第47話 覇王降臨
ベルの魔法が父親にかけられた瞬間、ロボットは俺たちとは全く違う方向へと攻撃を始める。
「やっぱり、あいつが命令してたみたいだな」
「とはいえ、あのロボットを止めないとどうしようもないよね」
「確かに、あのまま暴れ続けてたら、何があるか分からねえしな」
にしても、どうしたものか……。今までの攻撃で一切のダメージを負わせることができていなかった。
「ベル、あのロボット動かない状態にはできないか?」
「幻覚で私たちの位置を誤認させてるだけだから、下手に視界をふさぐとかしちゃうと変に暴れだすかもしれないし、正直難しい」
「まあ、さっきよりはましだし、このまま攻撃し続けるしかないか」
「私はちょっと戦力になれないからよろしく、幻覚の維持で精いっぱいだから」
「……俺に当たらないようにはしてくれよ」
「ふざけられる状況じゃないから、流石にしないよ」
心外だとでも言うように、そう言葉を告げるベル。まあ、さすがにそこまで疑っていないのだけど。
そうして、俺は再度そのロボットに向かって駆ける。
「さて、どうするかだな」
先ほどと同様に拳を叩きこんでみるが、びくともしない。余裕をもって全力で殴ってみたのだが一切のダメージがないとなると自信を失うな……。
ショックを受けたところで状況が好転するわけでもない。とりあえず、しろから渡されたナイフでも使ってみるか。正直対人戦なら、ナイフよりも拳のほうがダメージを与えやすかった。ゆえに最初は拳のみで戦っていたのだが、ダメージの入りやすさならナイフのほうがおそらく上だろう。しろ曰く、普通のナイフよりは切れるらしい。なんでも切れるナイフは扱いが難しいと言っていた。ないわけじゃないってことが怖いのだが、まあいつものことだと思うようにしてく。こんな場面が来るなら持っておきたかったが、流石に想定していなかった。
俺は、そのナイフをそのロボットに向けて振り下ろす。ガンっと、金属音というより打撃音のような音がして、若干ナイフはロボットに食い込む。
「マジか」
ダメージが入ったという事実と、それが微々たるものであることに思わず声が漏れる。正直これで倒すとなると途方もない数の攻撃を当てないといけない。俺に一点を集中攻撃できるような技術もないし、相当な時間がかかってしまうだろう。正直に言ってしまうと、とてもめんどくさい。
「やる、か」
とはいえ、放置しておくことはできない。どれだけの時間がかかるかわからないが動かなくなるまで切りつけるしかないだろう。
そうして、体感数時間が経過した。延々と微々たるダメージを与えていくだけの作業はつらいものがあった。
「ぜぇぜぇ……」
「な、なにが!?」
完全にロボットを破壊した瞬間、ベルの父親が動揺の声を発する。
「……完全に思考と連携してたのか」
「みたい」
「くっ!どういうことだ?」
幻覚ではおそらく俺たちに優位な光景を見ていたのだろう。
「……まあ、いいだろう」
そうして、その瞬間、ベルの父親はポケットから何かのボタンを取り出し、それを押す。
「……冗談だろ?」
「これ、どっから出てきたんだろ?」
ボタンが押された瞬間、どこからともなく、大量のロボットが俺たちに向かって歩いてくる。
「なあ、幻覚は解いてないんだよな?」
「解いてないね」
「ってことは、こいつらはあいつが操ってるってわけじゃねえのか」
「……流石に詰みかなぁ」
絶望的な状況に俺たちは途方に暮れることになる。
「ほう?こいつらが相手というわけか」
そして、俺たちの目の前に突然謎の男が現れたのだった。
〈sideフィーネ〉
「……そろそろだっけ?」
私がデスクに座って書類を片付けていると、同じく書類処理を行っていたしろがそんな風に声をかけてくる。
「うん。そろそろ時間になる」
私はちらりと時計を見て、そう返答する。
「そうとうにめんどくさそうなんだけど」
「まあ、頑張るしかないでしょ、あれは」
そんな会話を繰り広げているとバアン!と勢いよく部屋の扉が開く音が響きわたる。
「さて、返答を聞きに来たぞ?」
「もう言ったと思うのだけど」
「我と釣り合うのはお前くらいだ」
「へー、こんな幼女と?」
「年齢など関係あるか?同じく世界最強と呼ばれている者同士ではないか」
「まあ、君にとってはそうなんだろうね。だけど、とてもじゃないけど君とは釣り合わないよ、私は」
「まだ、自分は弱いなどと言うのか?ここまで巨大な組織を作り上げておいて」
「私自身が強いんじゃないからね。私は一人じゃ最弱もいいところだよ。覇王である君とは違ってね」
この場に現れたのは、覇王と呼ばれる男だった。本名は不詳。しかし、その強さは圧倒的だった。私が台頭するまでは世界最強と呼ばれていた男。なんなら、個人での世界最強は今もなおこの男であると断言できる。というか、奏者の全戦力をもってしても、勝てるか怪しい。この男の力は自分が負けないと思っている限り絶対に負けないというもの。この男圧倒的な自尊心の上に成り立つ最強の超能力だ。
そうして、あろうことか私に婚約を申し込んでくる男である。こんな幼気な幼女に、である。それがなくとも、この男と結婚するとろくなことがない。この男は私の超能力にしか目を向けちゃいないわけで、私個人にそこまで興味を持っていないのだ。そんな男との婚約はごめんである。私のやりたいことが全くできなくなるとエンドロールにも書いてある。
「……ん、りーだー?きゅうなんしんごうがきた」
「……ほう?ならば我が向かおうではないか、日本にまで来て体がなまっているものでな」
「なまってるなんて微塵も思ってないくせに」
常に最強であり続けるその男が体がなまるなんてそんな状態になるはずがない。
「ははは!我は戦いが好きなのでな!」
「まあ、救援に行ってくれるんならそっちのが楽だからいいけど」
「貸し一だな?」
「断っても行くんでしょ?貸しにはなんないよ?」
「ははは!我にそんな口を利けるのはお前くらいだ!」
高笑いをしながら、その男は部屋から出ていく。
「ばしょとかわかってるの?」
「さっきちらっと、しろの持ってるタブレット見てたし、分かってるでしょ」
投げやりに、私はそう言葉を吐く。正直、あの男は苦手だ。自分に絶対的な自信を持っている男と、自分には自信を持てちゃいない私、価値観が全く合わないのだ。
ということで、とりあえずここの茶番は終了っと。
「じゃ、私たちは私たちでやることやろっか」
「ん。……でも、こっちでいいの?」
「……」
「わたしにもわかってる、りーだーもきにしないで」
「ふふ。ごめんね、こんな事につき合わせちゃって」
「ん。わたしもじぶんからやったこと」
「しろ……」
「だから、がんばろ?」
その言葉に私は勢いよく頬を叩く。
「だいじょうぶ?」
「うん!私がくよくよしてちゃどうしようもないからね!」
「ん。りーだーはよゆうぶったえみをうかべてたらいい」
「それはそれでどうなの?」
しろの発言にそんな突込みを入れつつ、私たちはその部屋を後にするのだった。




