら? ここでぶちまけてもいいのに」

「そんなこと出来るか……!」


 結論だけ言う。

 クラスでは大人しい地味子である名月さんと俺は『ドスケベフレンド』である。


 ドスケベフレンドとは、セックスを除いて、ラッキースケベをはじめとする、どんなドスケベも許された間柄である。 

 童貞の妄想乙、と鼻で笑われるかもしれないが、現実なのだ。

 なぜ、俺が名月さんとこんな関係性になったかというと……。


 その話は、今よりも少しだけ遡る。




 その話は、今よりも少しだけ遡る。

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