第4話 祈
「どうしよっかなぁ……」
祈とのメッセージ画面を開いて俺は呟く。彼女の相棒としてあの化け物を倒す。それはきっとヒーローのようでかっこいいだろう。命を懸けて戦い続ける、考えただけでも心躍る。
で、何に悩んでいるかというと、最近発現した俺の体質だ。夜になると獣の姿になるという体質。彼女は気にしないかもしれない。だけど、まだ信頼しきるわけにもいかない。そもそも、彼女にはあの姿で一度会っているのだ。今になって考えれば、あの時彼女が戦っていた化け物も今日のゴブリンの類の化け物なのだろう。
「とりあえず、聞いてみるか」
要は、夜に会わなければいいのだ。夜以外なら大丈夫とでもいえばいいだろう。
メッセージを送り、スマホを閉じる。瞬間視界が暗転する。
「そろそろ時間か……」
夜の時間である。俺の体が獣のものに変わる。そして、俺の姿が変わったとたんに、スマホが通知を知らせる。返信早いな。
そう思って、スマホを手に取ろうとするわけだが、鋭い爪と肉球の手ではスマホを操作することはおろか、つかむことすらできない。
「企業努力が足りてないな」
人間以外が使用することを想定していないスマホに愚痴をつぶやく。まあ、俺のような例外はほとんどいないだろうし想定する意味はないわけだが。
まあ、この感じだと返信は明日になるかな……。よしんば画面をつけられたとしても、パスワードの入力もできないし、指紋や顔は人間のものではなくなっているから付けられるわけがないわけで。
祈に申し訳ないと思いつつ、スマホから視線を外す。
そうして、今日の夜もまた獣としての一夜を過ごすのだった。
「おはよー!」
「うるせー」
朝っぱらから甲高い声であいさつをかけてくる少女、祈。眠れない俺よりも高いテンションっていったいどうなってるんだか。
「昨日のLINEみた?」
「おー、見た見た」
今日の朝、確認はしてある。夜だけでもいいか?って質問に、OKスタンプが返されたLINEを。
「それじゃ、今日でいいかな?」
「特に予定はないし大丈夫」
そして、その後、今日彼女の所属する団体に説明がてら顔合わせに行こうという話になったのだ。
「はーい」
そう答えて、彼女はスマホを操作する。
「ん、連絡完了っと」
そんな姿を見ながら、ここまでかかわることになるとは思わなかったなぁなんてことを思う。転校生が陰陽師で化け物相手に共闘する。そんな、馬鹿げた話からこんな関係を持ってしまうことになった。
「どーした?そんな考えこんで」
「いや、こんな物語的なことが起こるんだなって」
俺が化け物に姿を変えることも、彼女と相棒になることも、すべて物語のように現実味のない展開だ。
「言うでしょ、人間の想像できることは実現できるって」
「それは将来的な話な、これは現在進行形で起こってんだって。そもそも、なんかかみ合ってないし」
人間の想像できるものは実現できる。例えば、ドラえもんに出てきたような携帯電話が現実のものになったように。空想上のものも科学が発展すれば再現できるという話だ。
というか、俺は技術の発展の話をしてるんじゃなくて、俺らに起こった出来事が物語チックだなって言ってるわけで。このセリフの返しはおかしいだろう。
「まあまあ、起こったものは起こったんだ。私たちにできるのはそれとどう付き合っていくかってことを考えるしかないんだよ。……たとえ、これが物語の中だとしてもね」
「付き合う……ねえ」
例えば、夜に化け物になる俺の体質の場合、理屈なんて考えたところで分かりようがないのだから、折り合いをつけて付き合っていくしかないってことだろう。
「だったら、俺がお前の相棒にならないって選択肢もあるわけか?」
「いやー、それは勘弁してほしいのだけど、選択肢があるかないかって聞かれると、あるとしか」
若干苦笑しつつ、彼女は言った。まあ、やらないって選択肢もあるわけだ。この様子を見るに、断ったからといって何かされるというわけでもないだろう。当人も陰陽師であることを積極的に広めてるみたいだし。
自己紹介で早々やらかした彼女の姿を思い浮かべる。いや、信じてもらいたいにしても自分のことを知られていないにもかかわらず、陰陽師なんて名乗っちゃいけないだろうに。やっぱり、祈という少女は変人だ。
「……む?なんか、失礼なこと考えてない?」
察しがいいと言っていいのかよく分からないが、そんな言葉を吐いて俺をにらみつける祈。
「いや、団体の人たちはあんたみたいな人なのかなと」
ごまかすように、話を変える。
「うーん。変な人がいっぱいいるよー。私は中でもトップクラスの常識人なのだ!」
そう言って、胸を張る祈。
彼女が常識人かぁ……。今から行く場所への不安感が募っていくが、祈は変人だが常識がないわけではない。常識人ではないかと言われると、少し迷ってしまうくらいの余裕はある。少なくとも、即答はできない。なら案外、多少話が通じる人ならいるかもしれない。
「やっぱり、失礼なこと考えてる目をしてる」
どうやら目に出ていたようで、彼女はそんなことをつぶやく。
「私って割とまともだと思うんだけどなぁ」
ふてくされた彼女を横目に俺は、彼女の所属する団体に思いを巡らせるのだった。