第58話 銃弾
「自棄になったところで我には届かないぞ」
連射した銃弾すべて、覇王は腕の一振りではじく。
「運が良ければ当たるかもよ?」
追加で放った弾丸が覇王に向かい、それと同時に覇王は何かに躓く。
「……運、それをねじ伏せてこその王だろう?」
偶然に躓いた覇王はすぐさま、弾をはじくことをやめ、回避に切り替える。一度銃弾をよけ、そしてくるりと方向を変え、銃弾に手を伸ばす。
ぐっと、銃弾を握りしめ、私に向かってそれを投げ返す。
「ちょっと、ほんとに君人間?」
拳銃で打ち出すよりも早く迫ってくる弾丸を間一髪回避する。
なんで投擲が火薬を使って打ち出すよりも威力があるのさ。
「我は覇王ぞ?種族など関係なく最強、それが我だ。といっても、人間でないというわけではないがな」
傲岸不遜、その一言がこの男を表すのにもっともふさわしいだろう。
「だったら今日が、その最強が崩れる日だよ?」
もう一度、実弾を覇王に向けて放つ。
「それはもう見飽きたな」
一瞬にして私との距離を詰めて、私が握りしめている銃を蹴り上げる。
「っーー!」
「手放さなかったことは誉めてやろう」
直接蹴られたわけじゃないというのに、骨が折れているのではと思うほど右腕が激しく痛む。こんな衝撃をまともに受けた銃身は無事なのだろうか。いや、しろ作の拳銃がそんな簡単に壊れるとは思えない。きっとまだ、生きている。そして、覇王もそう考えるだろう。
だったら、と私は蹴り上げられる勢いのまま、拳銃を空へと放る。捨てる、というわけじゃない。
「なるほど。瞬間移動で拳銃の落下地点に移動し距離をとるか」
私は左手に握った銃を背後へと向ける。そして、一発の銃弾を放ち、続けざまに覇王に向けて放つ。
拳銃を蹴り上げられるほど近くまで接近していた覇王は回避はできない。だから、反射的に手で弾く。
結果、私は背後に一瞬移動し、その間に放り投げた実弾の銃を回収する。
続けざまに、私は実弾の拳銃を背後に向けて構え放とうとすると同時に、視界は一瞬暗転。実弾は放たれ、私の背後に向かう。
「ほう!今のは効いたぞ?」
「かすり傷程度しか通らないんだ。つくづく規格外だね」
「言っただろう?そんな玩具で我の命を奪うことはできない。まさか、傷を負うとは思わなかったがな」
ダメージが通った。頬に一筋、血がにじんでいる。ほとんど影響のない傷だけど、確実にダメージは通っていた。と言っても、同じ手は次は通じないだろう。
瞬間移動の拳銃は、撃った場所に移動するというものではない。撃った相手と自分の場所を入れ替えるという効果が正しい。だから、地面を撃つと砂と私の位置が入れ替わる。それによって瞬間移動しているように見えるという仕組みだった。先ほどは、覇王と私の位置を入れ替え、実弾をさっきまで私がいた場所に放つ、という流れで一撃入れた。が、ネタが割れてしまえば、対応できる。場所が入れ替わっても、それが分かっていれば覇王の反射神経であれば十分に次の攻撃を防ぐことができる。
「さあ!次は何を見せてくれる?」
どんな、策を講じようと真っ向から叩き潰せるという自負を叩きつけてくる。私の引き出しはどこまで持つか。ここからは、消耗戦だ。私の引き出しがなくなるまでに、覇王に致命傷に至るまでのダメージを与えることが私の勝利条件。
それからは、延々と少しずれた作戦を繰り返した。前もって埋めておいた爆薬を爆発させてみたり、毒入り銃弾を撃ち込んでみたりと、様々な手段を講じてみた。しかし、そのすべてを余裕をもって耐えられてしまった。何なら、毒はそもそも気づいてももらえなかった。まあ、毒が覇王に聞くなんて最初から思ってもいなかったのだけど。
実弾を地面に向けてはなって、埋めた爆薬に着火する。
「ネタ切れといったところか?」
「どうでしょうか!?」
その間に私はマガジンを捨て、取り換える。
そうして、左手の銃を覇王に向けて放つ。
「また、誘爆に我を巻き込むつもりか?」
「爆発が一番よけきれなかった時のダメージが大きいでしょ?」
「ふむ。我を侮っているな?」
覇王はこの策に乗ってくる。誘爆という私の作戦を正面から叩き潰そうと。
左手に握っている銃は瞬間移動専用のものであると、そう認識したから。私は、左手に握っている銃でしか瞬間移動の弾丸を放たないし、右手に持っている銃でしか実弾を放たない。瞬間移動の弾丸は移動はさせるが、ダメージが入ることはない。だから、その銃弾は抵抗なく覇王に着弾する。
「これがお前の奥の手か?」
「やっぱり、通用しないか」
確かに、私の実弾は覇王の心臓を貫いたはずだった。
「心臓を撃たれた程度で覇王が死ぬと思ったか?」
「うわー、とても種族人間の発言とは思えないやー」
心臓を貫かれたら、私でもさすがに死んでしまう。まあ、貫かれないように立ち回るのが私だけども。対して覇王は貫かれてなお、立ち続ける。世界最強は伊達じゃないってことだね。
……だけど。
「気づいたうえで受けたでしょ?それ」
「……ふむ。さすがだな」




