第63話 私のヒーロー
「あぁ……ミスったなぁ」
接近戦を挑んで、数十秒、耐えきれるはずもなく血だらけだ。傷口は負ったそばから回復することはできるのだけど、傷を負った瞬間に噴き出る血はどうしようもなかった。
「……首を狙うのはやめましょうぜ!」
ぎりぎり、私の首を切断せんとしていた一撃を回避する。さすがの私も即死しちゃったら生き返ることはできそうにない。できたら本当にヒロインって感じなのかねー?まあ、そんなキャラじゃねーので。
「といっても、失血で倒れるのは時間の問題。だとすると、どうする?」
一度倒れてしまえばあっさりと、私は殺されてしまうだろう。
「まったく、意地でも私を守ろうとした少年が殺そうとするんじゃねーよ」
届くはずのない愚痴をつぶやくが、そんなことで攻撃の速度が変わるような都合のいい展開は訪れない。
「……行動をどうにか制限するしかないかー、とはいえ、理性も吹っ飛んでそうだから躊躇とかそういった感情での制御はできそうにないよね」
ならば、物理的に拘束するしかないかー。……あ、じゃああれ真似してみようか。
術式を一つ組んで発動させる。
「やっぱり、私にもかなり負担があるねー」
ずっしりと何かがのしかかるような感覚が全身を襲う。重力の増加、何かで見たことのあるような力だ。リアルだったかフィクションだったか忘れたけど、案外再現できるもんだねー。
当然、一定範囲の重力を強めるというものなので、私にだってその影響はかかる。……いや、無理くり動かせばいけるか?筋力で動いている状態だとその負荷によって、動きは制限される。だけど、術で私の体を動かせば?ミスったら全身の骨がぽきりぽきりと折れてく羽目になりそうだけど。
もし成功すれば、理性の飛んだ未来君よりも、まだ辛うじて理性のある私のほうが、この重力で遅延した世界では優位に立ち回れるか?
「……ああ!考えるのめんどくさいなー!もう!」
らしくないよねー、やっぱり。思いついたことはやってみるが好し!思い立ったが吉日がモットーですぜ?初めて言ったけど。
「じゃあ、ミスるなよ私」
あらぬ方向に足とか腕とか曲げるならまだしも首とかやったらシャレにならんからな?
「……っ!これでもギリかー!」
振るわれた爪を後ろに飛ばせて回避する。とはいえ、さっきよりは動きが見える。多少なりとも遅くなってる。ただ、振り下ろしとかそのあたりのスピードは上がってるだろうから注意しないといけなそうですな。うまく、振り上げの動作を見てその射程範囲に入らないようにしないと。
「隠し玉なんて持っててもだねこりゃ!」
ひっそり組織から持ち出した妖刀を私は構える。しろは触るなって言っていたけど存外いい子で私のいうことは大体聞いてくれる。たまに反抗的だけど、まあ、今回は大丈夫そうである。ちなみに、これは私が術式で作り出した異空間に保管しておいた。持ち運びってめんどくさいなーって思ったときに適当に作った術式だ。
「さて、この子が通ってくれるといいんだけどね」
剣術なんてもの触ったこともないのだけど、まあ何とかなるでしょ!剣術じゃない?刀術?まあどっちでもいいか?
「せい!」
未来君に向かって刀を振り下ろすが、それは見事に空振る。
「うーん、見なかったことにしてほしいかもなー」
思いっきり振り下ろして、空振るってちょっと、かなり恥ずかしいものです。
「……」
刀を捨てるなんて思考が脳裏をよぎったけど、なんだか刀からちょっと悲しげなオーラを感じたのでやめる。うん、そんなかわいそうなことはしないよ。
「じゃ、ちょっと失礼しますね!」
姿勢を低くして、私は刀を強く握り、自分の体を未来君の懐まで飛ばす。
「……むっずいなこれ!」
返す刀で傷つけようとするが、それを爪で軽くはじかれる。ただでさえ、思い通りに自分の体を操作するのも大変だってのに、こんなことされるんだもんなー。そりゃしんどいってもんですわ。
「どうやって当てたらいいものやら」
弾かれたということは本能的に傷を負うことを予感した、それともただただ弾けたから弾いた、前者だったらいいなー。でないと、完全に私側にダメージを与える術がなくなっちゃうや。
「……そんでもって、多分君の攻撃って受けたら駄目だよね?」
振り下ろされる腕を刀でガードするなんて考えがよぎったが、そんなことをしたら刀は無事でも私の体が地面の栄養になってしまいそうだ。結局、全回避。おー、やっぱりクソゲーだねー。現実ってやつは。
「まあ、レベル不足ってのが一番考えられるわけだけどね」
格上に挑んで一撃も攻撃をもらったら負け。んー、そう考えると、格上に挑んでもプレイスキル次第では勝てる神ゲーともいえるかもしれない。
「……と、考え中の攻撃はダメでしょうよ」
くるりと体をひねって、攻撃をいなす。瞬間、ぐらりと眩暈が私を襲う。
「時間がないってことね」
ちょっと、アドレナリン的な何かで意識が保ててるけど、時間が経てば、失血による酸欠で倒れてしまうって感じだろうね。
「だったら、やっぱり距離をとるのは駄目だろうね」
結局、倒れてしまうなら傷が増えようが一緒。後遺症とかそんなのは未来の私に放り投げる。一か八か、距離を詰めて戦い続ける。随分と無謀な判断だけど、きっとそれがベストだろう。
「こういうのはやったことないんだけどね!」
未来君の振り向きざまに合わせて私は蹴りを放つ。肉弾戦の経験はあまりない。けど、理性とかそういったものを捨て去っている相手に当てられないほどじゃない。
「……ま、ダメージ通るわけないですかっ!」
そりゃ、術をはじき返す毛皮相手に、一般人に少し毛が生えた程度の蹴りを叩きこんだところでダメージになるはずもない。
「じゃ、こういうのは?」
私は跳んで、未来君の上空をとる。そのまま踵落としを食らわせる。重力の増加した上での踵落としだぜ?体重が重いわけではない、断じて。
「……みゃ!」
それをじっと受け止めて、頭を振り上げて私は振り払われる。
「全く、女の子にそんなことしちゃ駄目だよー」
スカートの中見えちゃうじゃないですか!そんな乙女じゃないけど、けど!
「……あうっ!」
着地の瞬間足を滑らせてしまう。
「くるっときれいに着地したかったんだけどなー」
どうやら、そろそろ体が限界らしい。麻痺して感じていなかった痛みもひょっこりと顔を出している。
「……さて、多分これで最後になりそうだね?」
妖刀を構えて未来君に向ける。これでどうにかできなければ私の負け。……いやー、どうにかなる未来が見えないねー。
「……いくよ?」
ぐっと刀を強く握って振りかぶる。と同時に、地を蹴って距離を詰める。
「だめ、みたいだね」
刀は当てられた、だけど刃が通ることはなかった。
カランと音を立てて刀が地に落ちる。
「おっとと……」
そのまま私は倒れこむ。
「ん?ありゃ、とどめ刺さないんだ」
倒れこむ形になった私はばさりと、未来君に覆いかぶさる形になる。
「……じゃあ、最後に一つだけ言わせて」
だったら、最後に、私が勝ったら言おうと思っていたことを。
「少なくとも、私にとっては君はヒーローだったよ」
だから、自分のことを化け物だなんて思うんじゃねえ。私を救っておいて、何が化け物だよ。
それだけ言って、私は目を閉じる。何が気に食わないって、こんなことやっておいて自分を化け物だとかそんなことをほざいてるってことだよね。私は単純に、それだけ言いたかったのだ。
だから悔いはない。止められなかったことはちょっとリーダーに申し訳なかったとは思っているけど、私として言いたいことは言えた。これ以上を望むなんてことはないのだ。最初から戦って勝とうなんて思っていなかった。自分の身の程くらいわきまえてるつもりだ。あわよくば、一瞬でも意識を戻せたらその時に怒鳴り散らしてやろうと思っていたくらいだ。
そうして、だんだんと意識が薄れていく。まあ、悪くない結末じゃないかなって思う。大丈夫、多分リーダーのことだから私が失敗した時のことも想定してる。
「ばいばい」
私のヒーロー、私は救われるようなヒロインじゃなかったけど、少なくとも私のヒーローには成れてたと思うよ。そうして、私の意識は深く深く落ちていくのだった。




