第53話 作戦会議と
「さらった相手の目的は僕の力だったみたいでね。僕を従えるために茜に危害が加えられることはなかったのは救いだったね」
「……」
その言葉を聞いた俺は何も言葉を返すことができなかった。
「……どんな事情があったにせよ、僕が祈ちゃんを誘拐したっていうのは事実。君が僕を殺したいっていうのなら抵抗しないよ」
太陽は両手を広げて、こちらをじっと見つめる。
「……だったら、私も死にます」
そんな太陽の前に茜という少女が立ちふさがる。
「いや、君はいいんだよ。人質を取られていたとはいえ、僕はやっちゃいけないことをやったんだから」
「それでもです。もとはといえば、私が油断してつかまってしまったのが原因ですから」
「……もういい」
一言、そう吐き出すことが俺の精いっぱいだった。ここで太陽を殺すなんてことしたところで何の問題も解決しない。恨みの感情がないわけじゃないが、ここで感情のままに行動するのは祈のいうヒーローとは違う気がする。
「……そっか、ちょっと間に合わなかったんだ」
フィーネも沈痛な面持ちをしている。しろはそこまで表情が変わっているようには見えないが、どこか暗い。
「とりあえず、もどろうか」
リーダーの一言で俺たちはその場所を後にすることになったのだった。
「おそらく、茜ちゃんと同じ場所にとらわれている可能性が高いだろうね」
それから、僕らは奏者の本部に戻って作戦会議を行っていた。作戦というのは祈を救出する作戦だ。
「私たちの侵入にはおそらく気づかれていない。茜ちゃんが逃げたって情報は出回っているだろうけど、すぐさま別の場所に拠点を移せるとは思えない」
「だから、はやめにさくせんはじっこうする」
会議を仕切るのはフィーネとしろ、組織のリーダーと頭脳役で、参加者は俺、ベル、太陽、茜であった。覇王はすでに帰ったらしい。
「だったら、今からでるの?外はもう真っ暗になっているけど」
ベルの言う通り、外は暗闇に包まれていて、俺の姿も化け物のものとなっていた。太陽と戦ってからずっとこの姿のままだ。
「そうしたいところだけど、移動手段がない。それをしろが今準備してて」
「だいたい、あしたのあさにできる」
「らしいから、明日の朝出発だね」
「なあ、俺だけで行くことはダメか?」
俺のこの姿であれば、全速力で走れば日本の端から端まででもおそらく一時間でたどり着く。場所さえ分かれば俺単独で救出に向かうことが可能だろう。
「……奏者としては許可できないね。危険すぎる」
「そうか……」
なんとなく、そんな気はしてた。
「とりあえず、作戦の内容を話していくね。今回の作戦の目的はあくまで救出であり、戦闘じゃない。だから、少数での救出作戦とする」
「となると2~3人ってこと?」
「そうだね。今回は3人で取り組んでもらう。で、メンバーはまず、潜伏能力の高いしろ、そして、情報収集能力を見込んでベル、そして戦闘能力と元相手組織のメンバーとして白沢君。この3人で」
「ん」
「了解」
「分かったよ」
三人が了承して。
「じゃあ一旦、明日まで解散ということで」
そうして、俺はその場を後にする。不満はある。俺も祈の救出に向かいたい。だが、リーダーの人選にも納得していたということも事実で、騒ぎ立てようとは思えなかったのだ。
「あ、みらい、わたしのへやにいってありすにつたえておいてほしい」
「え、あ、了解」
なんでこんな時に俺に頼むのかと思ったが、茜はしろの部屋を知らないし、俺に頼まざるをえなかったのだろう。
俺は、しろの部屋まで来てドアをノックする。
「あー、入っていいよー」
そんなアリスの返答を聞いて俺は入室する。若干薬品臭のする、女の子らしくはない部屋に。
「うん。しろねえの言ってた通りだね」
「言ってた通りって?」
俺が来ることを想定してたのだろうか。だとしたら、なんで俺に伝言なんかを。
「電話で言ってたから。あ、電話とかの手段があるのに伝言頼むと思う?って言ってたよ?」
「なに?俺を馬鹿にしたいの?」
そんな手段にすら思い至らない俺の頭の悪さを笑いたいのだろうか。
「そんな、ローなテンションじゃだめだよー。ヒーローなら諦め悪くいかなきゃ、って祈お姉ちゃんなら思うよ」
「諦め悪くって言われてもな……」
「しろねえがこれを渡すようにって」
アリスは俺に向かって、一枚の紙を差し出す。
「これは?」
「組織としては認めないけどって言ってたよー」
そこには、茜を救出するために向かった場所の繊細な地図が載っていた。
「……私は祈お姉ちゃんじゃないけど、お姉ちゃんだったら、きっとこういうよ。ヒーローになってきなって」
「……ああ、任せろ」
そうか。ここまでお膳立てされちゃ、行かないわけにもいかないよな。帰ってきたらリーダーに何言われるか分かったものじゃないが、動かないってのは祈と出会う前の俺に戻るようなものだ。今更、ビビる必要はないだろう。
「じゃあ、行ってくる」
「んー、行ってらっしゃいー」
先ほどまでの祈スタイルをやめて、いつも通りのスタイルに戻ったアリスに苦笑しつつ、俺はその足で飛び去るのだった。
〈sideフィーネ〉
「ん、でていったみたい」
「らしいねー。ちゃんと立ち直ったみたいで何よりだね」
正直止めることは容易なのだけど、まあ、私はこれがベストだと思っている。
「で、何の用?」
「いや、少し聞きたいことがあってな?」
その部屋に覇王が姿を現す。ベルと太陽くんには説明を終わらせたのでここにいるのは私としろのふたりだ。
「で、聞きたいことってのは?」
「お前なら祈という少女がさらわれることも防げたのではないか?」
「かいかぶりだよ、私はそんなすごい人間じゃない。想定外の連続だよ」
これは、間違いなく本音だった。最近の話だけど、しろという私の想定を超えてくる人間がいるのだと、どこか予定調和じみた世界から抜け出せたのだ。良い意味で想定外って出来事が増えてきた。いや、面白いと思えるようになったというほうが正しいかもしれない。
「我は、お前は仲間を見捨てるようなことをする人間ではないと思っていたのだがな」
「こんな世界でこんな組織のリーダーをやってるんだ。いっぱい見捨ててきた人はいる。それでも決断しないといけないんだよ」
何人も、私は救える人間を見過ごしてきた。仕方ないのだと自分に言い聞かせて。
「そうか、だったら、聞き方を変えよう。今回見捨てたのはどちらだ?」
「……」
その言葉に、私はじっと、覇王の瞳を見つめるだけだった。
「まあ、いいだろう。我の力を借りようとは思わないのか?」
確かに、覇王の力を借りるという選択をすれば多くを救うことができるだろう。
「少なくとも、今回はないよ。君は強い。けどそれだけだから、適切な物語があるんだよ。圧倒的な力で無双するだけの話じゃつまらない」
「強いだけ、か。そんなことをいうのはお前くらいだな」
そう言って、高笑いしながら去っていく覇王。それを見届けてから私は外を眺める。
「……ねえ、ちょっとさ、きになったことがあるんだけど」
「ん?しろが珍しいね」
「わたしだってにんげんだから」
「そりゃそうなんだけどね」
そうして、しろはとある提案を口にする。
「ふふ、あはは!」
「なんでわらう?」
「いやー、それは流石に思いつかなかったなーって」
「でも」
「うん。でも。いいね」
「しっぱいしたらおわりだよ?」
「そんなの今更だね。私もそれを見てみたいから」
「りーだー、たのしそう」
「いやー、本当に私の相棒がしろでよかったよ」
「おー、あのひとがきいたらわたしころされそう」
「だいじょうぶ、少なくともしろだけは必ず守るから」
「……え?」
ちょっと重たい台詞だったかななんて思いながら私は会議室を後にする。
「りーだー、ちょっとまと?」
そんな私を、後ろから追ってくるしろが追ってきていた。




