第57話 現世界最強VS元世界最強
〈sideフィーネ〉
緋色未来という少年は暴れすぎた。いや、すでに自我も消え去っているのだろうから彼に落ち度があるというわけではない。世界中が協力して情報操作を続けているが存在が世間にばれてしまうのは時間の限界だろう。
だから、全世界連合で緋色未来討伐作戦が提案され、それが承認された。いや、あの姿を知っているのは私たちと覇王くらいだ。性格的に覇王はそう言った情報を漏らすタイプではないから、他の人間にとっては謎の化け物討伐作戦と言ったほうが正しい。そして、その連合には覇王が参戦する。
当然、私たち奏者にもその作戦参加要請が下った。表向き、私たちは参加して足止めを行う。それが私たちの目的だ。
「さて、本番だね」
「ん」
そして、運命の日、私たちはその作戦本部から少し離れた場所に潜伏していた。半分もメンバーが残ってくれたらいいなと思っていたがまさかの誰一人欠けることなく、作戦に参加してくれた。エンドロールでの未来視はその時使うようなことはしなかった。使えなかった。誰も残らなかったらどうしようと不安で仕方なくなってしまうのだ。だから、あの日の演説はぶっつけ本番だった。しろ的には予想通りだったらしいけど。
「さて、私たちは今から世界と敵対する。だから、命令は一つ、死なないで」
そうして、始まる私たち対世界の戦いが。
「もう少し、お前は利口な人間だと思っていたのだが」
私たちが立ちふさがると、そんな言葉を零したのは覇王である。その通りで、かつての私ならこんな選択肢は選ばなかった。勝算のない勝負はしない主義だった。
「ごめんね、私ってそんなできた人間じゃないからさ」
「気でも狂ったか?それとも、我に勝てると本気で思ってる愚者だったか?」
「私って見た目通りまだ子供なんだよね。だからさ、欲張りなんだ。誰かの犠牲の上に成り立つ世界なんてくそくらえだってね。理想論を追求して、あがく、それが私という人間だから」
「ははは!やはり面白いな!まさか、こんな行動を起こしてくるとは思わなかったぞ?」
「で、君は私の敵になるかな?」
「なるほど。確かにお前と組むのも面白そうだが、我は覇王。ゆえに、全を守るために個を捨てる。それが王だろう?」
「うん。やっぱりそう言うと思った」
この男はそういう人間なのだ。少しでも多くの人間を救う。
「お前もそのような思考回路だと思っていたのだがな」
「あいにく、全も個も守る方法を探したいんだ、私は。たとえ、すべてを失うとしても」
「そうか。我とお前は相容れないということか」
「少なくとも今回はね」
もし、緋色未来という少年が何の被害も発生させていなければ、協力するという未来もあっただろう。だけど、今回道は外れてしまった。
「だから、始めようか」
懐から拳銃を取り出して、覇王に突きつける。
「そのような玩具で我に届くと思っているのか?」
「そうだね。私以外なら届かないかもね」
仮にも現在は私が世界最強で、この男ではないのだ。
「ただの銃弾じゃなくて、現世界最強が放つ銃弾だよ?元世界最強を貫けない理由がない」
「そうかそうか!確かにそうだな!お前の銃弾なら我に届くのも道理か」
さあ、決戦の始まりだ。
開幕と同時に私は銃弾を放ちながら、首を傾ける。パアン!とひとつ弾けるような音がして、銃弾が覇王の横を通り抜け、覇王の拳は私の隣を通り過ぎる。
「どう?一瞬でもよぎったんじゃない?敗北が?」
「お前こそ、そうなのではないか?」
「もう敗北には飽きちゃったもんでね、そろそろ勝利が欲しいかな?」
「お前にはまだ早いな」
そう言って、覇王は地を蹴る。
「おっと危ない」
私は身をかがめて、私の頭上を通過する回し蹴りを回避する。
そうして、私はもう一つの銃を取り出し、地に向けて放つ。
「どこを狙っている?」
「さあて?どうだろうね」
再度接近してきた覇王は私に再度拳を叩きつける。それを私は見つめるだけ。
そして、その攻撃は空振り。
「なるほど。そちらの銃は瞬間移動用ということか」
「一瞬くらい動揺してほしいものだけどね」
一瞬にしてからくりを見破る覇王に私は苦笑するしかなかった。私の超能力とは全く違う力なのだから、多少混乱してほしいものなのだけど。
「まあ、想定の範囲内だよ」
実弾の入った銃を覇王に向けて引き金を引く。
「そんなに無駄打ちをしてしまっていいのか?」
あっさりとその銃弾は覇王の手によってはじかれる。裏を返せば、手ではじかれさえしなければダメージは通るということだろう。本当に、負ける余地のない相手でこの男は防御なんてことはしない。すべてをその体だけではじき返す。
「さあ、どうだろうね?でもまぐれ当たりってのもあると思うんだ、私」
私は横に勢いよく転がりながら、反対の銃を撃つ。
「瞬間移動されるなら範囲攻撃をってことね。ずいぶん対応が早いなぁ」
銃弾が届く範囲すべてを巻き込む風圧を発生させる蹴りを放つ覇王。それを、銃弾プラス転がることで回避する。
「それに対応するお前もお前だがな。だが、次同じ手は通用せんぞ?」
相手の攻撃の穴をエンドロールで探し続ける。それが私の戦い方だ。結局、対応方法は自分で思考しなければならないわけで、そういくつもの対応策が浮かぶほど私は賢くない。
「それは早く決着しなきゃだね」
だから、私は実弾を連続で放つ。




