第51話 始まり
始まりはある任務の帰りだった。
「痛いなー」
僕は陰陽師の一人として、家から任務を与えられ妖魔を退治するという仕事を行っていた。というのも、ここ数十年前くらいに突然妖魔がこの世界に現れたという。それと同時期に子供たちに様々な力が芽生えた。そこから陰陽師家や魔法使い、そういった存在が各家として確立されていった。
そんな家の一つに生まれたのが僕だった。陰陽師としての実力は平凡。ゆえに、与えられた任務でこんなボロボロになってしまったのだ。肋骨はおそらく数本は折れているだろう。想定されていたよりも少し相手の妖魔が強かった、ただそれだけのこと。
「あの、大丈夫ですか?」
そうして、僕は出会ったのだ。茜という少女に。大けがを負って街を歩いていた僕にそんな声をかけてきた少女。
「……うん。大丈夫だよ」
痛む体を無理やり引きずって僕は歩こうとする。が、視界がぐらりと歪んで僕は倒れそうになっているのだと理解する。
「もう!そんなふらついてて大丈夫なわけないでしょ!」
ぎゅっと、そんな僕を支える少女。
「血で汚れるよ?」
「ケガ人がそんなこと心配しないでください!」
ケガ人、確かにその通りでそろそろ平衡感覚もどこかへ行ってしまった。意識を失うのも時間の問題だろう。
「えっ!ちょっと!」
そうして、僕の意識は闇に飲まれていく。
「……ここは?」
目を覚ますと見知らぬ天井だった。真っ白で辺りには消毒液のような匂い。意識を失って病院に運ばれてしまったといったところだろうか。
そうして、僕は体を起こそうとして僕にもたれかかって眠っている少女に目が行く。小柄でボブカットだったかな、特徴的な赤みがかった髪がそんな髪型にそろえられている。
「……んぅ?みゃ?……起きてたんですか!」
「ここ、病院だから静かにね?」
僕と目が合って数瞬、顔を赤く染めた少女が叫ぶ。僕が体を起こそうとした衝撃で目が覚めたのだろう。
「最初に言うのがそれなんですか……」
病院で叫ぶのはダメだからね。注意しなきゃいけないでしょ?
空気の読める僕は口にはしないのだけど。
「とりあえず、命に別状はないらしいです。ただ、骨が数本折れていたらしく、数か月の入院は覚悟しておくようにとのことです」
「そうなんだ」
実際は長くて一週間くらいだろう。超能力者はこういった怪我の治りが一般人より早い。医者には不思議がられるだろうけど、まあ、いろいろ裏で動くだろうからそこまで話題にはならないだろう。
「案外、冷静なんですね」
「うーん。まあ、命がなくなってもおかしくなかったからねー。これくらいで済んだんだって感じ?」
「確かに、あの怪我はひどかったですからね」
「でしょー?生きてるだけで偉いんです」
「……どういうことですか?」
ごめん、僕にもわからない。
「そういえば、君はなんでここにいたの?」
「通報したの私ですよ?」
「それはそうなんだけど、付き添う必要はないでしょ?」
「人として、怪我人を見て見ぬふりはできないです」
「あのくらいの怪我人だったら逆に逃げる人のほうが多いだろうけどねー」
「だとしても、私はそうしたいと思ったので」
変な子もいるもんだ。全身血まみれの人が歩いていたら避けこそすれ、声をかけてくるなんてことはしないだろう。そして、僕に付き添って病院まで来るなんて。
「あー、ありがとう、でいいのかな?」
「はい!それでいいと思いますよ」
彼女のおかげで生き残れたということは事実。
「どれくらい僕って寝てたの?」
「んー、ちょっと私も寝ちゃってて正確な時間はわからないんですけど、一晩くらいだと思います」
「あー、そんなもんなんだ」
てっきりもう少し、経っているのかと。陰陽師になったらここまで早く治るもんなんだねー。このレベルの怪我は初めてだったから少し驚いた。
「……あれ?一晩?」
「……あ、ミスったかも」
ひとりでに疑問符を浮かべる少女に僕は焦る。先ほど言ったように、僕の怪我は重傷だった。治るには数か月かかるだろうと言われるほどの。
つまり、一晩で意識が戻るような怪我じゃないわけだ。出血が多すぎたから、血が戻るまで数日は寝たきりというのが妥当なところだろう。
「回復能力が高いんですね」
いや、ここまでくると異常なんだけどね。回復能力が高いといえど限度がある。とはいえ、今から意識を失ったふりをしたところで手遅れだろう。不自然すぎる。
「そうそう!昔っから怪我してもすぐ治っちゃうんだよねー」
そんなことは全くないわけですが、この少女に対してはこれで乗り切ろう。
「太陽!大丈夫なのか!」
父上!ナイスタイミングだぜ!
病室のドアをガラッと開いて我が父が入場してくる。
正直ごまかしきれる気がしなかったので助かった。
「ここ病院ですよ」
病院で大声出しちゃ駄目だよね。でも、それさっき僕が言ったことなんだけど。
「わ、僕のセリフとられた」
「誰のセリフでもないですよ」
うん。まあそうなんだけども。
「……やはり、危険な任務だったか。すまないな、安請け合いしてしまって」
あ、だめだ。この父周りが見えてなさすぎる。一般人居ますよー、任務とか言っちゃってますよー。
「……私はここから出たほうがいいでしょうか?」
まあ、任務としか言ってないからね、仕事の話って思うのが自然か。そんな話に赤の他人が入り込んでしまいそうになったら、気まずいだろう。
「あー、君が太陽の命を救ってくれた少女か!恩人を追い返すわけないだろう?」
ちょっと、あなた言ってる意味わかってますか?我が父ながら狂ってると僕は改めて思うのだった。
その後、父の失言連発により、明らかな異常な会話と気づかれてしまったのは語るまでもないだろう。




