第41話 不法入国者の処遇
「このいそがしいときになに?」
大量の書類に向かい合っているしろのもとに俺たちは訪れていた。
「……大変そう」
ベルがそんな言葉をこぼす。君、連行されてる立場だからね?ずいぶん余裕ありすぎじゃない?
「しろも大変だねー、なんでまたそんな書類仕事を」
「りーだーがおしつけた。あくま」
「しろがリーダーへ愚痴を吐いてるのも珍しいな」
しろはフィーネ至上主義の幼女というイメージだったのだが。
「ん。そんなひもある」
「最近はいつもじゃんー」
アリスがしろの机の下からひょっこりと顔を現わして、そんな言葉をぶつける。
「……まあ、がんばる。で、なんのよう?」
「いやー、この子がねーどうやら不法入国っぽいから連れてきた」
「ん。なるほど」
そう呟いて、しろはガサゴソと机の中をあさって、俺たちに一枚の紙を放り投げる。
「これにじゅうみんひょうとかいろいろかいてるから」
「これ使ってオッケーなやつ?」
「ん。もちろんあうと」
「だよねー」
そう言って、笑いながらその紙をベルに手渡す。
「え、特に処罰無し?」
「してほしい?」
「滅相もないです」
まあ、法律とかこの組織には通用してないってのが現状だしな。ナイフを持ち歩くのは基本で銃刀法なんのそのである。不法入国程度なんの問題もないのだろう。
「私だって鬼じゃないからねー。人を苦しめたいわけじゃないよー」
「……だったら説明」
「しないほうがおもしろいじゃん!」
「えぇ……」
ベルが思わずといった様子でため息を漏らす。うん。祈の性格に慣れてきていたからあまり気にしていなかったが、流石に緊張するよな。
「ん。じゃ、はやくでていって、これさばくのてつだってくれるならのこってもいいけど」
「全力で拒否するぜー!」
そう言って、走り去っていく祈。ベルを引きずって。不憫な子よ……。
「みらいはべつにてつだわなくていいよ。というかりーだーにだれにもみせるなっていわれてるから」
ってことは、祈を追い出すためにああ言ったのか。まあ、十中八九祈は断っていただろうからその目論見はうまくいっていたわけだが。
「じゃ、またな」
しろが手伝ってほしいというなら手伝うつもりだったが、その必要もなさそうというわけで、先に逃げ出した祈の後を追う。
「……ん。がんばって」
そんな声を背中に受けて俺は、しろの部屋から立ち去るのだった。
「おー、遅いぞー相棒」
「あー、気持ち悪い……」
俺が外に出ると、どこからか現れた椅子に腰を掛けた祈とグロッキーになったベルが待っていた。この様子だと、手伝いたくないってより、空気的に逃げ出したってとこだろうな。で、ベルはそれに突き合わされちゃったと。
「ご冥福をお祈りします」
「待って、まだ死んでないから」
ベルが食い気味にそんな突込みを入れる。うん。分かってる。それは分かってるんだけど。
俺はベルの後ろの祈に視線を向ける。にやりといたずらな笑みを浮かべた少女の姿を見て、俺は察する。案外、このベルという少女は祈に好かれてしまったみたいだ。悪い意味で。
「いじりやすいおもちゃよ、簡単に死んでくれるなよ?」
「ねえ、なんて突っ込めばいいの?」
祈の変なテンションを持て余して、ベルはそう叫ぶ。それは俺にもわからない。というか、祈以外の全人類には分からないと思う。なんなら、祈でもスルーしてると思う。
「じゃ、変な話はこれくらいにして」
「お前が始めたんだろ」
一転した低い声でベルは恨み言を吐き捨てる。
「まあ、これで色々解決したわけだし、話してもらうぜ?」
「あ、完全に忘れてた」
そう言えば、ベルの過去を聞き出す前に祈がここに連行したんだっけ。……なら、聞いてからここに連れてきたほうがよかったのではと思うが、祈的には不法入国の話が出た瞬間連れ去ったほうがおもしろかったのだろう。祈にとっては。
さっきから感情が多忙のあまり忙殺されそうなベルを横目にそんなことを思う。うん。何かあったら葬式には参列するよ。
「……その優しい風の目はやめて」
ベルさんから切実な瞳を向けられたので視線を祈に戻す。
「いや、私見られても困るんだけど」
「ああ、そういえば話し手はベルか」
祈からはそんな指摘をいただき、再度ベルに視線を戻す。いや、何やってんだ、俺たちは。
「めん……。えっとどこまで話したっけ?」
「そこで区切っても無駄だからな?」
めんどくさいって言いかけたのは聞こえたからね。今更、いい子ぶったって無駄だぞ。
「そーそー」
ほら、祈も同調してる。
「うわっ、同意の意見があると強くなる人だ。こわっ!」
確かに最近口数少なかったけどさぁ!そんな言うことないじゃん!
「うんうん」
祈も頷いてんじゃねー!
「……で、話を戻すとー、確か、不法入国の下りまでは聞いたよ」
戻すな!と叫びたいところだが、俺のせいでこれ以上長引かせるのもあれなので、俺はぐっとその言葉を飲み込む。不服だけど、不服だけどね!
「あー、そこからかー。だったら、私が何で不法入国するに至った経緯を話せばいいわけだ」
「そーそー、それを聞かせてたもう」
「なんで、コロコロ口調が変わるの」
そんなベルのつぶやきがむなしく響いて、彼女は自分の過去を話し始めるのだった。




