第44話 太陽
「仕事には慣れた」
「うん!それは良かった」
「でも」
あれから数週間程度過ぎて、ベルも俺たちの組織に慣れてきたらしい。当人がそう言っていた。言っている。
「でも、人には慣れない」
「ふふ、慣れさせてたまるものかってね」
「はぁ……」
そういうところだよと言いたげな目を祈に向けるベル。
「それはそうと、君はなんでついてきてるのかな?」
ベルからの視線をさらりと受け流して、くるり一転して俺たちの後ろを歩く人間に視線を飛ばす。
「まあまあ、親交を深めると思ってさ!」
「……君、相当な陰陽師でしょ?」
「さて、どーだろうね?」
自称俺の友人こと白沢太陽である。こいつはどこからともなく現れて、俺たちについて回るようになった。まあ、全力で振り切ろうと思えば振り切れるわけだが、軽くペースを上げるくらいだったら余裕でついてくる。
ついてきては欲しくない。イケメンは滅ぶべきである。俺の精神衛生上よろしくない。接している限り性格も顔もイケメンなのである。猶更滅ぶべきである。特に、俺と祈のいる場に割り込まないでほしい。
「……なんか、君の思考読めるようになってきた気がする。そして、私に君は一度あんなこと言ったからか吹っ切れすぎてる気がする」
「……なんだそのしゃべり方」
祈の発言の内容には触れない。触れたら俺の好感度が下がること請け合いである。手遅れ?うん。俺もそう思う。
「……まあ、話を戻してっと」
俺へひどい誤解をしかけた少女は太陽へ再度向き直る。
「誤解も何もないと思うけど……」
「なんで、お前はさらっと心読むんだよ!」
「魔女ですから」
ベルが俺に向かってにやりと笑みを浮かべる。そういえば、洗脳大得意の魔女様でしたね。人の心読むくらい朝飯前ってか。
今度、祈かしろにでも頼んで心を読まれない方法を聞いておこう。
ひそかにそんな決心をして、俺は祈に視線を向ける。
「で、君は何でそんなに疑ってるの?」
「やけに実力が高い学生を疑わないわけないでしょ?」
「それは君にも言えることだと思うんだけどね」
「それはそうだねー。でも、私は私たちを知ってるけど、君を知らない。疑うには十分でしょ?」
「で、君は僕をなんだと思ってるのかな?」
「さあ?わかんないから聞いてるんだよ?」
「そっかぁ、じゃあ、なんだろ、君のストーカーとかは?」
「ごめんね。君はタイプじゃないや」
はぁ?その言葉に若干キレて襲い掛かろうとした直前、バッサリ祈がその発言を切り落とす。
「うん。僕もだよ」
そうして、その後の言葉に、再度俺はキレて。
「……いや、めんどくさ」
ぐさりと言葉のナイフが俺の胸を突き刺す。ベルのその一言で俺は息の根を止められる。
「……はぁ」
「なんで、そんなため息つくんだよ!?」
「いや、なんでこんな人たちとチーム組まされたんだろうって」
「オブラートに包もうぜ?その発言は」
ストレートにそう言い放つベルに俺はそう突っ込みを入れる。太陽への恨みつらみ妬み嫉みは消え去っていた。
「絶対消えてない。長い」
「そろそろ切り上げないと話が進まないんだが」
「急にメタいね……」
ともかく、再度視点を太陽と祈に戻そうと思う。
「あ、コント終了した?」
「コントじゃねえよ!」
こっちもこっちでボケを続けるのかよ。
「始めたのは未来のほうでしょ」
「だとしてもだろ!」
俺の叫びがむなしく反響して、その声は消えていくのだった。
「まあまあ、僕の正体が何だって話だっけ?」
「ああ、そうそう」
救いの手を差し出したのは太陽であった。いやー、イケメンでもいいこと言うねー。
「さっきのタイプのやり取りがなかったら?」
殺す、イケメン滅ぶべし。
小声でのベルの疑問に俺は脳内でだけ答える。君と違って空気を読めるんだよ俺は。
「まあ、大体予想はついてるよね?」
「……」
「まあ、こういうことだよ」
そうして、太陽はその手を上にあげて魔法陣らしきものを展開する。祈が術を使う際の文様に近いし、何らかの陰陽師の術と思うのが正解か?
「……ちょっとそれは想定外なんだけど!」
祈はその術を見た途端、俺たちのほうに駆け出そうとするが、その前に俺たちの視界は暗転する。
「ごめんね」
太陽のそんな声が最後に聞こえたような気がした。
「っ……!ここは?」
それから目を覚ますと見知らぬ洞窟の中だった。なんか、こういう状況って洞窟に行かないといけない決まりでもあるのかよ。
前回の屋敷でも地下の洞窟を探索させられた挙句、めちゃくちゃ強い陰陽師に襲われたわけだし。
「んん、どこ、ここ?」
「さあ、俺にも分からねえ」
目を覚ましたベルの疑問に俺はそう答える。
流石に洞窟ソムリエってわけじゃないし、ここがどこなのかさっぱりわからない。
「近くにいる人間は一緒に転移させられたって考えるのが妥当か、だとしたら、祈はそれに気づいて私たちに合流しようとしたけど間に合わなかったと」
「だろうな」
ベルのその発言を聞きながら祈の以前の言葉を思い返す。ベルを発見できた理由は、おそらく太陽が内通者だったから。だから、ベルが自分の姿を偽っていたとしても発見することができた。偶然太陽がいる先にベルが逃げ込んできてしまったってことか。
「で、これからどうする?」
「そうだな、とりあえず脱出できそうになければ助けを待つか」
「助け来るの?」
「祈が来るか、一応しろから以前渡された非常用発信機でも組織のほうに救難信号を送ったからな」
「……なら大丈夫ってことでよさそう。ただ、ここが空間的にも隔離されてたりしたら相当面倒そう」
「そうだな」
空間を隔離するなんてそんなことができるのかは知らないが、もしそんなことをされていたら助けが来るのは相当後になるだろう。不可能じゃなさそうなのはしろなら何とかできそうな気がしたからだ。
「まあ、とりあえずここから出られないか歩いてみるか」
「……移動しないほうがいい可能性もあるけど」
確かに、この場所で待機したほうが体力の消費も抑えられるか。ただ、祈と合流を目指すべきな気もする。
「とりあえず、この場所を見失わない程度に歩いてみるか」
「……まあ、設置型の転移があるとは思えないしそれがいいか」
そうして、俺たちは周囲の探索を始めるのだった。




