第52話 茜と太陽
「もう退院なんですか?すごい回復力ですね」
僕はその一週間後、医者から退院許可が出た。その間、毎日のように茜はお見舞いにやってきていた。そこまでしなくてもいいのに、とは思ったのだけど。
「……にしても、怪我人にこんなことをさせるなんてね」
退院したその日から、僕は任務に強制的に参加させられた。
「頑張ってくださいね」
そうして、茜は僕のサポート役として配属された。僕ら超能力者のことを知ってしまったから、有効活用しようという考えがあるらしい。とはいえ、記憶消去するという手もあったらしく、茜自身がそれを拒否したという形だ。
「本当に良かったの?僕たち側に来るのは危険だよ?」
「分かってます。まあ、助けた当初はこんなことになるとは思っていなかったんですけど」
「本当にこんな世界があるとは思わないよね」
陰陽師とか、そういう存在はほとんどの人間にとってフィクションだ。いや、歴史上の占い師的な陰陽師の存在を信じている人はいるんだけど、本当に妖と戦う存在がいると信じている人はほとんどいない。
「昔から霊感のようなものはもっていたので、割と信じることはできましたね」
霊感かー。僕は陰陽師を名乗ってはいるのだけど幽霊ってのは感じたことも、見たこともない。いや、死者を見たことがないってだけで、妖怪だとか呪いとかは見たことはあるのだけど。
「あと、出会いは大切にしたいので。なかったことにしちゃうのは、信条?に反するというか」
「……ふふ、面白い信条を掲げてるんだね」
「笑わないでください」
損する性格なんだろうと思う。まあ、僕も僕で生きにくい性格しているとは思うのだけど。
「いいと思うよ。そういう、ちょっとずれた人間のほうがこっちの世界は生きやすいから」
「私が変な人って前提はやめてくれません?」
「ごめんごめんって」
真っ当な常識とか倫理とか、そんなのは通用しない世界だ。なにかひとつでも尖った感性を持っていないと、通用しない。茜の場合、たぶんその優しさだ。
「まあ、しんどいことはいっぱいあると思うけど、頑張ればいつかどうにかなる、そんな世界だからさ」
「それは何事でもそうじゃないですか?」
「まあ、それは否定しないけどねー。こっちの世界はそれが顕著だって話」
「そういうものなんですか」
「そうそう、まあ、そのうち分かるよ」
こっちの世界で生きていくために重要なのは一点、意思を強く持たないといけないってこと。それがなんであれ。
……まあ、僕はそんな高尚な考えは持っていないんだけど、上にはそういう強い意志を持った人間ばかりだってことは知っている。
「じゃあ、そろそろ僕は行くよ。任務を受け取った以上、やらないといけないから」
「なんだか、なげやりですね」
「そりゃ、あんな大怪我した直後にこれはねぇ?」
いや、上の人たちは常識とか、倫理観とか、そういうのが不足しているような気がする。
「ま、行ってくるねー」
そうして、僕は茜と別れて任務に向かうのだった。
それからはまあ、いろいろとあった。茜が超能力に目覚めたり、僕が重傷をまた負う羽目になったりと。中でも、大きかったのは茜と僕が恋人になったということだろう。僕にそういう相手ができるとは全く思っていなかった、というのが正直な感想である。
それを機に、僕の陰陽師としての実力も伸びていった。陰陽師の中では上から数えたほうが早い程度には。……今考えればそれがよくなかったのだろう。
「今日もお疲れ様です」
「そっちこそ、今日も相当大変だったでしょ?大盛況だって聞いたよ」
「大盛況という表現が適切かどうかは分かりませんが、かなり大勢の人が来られましたね」
「来られたなんて丁寧に言う必要はないと思うけどなぁ」
彼女が目覚めた超能力は回復能力。死んでいない限り、ほとんどの傷、病気を治療することができる。日々、任務で怪我を負った陰陽師が訪れるわけだが……。
「皆さん怪我してるんですよ?程度こそ違えど、つらいことに変わりないでしょう?」
「だとしても、擦りむいたとか、小さい切り傷とか、来なくていいくらいでしょ?」
明らかに、茜を狙った人々が訪れている。傷を治すというより、茜に会う、話すことが目的になっている気がするのだ。恋人として、ちょっと思うところもあるわけで。
「怪我のつらさは人それぞれですから。……まあ、流石に寝不足で来た人はどうかと思いましたけど」
「そんな人までいたの?」
それはもう、ずいぶんと神経の図太い人で……。逆に感心してしまう。
「でも、気にしなくても大丈夫ですよ。周りにはいい人ばかりですし」
その一呼吸後に、茜は若干頬を赤らめて。
「もし何かあったら守ってくれるでしょ?」
「うん、任せといて!」
無責任にも僕はそんな返答をしてしまった。
そうして、ある日。
「太陽さん!茜さんが!」
任務から帰ってきた僕に焦って声をかけていたのは、彼女の治療室でアシスタントをしていた人だった。
「どうしたの?」
「茜さんがさらわれてしまいました!」
「……え?」




