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理系女子、異世界でメートルを作る  作者: しぎ
この世界には単位が多すぎる

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6/14

もう単位で事故は起こさない


 ――街ごとに異なる単位を統一し、異世界版『メートル法』を作る。

 それは、当然シャル一人でできることじゃない。

 この世界特有の事情はたくさんあるだろうし、既存の単位を変えろと言われて嫌がる人もたくさんいるだろう。それらを説得していくためには、もっと多くの人の力が必要になる。


 その中でも、この世界において政治、法律の実権を握る貴族の協力を取り付けることは必須事項。

 理論的にどれだけ良い法ができたとしても、それを権力者に認めてもらわないことには意味がない。

 平民であるシャルにとってはなおさらだ。


 そのスタート地点として、このモートン男爵家は格好の存在。新興で勢いがあり、平民からの印象も悪くない。

 何より、シャルの話を受け入れてくれるかはわからないが、まず聞く耳は持ってくれそうである。

 ジャンポールも、シャルやエルビットが自分の息子の遊び相手になっていることは承知だ。無下にはしてくれない……と信じたい。


「ユリウス様……少しよろしいでしょうか」

「どうした?」


 子供用のおもちゃの剣を振り回してエルビットの気を引いていたユリウスが、シャルの方を見る。

 黒い短髪に、丸みのある顔。野乃の記憶の中にあっても、何の違和感もない、日本人みたいな見た目の子だ。


「はい……わたし、やりたいことがあるんです。でも、それはどうしても一人ではできないことで……」


 デールから戻って、数日。『メートル法計画(仮)』の、たたき台のたたき台が、昨夜ひとまず出来上がった。

 

 最初に話すのは父・モーリスでも良かった。ただ、どうせモートン男爵家の協力は仰ぐことになるはず。

 直接ジャンポールに話しても、いきなり門前払いされることはないだろうが……あの厳しい目つきを思い出す。


 貴族の大人に直接訴えるのは、やはり勇気がいる。

 ユリウスに根回しをしておいて、悪いことはない。


「……なんだ? シャルは頭が良いんだから、俺なんか頼らなくても良いだろう」

「いいえ。これは絶対にわたしだけでは、無理です。貴族様のご協力を得なければできない話なのです」


「……なんか、ちょっとしたことじゃなさそうだな」

 ユリウスも、シャルの神妙な口調から何かを感じ取ったのか、手近な椅子に腰を下ろす。

 

 ……ユリウスは活発だが、貴族の息子だけあって育ちは良い。わたしの計画も、無下にすることはない、はずだ。


 

「はい。……ユリウス様は、違う街の方々と話す際、単位が違って話が成り立たなかったとか、そういう経験はございませんか?」

「単位?」

「ゴーロンとか、リテーラとか、ベクタとか、マイントとか……地域によって、あるいは街によって、それらの単位が示す数量は変わってきます。そのせいで、話が合わなかったりして、困った経験は無いでしょうか?」


 ユリウスは視線をなんとなく上に向け、考える。


「……困ったことはないけど、確かに他の貴族の人と喋ってると聞いたことないのが出てくることはあるな。えっと……アントワとか、トル、トル……なんだっけ」


 貴族の子は、幼少期から社交界に出ることが求められる。まだ未成年のユリウスだってそれは同じで、シャルよりもよっぽど広い交友関係を持っている、はずだ。


「トルーラですかね。箱なんかの重さを測るときの単位です」

「あーそうだそうだ。それでお父様が前に言ってたな。『初めての商人と取引したときに、数量を勘違いして大損しそうになった』って」


 やっぱり、そういう話はいろんなところであるのだ。

 シャルは自分の計画の必要性を、さらに強く感じる。


「そうですか……商人同士の間でも、単位や数量を間違えたということはありますし、あるいは、それが最悪の場合、人の命に関わることもあります」


「……命?」

「はい。……先日わたしの父が毒キノコを食べて倒れたのも、原因は若い料理人が単位を間違えて、分量を勘違いしたことが結果でした」


 ユリウスの驚く顔が、シャルにもはっきりわかった。


「……単位を間違えると、人が死ぬのです」

「死ぬってそんな……」


 そう言いかけて、でもユリウスは腕を組む。

 シャルの今までにない真面目な顔つきは、ユリウスの気持ちも動かす。

 いつの間にか、エルビットも静かになって、シャルの隣で座っている。


「……だからわたしは、この国にあふれる単位を統一したいのです。今後起きる大惨事を、未然に防ぐために」


 ――大惨事。

 もしあの毒抜きを失敗したキノコが、パーティーで大勢の人に振る舞われていたら、本当に大惨事になるところだ。

 シャルの言葉に、冗談や誇張表現は何一つ無い。


「――それって、可能なのか?」

「時間はかかると思います。でも、いつかはやらなければならないことです」


 ユリウスは考え込む。

 ――正直、途方も無さすぎて想像もつかない。

 そもそも、単位が違うというのを疑問に感じたことがなかった。それをわざわざ揃えることに、どれだけの意味があるのか。


「ユリウス様。今すぐ理解していただきたいわけではありません。でも――今は一つだけ。わたしがこれからやることは、この世界に必要なことなんです。セーヨンや、モートン男爵家にとっても」


「……シャルがそんなに言うんだから、そうなんだろうな」

 ――あっ、今理解を投げたな……まあ良いか。

 シャルもすぐ分かってもらえるとは思ってない。

 そんな簡単な計画では、無いのだ。


「ありがとうございます。それとユリウス様、もう一つお願いがあります」

「なんだ?」

「この後、この計画を男爵様と、わたしのお父様に話します。そのときに、一緒にいてくださいませんか?」


「――いいぜ、そのくらいなら」

 ユリウスの顔が、ちょっと赤くなったような気がした。



 ***



「――単位の統一?」

「はい。お父様のように、毒抜きに失敗したキノコを食べて、生死の境をさまよう……なんてことも、もう無くなります」


 高鳴る心臓の音を抑えながら、シャルは話す。

 テーブルを挟んで、モーリスとジャンポール。

 二人とも、シャルの話を、表情変えずに聞き続けている。


「男爵様も、他の貴族様や、商会、役所とのご取引の際など、計算には大変苦労されてるのではないかと。そのような苦労も、大幅に緩和できます」


 単位が違うことを、何の疑問にも思わなかった――モーリスもジャンポールも、ユリウスと同様だった。そういうものだと思って、モーリスは商業の世界を、ジャンポールは社交界を生き抜いてきた。

 だから、シャルに説明されても、いまいちピンと来ない。


 単位が揃っていると計算が楽になる――そうなのかもしれないが……


「シャル。その……単位を揃えるとして、具体的にはどうするんだ? 統一するとなったら……やはり、べネイルの単位に合わせるのか?」

 困惑しながらモーリスが尋ねる。

 尋ねながら、モーリスは考える。そんなこと……無理では?


「いいえ。べネイルは確かに王都であり、この国最大の都市ですが……それでは、王都以外の方々が不公平でしょう」


 どこかの単位に合わせる、となったら当然不都合が発生する。

 そもそも普段使っている単位が変わるというのが不都合だ。

 ……ならば、全員平等に不都合を味わうべきじゃないか。


「ですから、全く新しい単位を作ります。基準となるにふさわしい、普遍的な定義を持った単位を……」


「無理だな」

 シャルの説明を、モーリスが遮った。


「お父様?」

「非現実が過ぎる。シャルは、できると思っているのか?」


「もちろん、簡単なことではありません。だからこそ、大人であるお父様や、男爵様に協力をお願いしているのです」

「しかしシャル。お前が言っていることは、とんでもない労力を必要とすることではないのか? それに見合う結果は得られるのか?」


 シャルだって、そんなのは重々承知の上だ。

「見合う結果は、人々の計算からの解放です。お父様、毎日書類作りにどれだけの時間をかけていますか? 男爵様も同様です」


 話を振られたジャンポール。

 その顔は明るくない。


「シャルさん、私も計画には賛同しかねます。正直、人々の理解を得られる気が全くしません」

「父上、そんなこと言わなくても……」


 シャルの隣に座るユリウスが思わず声を上げると、ジャンポールがそれをキッと睨みつける。


「王都で使われているものに統一する……なら、まだ納得する人もいるでしょうが、全く新しいものを突然使えと言われるのでは誰もが困惑します。それに、王都の住民に強制するということは、必然的に王家にも強いることになるのですよ……」


「そうですね」

 シャルは平然と答える。

 王家だからと言って、特別扱いはできない。


「お、おま……シャル。お前は、王家に楯突く気なのか?」

 さすがにこのさらっとした一言には動揺したのか、モーリスの眉がピクリ。


「別にそこまでのことは言っていませんよ。ただ……わたしが計算しても、お父様が計算しても、男爵様が計算しても、国王陛下が計算しても、1+1=2ですよね? それと同じことです。誰にとっても、計算は、単位は同じであるべきです」


「……それは……」

 モーリスは頭を抱える。

 ……駄目か。シャルは――野乃は、元いた世界での科学的な価値観が全く通用しないことを改めて実感させられ、ため息を押し殺す。


「モーリスさん……シャルさん、少し見ないうちになんだか変わりましたね」

 言葉の出ないモーリスに代わり、再びジャンポールが話す。


「私もモーリスさんと同意見です。計画を無下にする気はないですが、いかんせんふわっとしすぎている。実のところ、私もシャルさんの言い分が一部理解しかねるところがあります」


 ジャンポールの言葉は、厳しくシャルに突き刺さる。

 ……ならば。


「――わかりました。ではせめて、調べてほしいことがあります」

「なんでしょう?」

「このフランベネイル王国で使われているあらゆる単位を、リスト化したいのです」


 まずは現状把握から、である。

 理論的に良い定義だったとしても、あまりにも実際に使われているものとかけ離れていてはいけない。


「そのリストを元に、できるだけ皆さんの普段の生活に影響を与えないような単位の体系を作ります」

「そんなことできるのか?」


 尋ねるモーリス。正直、シャルの言葉が飲み込めない。


「それはリストを見てから、というところです。わたしは――この世界の実態をまだ知りません」

 

 シャルには、行ったこと無い街もまだたくさんある。

 あるいは、王国の外に出れば、もっと知らないことがたくさん……


「――無理ですね。正直、割に合わなさ過ぎる」

 ジャンポールは、シャルの提案を、無情にも却下した。


「そのリストを作ったところで、シャルさんの計画が成功するとは、とても思えません。そんなことに時間はかけられない」

「……シャル、すまんが自分も同意見だ。多分お前の考えるよりも、お前の考えてることは……上手く行かない。難しいし、障害が多すぎる」


 ――分かってはいたけど、否定されるときついわね……

 シャルは、モーリスからも切り捨てられ、唇を噛むことしかできなかった。



読んでいただきありがとうございます。

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