第49話 自我
〈side祈〉
「何を考えてるの?」
私はその男、白沢太陽という男に問いかける。
「察していたんでしょ?」
「……まあ、なんとなく、君以外に裏切者の可能性がある人はいないだろうとは思ってたよ」
「そう。すべて僕が手引きしたんだよ」
「そっか、じゃあ君は敵ってわけか」
分かりやすくていいね。
「さあ、会話はこれくらいでいいかな?私もちょっと、急がなきゃいけなさそうだし」
「うん。そうだね。君は早く合流したいみたいだし」
おそらく狙いはベル。だったら、早めにここをどうにかして合流するのがベストっぽい気がする。
「じゃあ、やろっか、元落ちこぼれ舐めないでよ」
そう言って、私はその身に妖を宿す。
「纏魔」
「……すごいパワー、圧がこっちまで伝わってくる」
「さてと、じゃあ始めようか」
私は、風の球を作り出し、太陽に向けて飛ばす。
「っ!結界を一撃でもっていくのか、こりゃ厳しい戦いになりそうだね」
「だったら、諦めて投降してくれてもいいんだよ。未来君の友達らしいし気絶させるくらいにとどめておいてあげる」
「ぜひとも乗りたい話なんだけど、僕にも事情ってものがあるんだ。全力でやらせてもらうよ」
正直、ここで諦めてほしいところなのだけど、そううまくはいかないみたい。
まあ、やってみますか。この男は以前の陰陽師の男よりは強い。たぶん、さっきの風の一撃で以前の男なら十分に倒せただろう。いやー、怖いなー、こんな強い人たちがいっぱいいるんだから。
「じゃあ、こういうのはどう?」
私は、太陽との距離を一気に詰め、水の玉を発射、同時に背後から光線を放つ。さて、挟み撃ち的なのにはどう対応するかな?
「僕を相手に光は使っちゃだめだよ」
「おぉ!制御乗っ取られた、あっぶないなー」
背後から迫っていた光線のコントロールを私から奪い去り、水球を貫くと同時に私に向けて方向を変更する。
そこまでのコントロールは私にはできないし、少なくとも光系統のコントロールは私より上ってのは間違いなさそうだね。でもまあ、私もそこまで光系統の術は得意というわけでもない。というか、光系統の術は苦手な部類だ。いやー、いい子過ぎるんだよね、光って。
「というわけでー、お返しだー」
「そっちも制御乗っ取れるのか」
太陽の放った、闇の術の制御を私は乗っ取り、太陽方向に飛ばす。私の得意系統はこれだ。制御するってより、自由にやらせるのが主な術。一般人からしたら、闇で攻撃ってなんだよって思うよね。私も思う。なんなら私も理解してない。そういうものだって理解してほしい。
「さて、あいさつでどっちも得意じゃない属性使うというよく分からない展開だね」
「僕ららしいでしょ?」
「まあ、とっても同意だけど」
じゃあ、ちょっと練習してたことしてみますか!
「さあ、おいで」
私がそう呼びかけると、地面に魔法陣が展開されてそこから一体の妖が姿を現す。
「召喚術、しかも鬼と来たかー」
そう、私が召喚したのは鬼。真っ赤な体に二本の角、日本人なら誰しもが思い描く鬼の姿を体現したものだ。
「私ももっとかわいいのがいいんだけどねー」
未来の変身した姿みたいに狼とかがよかった。いや、呼び出せはするのかな?とはいえ、つよつよ狼はちょっと私がイメージできないんだよねー。小型狼とかになるかもしれない。
「さて、やっちゃえー!」
私は適当に鬼に命令する。私に精密な指示とかは無理だから、適当にやってほしい。あ、こっちは殴らないでね?その棍棒で殴られたらさすがの私も痛いからね。
まあ、流石にこっちに攻撃を仕掛けてくるわけじゃなくって、太陽のほうへ歩みを進めていく。歩みはゆっくりしたもので、素早さがない分、攻撃力は相当に高い。
「……まずいね。その攻撃は避けないと」
「結界張ってるんだろうけど、鬼は結界ごと叩き壊すよー」
つまり、当たれば絶対必殺と言ってしまってもいいだろう。攻撃力だけなら変身未来と同等くらいはあると思う。あっちは防御もスピードもあるから戦闘能力全体で言えば、変身未来には及ばない。
「……やば、ちょっと僕、対応する術はないかも」
私は鬼の背後から援護の術を飛ばし続ける。……私も接近戦しよっと。さてさて、鬼さん攻撃当ててくれるなよ?
「君はこっちに来なくていいんじゃないかなぁ?」
まあ、このまま鬼に任せてたら十分に倒すことが可能だろう。
「でも、それじゃつまらないでしょ?」
全部任せっきりってのはつまらないでしょ?スリルってのも必要だと思うんですよ、私は。
「まあ、君ならそうすると思ったよ」
「私たちは似た者同士なのかもしれないね」
「そうだね、だったらこれは同族嫌悪ってやつだ」
「私はそこまで君を嫌ってるわけじゃないけどなー?」
好きってわけでも全くないけど。
「……うん。似た者同士だったんだろうね、僕たちは」
「だろうね。だった、君は私と違って明確な目的が意思があった。それは私は持ち合わせてないものだよ」
「ところでさ、僕の目的って何だと思う?」
突然、そんな質問を私に投げかける太陽。
「さあ?私にはわからないけど」
何のヒントもなかったことだ、分かりっこなかった。
「じゃあ、質問を変えるね?君たちがいる場面でベルさんを襲撃したのはなんでだと思う?」
「自分がいる場で襲撃を起こしたかったんじゃないの?」
「……それも理由の一つだよ?でも、それだけならいくらでも対応方法があるとは思わない?」
確かに、私たちのいない場でベルを呼び出すことくらいはたやすかったはずだ。確かにベルは思考を読むことができるが、私たちクラスの陰陽師ならそのくらいごまかせる。私たちの友人としての立場を持っている太陽であれば呼び出すことができる程度の信頼は築けていたはずだ。
「確かに、あの子の父親の目的はあの少女だよ?でも、僕たちの目的は違った」
瞬間、私の足元に術式が展開される。
「……あ」
理解した。目的は私だったってことか。私の力を確認するために、私のいる場面で襲撃を起こした。ベルというターゲットを隠れ蓑にして。
完全に虚を突かれた私は足元に展開された術式に対応することができなかった。私にこの術式を確実に命中させるために、この瞬間を待ち続けていたのだろう。おそらく、私が接近戦に切り替えることも読んでいたんだろうな。
流石に足元に展開されたものに反応して回避行動をとることができなかった。
「僕と君はよく似てたからね、なんとなく動きだって読めてたよ。そして、君の戦い方を見たとき気づいたんだ。明確な君の弱点が」
光輝く術式から大量の情報が私の中に入り込んでいく。
「君は自我がおそらく薄いんだ。だから、自分に妖を宿すなんて、普通は拒絶反応が起こるようなことだってできた。だから、それを逆手に取ることにした。大量の妖の意志を詰め込んだ術式だ。これだけで、君の意志は簡単に塗りつぶされる」
「はは……」
乾いた笑みが漏れる。言う通り、私はこの攻撃に抵抗することはできないだろう。だって、自分なんてどうでもいいんだから、自己防衛のために意思を強く持つなんてできる人間じゃなかった。
そうして、私の意識は闇に染められるのだった。




