第54話 神下ろし
「この辺りか」
俺は、しろの残した地図に示された場所までたどり着いて辺りを見渡す。こちらの姿であれば、侵入者というより、化け物に襲撃されたと思う程度で奏者との関わりが疑われることはないだろう。
「よくこんな塔を秘密裏に作れたな」
俺の目の前にあるのは、スカイツリーと同等はあろうかというほどの巨大な建造物だった。おそらく、奏者の本部に使われているような隠蔽の結界かなにかが使われているのだろう。こんなものがあってフィーネやしろは驚かなかったのかと疑問だが、まあ、あの二人だからなぁ。
「この中に祈がいる」
さすがに、塔を崩壊させてしまうのは祈にも危害が及ぶ。そもそも、壊せるのかという疑問もあるが。
「おい!止まれ!」
俺は駆け出して、その塔の入り口に突撃する。何やら見張りの人間が叫んでいるが無視だ。まるで意思のない化け物を演じる。それが、この場でできる精いっぱいの奏者への配慮だろう。
強化ガラスを俺の体は突き破ってその入り口を強引に突破する。背後からは銃声。先ほどの見張りが俺に向かって打っているのだろう。だが、そのすべては俺の毛皮にはじかれる。
「ワオーン!」
一つ遠吠えをして、そいつらを威圧する。それだけで、見張りの人間たちは泡を吹いて倒れる。化け物が潜入してきたのだとばれてしまう可能性があったが、先ほどの見張りが報告しているだろうし今更だ。
一気に俺はその中へと入る。中は異空間のように広がっていて、その中を縦横無尽に俺は駆け回る。
祈はどこだ?一つ階を探索し終えるたびに、階段を駆け上がる。いったい何階建てなのか不明だが、しらみつぶしに探すしかないわけだし。しろもどこに茜が囚われていたのかメモしておいてくれたらよかったのだが、そんな記述はなかった。
「これでどうだ!」
俺のいた部屋に激しい電流が流れ始める。だけど、そのすべては俺の毛皮を貫通するには至らない。
「化け物め!」
化け物か、確かに今の俺はそう形容するにふさわしいだろう。だけど、それで祈が救えるなら十分なのだ。俺が化け物になり果てようとも。
だから、俺はその男を蹴り飛ばし意識を奪う。命までは奪っていないだろう。確認はしていないから確証はないが。
それから、何人もの人間が俺の前に立ちふさがり、その都度蹴散らしてきた。そうしてたどり着いた頂上。間には牢屋もあったが祈の姿はどこにもなかった。
「……あなたが侵入してきたという化け物ですか」
「グルル……」
頂上にいたのはでっぷりとした腹を揺らした中年の男だった。そんな男が尊大な態度でその場に立っていた。
「ですが、実にタイミングがいい!」
その男の背後にふらりと何かが漂う。そうして、その男の首がぐるりとねじ切られる。
「……は?祈?」
後ろで漂っている少女は紛れもなく祈という少女だった。
「っ!……あ、ごめ、にげ」
一言そう残して彼女の首がぐらりと垂れ下がる。まるで意識を失うように。
瞬間、全身を激しい悪寒が襲う。急いで俺はそこから飛びのく。瞬間、先ほどまで俺のいた場所がぐしゃりとゆがむ。
「なにが……」
あれをまともに受ければこの体であろうとただで済まないということくらいは分かる。空間ごと押しつぶす攻撃。いや、攻撃とすら言えるのだろうか。圧倒的な存在がそこにはあった。神様といわれても信じてしまうだろう。
「……ベルは神の子だと育てられた、となると」
祈は神の依り代とするためにさらわれたということか。
んなのありかよ!こんなのにどうやって勝てって、どうやって祈を取り返せっていうんだよ。すでに、祈の意識は残っていないだろう。神様を引きはがすような儀式についての知識も俺にはない。
「……でも、ここで諦めるわけにゃいかねえ」
だから、立ち向かうのだ。少なくとも、骸祈という少女だけは俺は救わなくちゃいけないんだ。彼女を救わなくちゃ。
だから、俺はそれとの距離を詰めようとして。
「……ガァ!」
悪寒に従って俺は身をひねるが体の一部がえぐり取られる。痛い。かすっただけでこのレベルのダメージかよ。
しかし、その傷はすぐに再生される。どうやらこの体は再生能力も異常なほどに高いらしい。初めて知る事実だったが、今はそんなことに割く意識のリソースは残っちゃいない。今はラッキー程度に思っておくべきだ。
「こいつでとど……」
俺の手が祈に触れそうになった途端に、ぐわりと視界がゆがんだ。吹き飛ばされたのだと理解するのに数瞬の時間がかかった。
「……どうすればいい?」
正直、届くビジョンが見えなかった。そもそも、どうすれば祈を殺さずに止められるのかということすら分かっちゃいないのに、挙句、戦闘能力でも全く及ばないときた。
一つ舌打ちをして、俺は再度前をにらむ。俺よ戦え。希望が見えなくてもそれしかないのだから。そうだ。一つ、手があるとしたらしろたちの合流だ。作戦決行は明日の朝。つまり、その時間まで耐えきれば可能性は見えてくる。現状をしろに伝えられたらベストなのだろうけど、正直今の俺にはそんな余裕はなかった。
現状、十分すら耐えられるか微妙なのだが、それくらいの無茶こなしてやる。だから、勝ち目のない戦いに挑むのだ。




