第59話 トゥルーエンド
確かに、銃弾で覇王を殺すなんてイメージはつかない。だけど、私というある意味覇王と同格の人間が放った弾丸が通じないはずがないのだ。
覇王の超能力は、簡単に言ってしまえば自分が最強であるという自負によってバフが入るというものだ。彼はその圧倒的な自信ゆえに最強足りうる。つまり、自分より格下だと思っている相手には負けない。対し、私は世界最強の名を覇王から奪った。そして、彼もその事実を認めていないというわけではない。
そうして、私の放った銃弾が予想外に心臓を貫いた。一瞬でも敗北の二文字が彼の脳裏によぎったはずだ。であれば、覇王の最強は崩れ落ちる。
「お前と同じように我にも優秀な味方がいてな。この一撃もそいつが教えてくれたのだ」
「あらかじめ、心臓を貫かれると知っていたなら死ぬはずがないと」
「そうだろう?誰かが予測した結末で我が死ぬ、そのようなことがあるはずがないだろう」
「で、それを伝えたのがさっきから隠れてこっちを見てるあの少女ってことかな?」
私は、1kmほど離れた場所の木からこちらをうかがっている少女に目を向ける。
「彼女の声をそのイヤホンを通して聞いている」
「ふむ。確かに、これはあまりにもわかりやすいだろうな」
覇王の左耳にはずっとイヤホンがあった。無線通信であの少女から何らかの情報を受け取っていた。何らかの情報、いや、答え合わせをしようか。
「差し詰め、彼女の超能力は未来予知ってところかな?それで私の行動を読んだ」
「ご名答。そして、お前も未来予知の超能力なのだろう?」
「私の力は未来予知なんて都合のいいものじゃないよ、歌え、エンドロール」
私は手のひらの上に一冊の本を召喚する。
「……そうか、視界情報ではなく、文字として未来の情報を得るという力なのだな」
エンドロールの力は二つ、未来の追体験とそれらの情報を文字として得られるというもの。
「はずれだね。私はなんどもその未来を経験できる。そういう力だよ」
「ほう!やはり、お前は特別なのだな」
特別かぁ。否定はしない。だけど、未来予知と違って、自分の経験しか分からない。つまり、この力だけでは、解決方法をノーヒントで見つけ出すしかないのだ。
「じゃあ、ここからは私も本気で行くよ」
エンドロールをふわりと宙に浮かべ私は拳銃を再度構える。
「さあ、私が君にとどめを刺すか、その前に私の気力が切れるか、始めようか」
なんども覇王との戦いは回避してきた。今回だって、本来の予定では覇王が緋色未来を殺して世界は救われた。そんな結末にする予定だった。それが最善だと思っていた。
あの神様は私が存在を知った時には手遅れだった。どんな手を使っても降臨する。覇王の手を借りても、完全に滅ぼすことができなかった。なんどもよみがえる。その度、甚大な被害が発生する。だから、神をも喰らう獣になる可能性を秘めた、緋色未来という人間が必要だった。喰らいつくしてしまえば、神は復活できない。だから、骸祈という少女に神様を宿らせて、緋色未来という少年が神様を喰らう。そんなシナリオだった。
「さあ、いうなればトゥルーエンドを目指して、殺し合おう、覇王」
私は、骸祈という少女を信じる道を選んだ。ゆえに、ここで覇王を足止めする。まだ、私のエンドロールに描かれたシナリオは覇王が緋色未来という少年を殺して、世界が平和になった。そんな結末だ。私がどうあがこうとも、覇王を止められなかった、変わることのなかったこのシナリオを変えるのだ。そのために、私は抗う。だから、トゥルーエンド、私がエンドロールのシナリオを塗り替える。未来予知できなかったエンディングを目指す。
私は、両手に銃を構えて同時にそれを放つ。今度は逃げるためじゃない。弾丸は覇王の足元に着弾して、瞬間視界は一転し、私は覇王の目の前に現れ、弾丸を放ち、回し蹴りを放つ。弾丸は躱され、回し蹴りは当たってもびくともしない。
弾丸を右下に放ち、すぐさま移動。そして、再度弾丸を放つ。やることは単純。先ほどよりも戦闘のスピードを上げる。覇王と未来予知の少女は無線通信とはいえ、口頭でのやり取り。ゆえに、情報の共有には若干のタイムラグが生まれる。
「随分、リスクの高い方法を選んだな?」
その通りで、距離を詰めるということは私のとれる回避手段も狭まり、判断にかかる時間的猶予もほぼゼロに近くなる。そんな短時間に完全に覇王の攻撃への対処法を探し出し、完全回避する。そんな神業は私にはできない。
「これくらいしか、私の頭じゃ浮かばなくてね!」
「であれば、お前の負けだ」
そうして、私に向かって、その致命的な一撃、威力を込めた拳が迫る。
「ねえ、私って万能に見える?」
「何が言いたいんだ?」
「私も、全く驕っていなかったわけじゃないんだよ?こんな他の超能力とは格が違うような超能力を手に入れてさ」
「当然だろう。我やお前のような超能力者とほかの超能力者とでは大きすぎる差がある」
「そう。私もそう思ってた。だけど」
瞬間、覇王の胸を一つの刀が貫く。
「追いついてくれる人もいたんだよ」
「りーだー、まった?」
「いや、全然。むしろ思ったより早かったね、しろ」
私の超能力の予知から抜け出した一人の少女、しろ。私が用意したもう一つの切り札だ。私たちの知る未来から逃れた存在。ゆえに、私にとっても、覇王のサポートをしていた少女にとっても、この一撃は想定外。
「……ん。やっぱりだめそう」
だけど、私の攻撃というわけじゃない。だから、予想外の一撃で、覇王の心臓を貫いたとしても致命傷足りえない。
しろは、すぐさま私のものと同じ瞬間移動用の弾丸で覇王から距離をとる。
「ははは!まさか、お前以外に我に傷をつける人間がいるとはな!」
「きずっていうか、しんぞうをさしたんだけど」
「そんなものかすり傷だな!」
何が面白いんだか。高笑いする覇王に私は思う。
「それで、しろ、あっちのほうは片付いたの?」
「ん。ありすがいっそうした」
「あー、確かにアリスなら相性ばつぐんか」
「ん。まさか、あんなじしょうするとはおもってなかった」
アリスの超能力は感覚の共有。自分の感じた感覚を広範囲に渡って共有することができる。自分を傷つけて、相手全員を戦闘不能にさせた。こんな展開は私は知らない、つまり、しろが居たからこそあり得た展開だということだろう。やはり、しろが関わると、私たちの未来予知には映らないということ。
「りーだーのとこにいきたいんでしょって、かっこいいこといってたよ」
「じゃあ、期待には応えてあげなくちゃね」
心配する気持ちもある。だけど、死ぬほどの怪我をしたわけではないようだし、私たちに託してくれたその意思を踏みにじるようなことはするわけにはいかない。
「我とあの少女以外は全滅ということか」
「ん。だから、おまえたちをとめたらおわり」
「できると思うか?」
「出来るさ。私たちならね。……さあ、奏でろ、エンドロール」
エンドロールは一層強い光を放つ。どうなるか、ここからはさっぱり読めなくなる。だけど、不思議と不安はない。仲間とともに私は覇王と対峙するのだった。




