第40話 亡命
「流石に話してくれるよね?」
そうして、その尋問を終えたベルに祈がそう声をかける。俺たちも襲われたわけだし無関係なわけじゃなくなってしまった。だから、詳しい情報を知りたいと思うのは当然だろう。
そう問われたベルは少し悩むような表情を浮かべた後で
「……まあいいや、でもあんまり広めないで?」
と言葉を返す。
「それは内容次第だねー」
内容によっては奏者にも報告しなければならない、といったところだろう。ただ、些細な争いだったら組織としてかかわってくることはないらしい。そんなに暇な組織じゃない、らしい。いくら俺たちが暇そうに見えていたとしてもだ。……いや、うん。本当に。しろとか特に忙しそうな様子だったし、アリスが不貞腐れてた。俺と祈でなんとか期限をとるというかなり高難易度の任務をこなしたばかりなのだ。
「……特に私は悪いことやってないし大丈夫か」
一人そう、つぶやいてからベルが語り始める。
「まあ、明らかな非がなければ私たちは何もしないよ?」
心外だな、とでも言いたげな表情で祈はそう言葉を返す。と言っても、不服というよりも呆れの感情が多い印象を受けた。確かにベルは悪意を持っていたり、疑っている様子ではないし、気に障るようなことでもないのだろう。
「……いやー、ごめんね?遅れちゃった」
そんな声とともに太陽が姿を現す。
「君はもっと早く移動できると思ったんだけど」
「おぉ、なんか今日祈ちゃん当たりが強いなぁ?」
「きもっ……」
なお、最後の言葉はベルがこぼしたお言葉である。思わずこぼれたという印象を受ける。
「これはベルに同意だな」
そして、俺もベルに同意であった。いや、いくらイケメン補正があれど若干おじさん味を感じる発言はそのオブラートをたやすく貫通する。
「みんなしてひどくないかい?最近流行りなんじゃないの?こんな文章」
「なわけない」
ベルの即答に太陽は崩れ落ちる。……当然だろう。流行ってたまるか、そんな文章。
「……」
そんな、太陽をじっと見つめる祈。
「どーしたの?惚れちゃった?」
そんなからかいの言葉を太陽がかけた途端、祈は一気にわざとらしく破顔する。
「うぬぼれるな」
満面の笑みでそう告げられた太陽はフリーズすることしかできなかった。
「……こわっ、流石にあれは私に向けられたら耐えれない」
ベルがそんな言葉をこぼす。うん。それには俺も同意する。同意するが……。
「何か言った?」
それを口に出してしまうということはまあ、そういうことで……。
……一体いつになったらベルのお話を聞くことができるのだろうか。
「じゃ、話していくから」
あれから、世界に平和が……ごめん流石に言い過ぎた。まあ、あの死屍累々の光景から復活を遂げて、ベルが引き出した情報を得ることができるという状態にたどり着いた。
「はい!そもそも何があったんですか?」
「あー、太陽はいなかったもんな」
「……」
「えーっと、まあ、話したら大体理解できるだろうから大丈夫」
ベルがめんどくさいとでも言いたげな表情でそう言葉を返す。返答を投げ捨てたともいえる。
「簡単に言えば、急に襲撃されて、その襲撃者を祈が倒して、ベルがそいつから情報を引き出したってとこ」
一応、おおざっぱに俺が説明しておく。まあ、俺にもここから先の情報は分からないため、ベルからの情報を知らなければといったところであるが。
「あー、なるほど。理解した」
「……分かってるのか、分かってないのか、分からないんだけど」
ベルがそんな言葉をこぼす。いや、貴方が現状の説明をめんどくさがったんだろうが!
という文句を飲み込んで、俺はベルの次の言葉を待つ。
「まあ、話すか。とりあえず、こいつの狙いは私だった」
「だろうね。明らかにこの国の人間じゃなかったし」
祈がそう言葉をこぼす。確かに、あの襲撃者の顔つきは日本人のものとは異なっていた。俺たちを狙った襲撃よりベルを狙ったものであると考えたほうが得心がいく。
「うん。私と同じ場所に住んでたやつだと思う」
「で、狙われた理由はわかってるのか?」
「明確にはノーだけど、おおよそ推測はつく」
「明確にはってのは?」
「こいつは知らされてなかったから、私の推測って話」
「ふーん。だったら、君に関わることは相当危険だったわけだ」
祈はそう、皮肉交じりに言葉を返す。ジトっとしたその目線には危険に巻き込みやがってというような(些細な?)文句が秘められている、たぶん。
「うん。それは君たちが関わってきたんだよ?」
バチバチと熱い戦いが繰り広げられている、そんな気がする。
「話を戻してもらってもいいか?」
とはいえ、こんなコントに付き合うことに俺は疲れ切ってしまった。だから催促する。当然の権利である。
「あー、確かに。えーっと、端的に言っちゃえば、私はこの国に逃げてきた。いわゆる亡命ってやつ」
「そんな簡単に逃げられる状況だったの?」
「まあ、簡単だった」
指を立ててくるくると回しながら口にする。
そんな姿を見て俺は、俺たちは察した。ここに来るまで催眠をかけ続けて入国したのだと。おそらく不法入国だろう。
「……うん。じゃあ、ちょっと来てもらおっか?」
「え、何故?なにゆえ?」
そうして、祈によってベルは連行されていく。おそらく、奏者に連れていくのだろう。そう思いたい。
「ねー、そろそろこれほどいて?」
気に括りつけられた太陽の言葉で俺は我に返り、祈の後を追うのだった。一応、人の心はあると自負しているので太陽の拘束をほどいてから。




