第5話 リーダー
「そろそろ、見えてくると思うよ」
放課後、俺は祈に連れられて組織の場所へと向かっていた。
「見えてくるって言っても……」
俺が今いる場所は、何の変哲もない住宅街。とても、そういった組織があるような場所には見えない。
「まあまあ、もうすぐわかるって」
そう言って、歩を進め続ける祈。俺はそれに追随するわけだが……。
「はぁ!?」
思わずそんな声を上げてしまう。突然に視界が切り替わったのだ。驚くのも当然だろう。
「最初は驚くよね~。うん。とてもよくよく分かるよ」
そんな俺の反応にうんうんと頷く祈。
「あのゴブリンに近いものか?」
「そうそう。あの技術はあいつらだけのものじゃないってね」
そう言う祈だが、人ひとりの姿が違うのと、景色を完全に誤認させるのでは規模が違いすぎる。
「こんな建物があるなんてなぁ」
目の前に現れたのはお城と呼んでしまっても差し支えないほどの巨大な建造物。再度言うが、この場所は何の変哲もない住宅街だったのだ。そんな場所にお城のような建造物があるなんて想像できるだろうか。
「ここの場所を知っているか、案内されないことには絶対にたどり着けない場所だからね」
「すごいな、陰陽師ってのは」
「これに関しては陰陽師がすごいってより、技術部全員がすごいよね」
「陰陽師の組織ってわけじゃないのか?」
てっきり、祈のような陰陽師が集まっている組織だと思っていた俺はそう尋ねる。
「陰陽師だけってわけじゃないかなぁ。魔法使いだったり、錬金術師だったり、なんかよくわかんない人もいっぱいいるよ」
何度目かわからないが、この世界は案外ファンタジーなんだなってそんなことを思った。この感じなら、もしかすると何度もそんな世界の人間とすれ違っていたのかもしれないな。
「要は、超能力者の集団ってことかぁ」
「おー、そんな認識でいいよ!千里眼とかもいるしね」
「逆に何がいないのさ……」
変な世界に足を踏み込んでしまったもんだなぁ。こうなると、俺程度の身体能力で活躍できるのか疑問なわけだが。まあ、なるようになるか。
「そうだなぁ。強いて言えば、神様とか?」
何が面白いのか、そう言って笑みを浮かべる祈。それが彼女のキャラなのだろう。
「さてと、そんじゃ、入りましょか!」
そう言って、彼女はドアの前に立ち、自動ドアが開く。そうして、俺たちはその建物の中に入っていくのだった。
「君が、祈の言ってた子かぁ」
案内された先にいたのは、見た目は小学生と言われても違和感のない少女だった。その少女が、俺をじーっと見つめる。
「先に自己紹介をするとー、私はフィーネ。こんな成りでも、無敗の称号をもらってる」
自信を声ににじませてそういう少女。
「年齢は秘密ってことでよろしく」
秘密って……。見た目は完全に幼女なんだけど。まあ、常識の範囲外にいる人たちの組織なのだから、見た目通りの年齢とは限らない、か。
「……いや、見た目通り10歳だろうに」
ぼそりと祈がつぶやく。
「えー、言っちゃ面白くないじゃん」
「まあ?精神年齢はもっと高いだろうけど」
「ただただ、大人びた幼女ですよ~だ」
ふてくされた様子でそう呟くフィーネ。ほんとに10歳なのだろうか……。言動は少なくとも10歳のものではない。大人びているにしても限度があるだろう。ものすごく違和感がある。
「まあ、この通り変な幼女なので、お気になさらず」
「あんたがそれを言うか」
祈の言葉に突っ込みを入れるフィーネ。
「そして、この組織のリーダーだよ」
「だーかーらー、私に話させろー」
こいつらは何をやってるんだ。
フィーネの自己紹介を奪った祈に抗議している姿を眺めながら思う。
「じゃあ、次は君の番ね!」
フィーネは切り替えが早いタイプのようで、俺にそう話を振ってくる。
「緋色未来です。よろしく」
「そんな固くなくていいよ~。誰も気にしないって」
「まあ、そうだけど、祈が言うことじゃないでしょうに」
この場で立場が上なのはフィーネのはずだが、祈はそんなこと知ったこっちゃないと、その場を仕切っている。
「はぁ……。まあいいんだけどさ」
ため息交じりにつぶやくフィーネ。彼女は常識人っぽくてよかった。
「とりあえず、この組織がどんな組織なのかの見学だっけ?」
「うん!そうそう、組織に勧誘されてもどんなところか知らなければ判断できないだろうからさ!」
「君はこの組織が秘密結社的なものって分かってるのかな?」
ハイテンションに言葉を紡ぐ祈に呆れたようにつぶやく。実は苦労人なのかもしれない。
「きーこーえーなーい」
耳をふさぎながらそう言葉をこぼす祈に、ますますため息を深くつくフィーネ。
「まあ、有害じゃなさそうだしいいけども」
「ほんと、リーダーの力って謎だよね~」
「まあ、力は隠しておくだけでアドバンテージになるからね。私ならなおさら」
「隠したままで世界最強と呼ばれるのは謎だよ、ほんとに」
世界最強、か。10歳にしか見えない少女が世界最強と呼ばれている、その言葉に違和感を感じてしまう。それほどまでに、彼女の力は強いというのだろうか。
「世界最強って名乗った覚えはないんだけどね、あくまでも負けたことがない、それだけだよ」
自嘲気味にそう呟くフィーネ。自分のことを世界最強だとは思っていないけれど、負けたことはない、だから、自己紹介の時に無敗と名乗ったのだろうか?そんなことを思った。