第64話 化け物とヒーロー
ヒーローにあこがれていた。格好よく、みんなを救える、そんな存在に。だけど、そうは成れなかった。
誰も、ヒーローなんて求めちゃいなかった。存在意義を失ったヒーローはただただ力の強い化け物に過ぎない。人間離れした身体能力も恐怖の対象でしかない。だから、俺は化け物だったのだ。居場所がないから。
そんな俺の前に、骸祈という少女が現れた。俺をヒーローと言ってくれた。だから、依存した。俺がヒーローでいられるように、彼女という存在にすがって。だけど、そんなメッキはいつかはがれることなんて知れていた。最後まで、ヒーローにあこがれていただけで、成れなんてしなかったんだ。子供のころに見たヒーローの姿の二番煎じを演じていた俺は、本質的に化け物なんだ。
「私にとってはヒーローだったよ」
そんな言葉が聞こえてきた。そんなわけがない。俺は、ヒーローには成れない。ヒーローは綺麗な存在じゃないといけない。俺は、誰にとってもヒーローでありたいと思った。誰かにヒーローと思われたいなんて考えている時点で、ヒーロー足りえない。どんな状況でも綺麗であり続けなくちゃいけない。だけど俺にはそれはできない。
……だから、そんなことを言わないでほしい。また縋ってしまうから。憧れてしまうから。不相応だ、俺は。そんなきれいな存在にはなれないから。
否定の言葉を口にしたい。だけど、俺は化け物になり果ててしまっているし、そもそも彼女は意識を失っている。どんな言葉を吐こうと、彼女には届かない。
……なんで?あの日、あの時、俺が化け物になった時、彼女からは逃げ出したはず。だというのに目の前にどうしてこの少女がいるんだ?
そもそも、どうしてあの時、俺はこうなる道を選んだんだっけ。記憶をたどる。たどって、たどって。そうだ、俺は少なくとも、この少女だけは手放せなかったんだ。化け物と言われたとしても、こんな俺を救ってくれた少女を失わせたくなかったんだ。少なくとも、彼女にとってはヒーローでいたかったんだ。誰かにヒーローと思われたいじゃなく、彼女にとってだけはヒーローでいたかったんだ。
いられたのか?俺は。骸祈という少女にとってのヒーローで。いられなかった、なんて言えない。この少女はそんなところで嘘をつくはずがない。本気で思っていないと、この少女は動かない。だから……。
きっと俺のことをヒーローだと思ってくれていたのだろう。
「……ありがとう」
人としての言葉が俺の口から出た。すっかり化け物になり果てたと思っていた俺の口から。
俺はヒーローでいていいのだろうか。いいんだろうな。だって、少なくとも彼女にとってはヒーローになれたのだから。骸祈という少女は、俺をただただ助けに来たとか、罪悪感とかそういった感情で動く人間じゃない。多分、俺が自分のことを化け物だと思っていることが気に食わない、そんな理由なのだろう。
そこまでしてくれた少女の主張を俺が否定できるはずがない。
だから、俺の体から爪も牙も毛皮も、すべてが剥がれ落ちていく。俺が自分に張り付けた化け物という仮面が剥がれていく。
そうして、人間の姿へと俺は戻ることができたのだ。
とはいえ、とんでもないことを俺はやってしまった。
崩れ落ちた街だったであろう周りを見渡して思う。
「……そこは大丈夫だよ、ヒーローさん」
「え、リーダー?」
しろに抱えられてフィーネがその場に姿を現す。
「……大丈夫なのか?その怪我」
「うん、応急処置はしろにやってもらったからね、今の状況は祈ちゃんのほうがやばそーだしね」
「それはそうなのかもしれないが……」
まともに立っていられないようで、完全にしろにもたれかかっている状態でそう言われても、心配が勝るわけで。
「あ、しろ、あそこの瓦礫にでも私を置いて、祈ちゃんの応急処置をお願い」
「……ん、わかった」
そうして、しろに連れられ瓦礫の上にもたれかかるフィーネ。しろはそれを見届けてから祈のほうへ向かって何やら始める。
「我が介抱してやろうか?」
「遠慮しとくよ、覇王に介抱されたなんてどれだけ高くつくか分からないしね」
ジトっとした目で覇王を睨んでから、改めて俺に向き直る。
「あ、祈ちゃんのほうは男子禁制だから目は向けないでねー。で、何が大丈夫なのかって話だね」
治療中の少女に目は向けないほうがいい、言われたらそうに決まっているのだが、心配する気持ちが先行して目を向けそうになる。……いや、しないよ?こんな状況でそれはあまりにも非常識だからね?
「大丈夫って言ったのは、私が君を誘導していたからね。あらかじめ君の行き先には人がいないようにしたし、復旧自体も結構簡単にできちゃうんだなー」
「……これを、か?」
「あらかじめ復旧の準備をしてたから、楽なもんだよ」
この原型の見えないほどの状況を復旧することができると……。ちょっと怖いんだけど。いや、この世界の非常識さはいつも通りなのだけれども。
「……りーだー、ちりょうおわった」
「早いな!?」
「あくまでおうきゅうしょちだから」
「……未だに慣れねえな」
こっちでも、非常識さを発揮していた。
「じゃあ、もどろっか、いつものとこに。私もそろそろ治療しなきゃだしさ」
「ん、じゃあみらいはいのりかかえて」
「ああ、わか……っえ!」
抱える?祈を?
「わたしはりーだーをかかえなきゃだし、はおーとみらいならみらいのほうがいいでしょ?」
「ふむ、まあ今回の主役はお前だろう。我は辞退しよう」
「……」
そうなのだけど。なのだけど……。
「いつまでも帰れなくなっちゃうから早くねー」
しろに抱えられたフィーネがそうあおる。ここで動揺してしまうと祈の治療が遅くなってしまう。意を決さなければならない。……ならない。
そうして、俺は決断を強いられることになったのだった。
「役得でしょー?」
今回のフィーネの煽りは俺の罪悪感を確実に植え付けるのだった。




