第37話 ベル
「今日は転校生を紹介する」
そんな言葉に、教室中に動揺が広がる。つい最近、祈が転校してきたばかりだというのにまた転校生、それでは動揺してしまうのも当然。……いや、学生というのは転校生という言葉にいつまでも惹かれてしまう愚かな生き物というだけだろう。
「おー!どんな子だろーね?」
ハイテンションで声をかけてくる祈。
「そうそう!楽しみだよね!?」
それに呼応する太陽。
「てめぇらみたいなやつじゃないといいな?」
変人二人に囲まれる俺みたいな人間が生まれちゃいけない。祈は、いきなり陰陽師なんて自己紹介するわけで現在俺以外とほとんど関わっちゃいなかった。加えて、なぜか太陽は集中的に俺に絡んでくるもんで、俺への負担が大きすぎるというのが現状だった。
だから、変な人間だけは来るなと俺は祈っていた。そうして、がらりとドアが開き、その奥から少女の姿が現れる。
瞬間、俺は理解する。ああ、また変人が増えたのだと。
腰まで伸びた金髪、特徴的な緑の目。翡翠色の目と言ってもいいほどに美しい。その少女の美しさ、可愛さからも、そう思う人も多いだろう。だが、そんなことはどうでもいい。ゴスロリチックなドレスを身にまとい、黒い三角帽を身に着けたその姿はまさに魔女という容姿で……。確かに似合っている、似合っているのだが。
「ベル、です。よろしく」
……変人というわけではないのかもしれない。見た目とは裏腹に落ち着いた言動をする少女に俺は先ほどの思考を謝らないといけないのかもしれない。
「……へぇ、また同類が増えるねー」
「え?」
小声でそう俺にささやく祈。流石の祈といえどここで、超能力の世界の話をするわけがなかった、ということだろう。……自己紹介の時は目をつぶってあげるとしたら。
「……三人、多いね」
ちらりと俺たちのほうに視線を向けたベルはそう呟く。
「……少し気になってたんだけど、超能力者って互いに分かるみたいな補正はないよね?」
「ないよー。あの子の場合、シンプルに催眠にかかってない人を見分けてるだけ」
「催眠?」
「うん。あの子の姿が普通に見えるっていう催眠」
……そう言われて、辺りを見渡せば俺たち以外に彼女に対して驚いた反応を見せている人間はいなかった。
「ついでに言えば、容姿も普通くらいに抑えてる。美少女なのにね、隠すなんてうらやましいことこの上ない」
何言ってんだこの美少女は……。自分の美少女さが分かっていないのだろうか?そんなことを思いながら、俺は視線をそのベルと名乗った少女に戻す。
「あ、あと、未来は私が催眠をはじいてるだけだからうぬぼれないでよねー」
「今度、回避する方法を教えてくれ」
そりゃ、超能力者だからって無条件に耐性があるわけがないか。致命的な状況になりかねないし、回避する方法は教わっておかなければ……。
「じゃあ、ベルさんはあの席に」
そう、指示されるとベルはしたがって席に着く。
「あれ、邪魔じゃないのかなー」
魔女の帽子らしくめちゃくちゃ巨大な帽子をかぶっており、視界をふさいでしまいそうだ。なんなら、重さで首が折れてしまいそうである。
まあ、そんなこんなで魔女が新たに学生に加わるのだった。
「どーも!陰陽師やってる骸 祈だよ!」
「同じく白沢 太陽だよ」
「いや、お前陰陽師なのかよ!」
そうして放課後、祈りに連れられ俺たちはベルに突撃する羽目になっていた。ほら、迷惑そうな表情してるよ?
「ええと、よろしく?」
「うん!よろしくね!」
満面の笑みでそう返答する祈。
「あんまり強く迫るなよ?」
握手とか通り越して抱き着こうとする祈の首根っこをつかみながら俺はそう呟く。いや、本当に。
「みんな、見えてるんだよね?」
帽子のつばを軽く触りながらそう疑問を口にするベル。おそらくはその姿のことだろう。魔女ファッションと言えばいいだろうか。まあ、催眠が聞いているのかどうかといった質問だろう。
「うん!私は見えてるよ!で、未来は私が見えるようにしてる」
「そこは、全員見えてるだけでよくないか?なぜ俺を落とす?」
「まあまあ、そんなに責めるなよ未来」
「お前はなんでそんななじんでる感を出すんだ?今初めてお前が陰陽師って知ったくらいだぞ?」
もともと非日常側の人間でした見たいな面して参加すんじゃねえ。
「……さすがに敵対するのは得策じゃなさそう」
「敵対する気はないから大丈夫だよ?」
太陽がイケメンフェイスを発揮してそう口にする。いや、この子も敵対するにせよしないにせよ、いきなり敵対の話を口に出すなよとは思うのだが。
「悪さしなきゃ、別に何かするわけじゃないしねー」
「そう。ならありがたい、です」
「うんうん。仲良くいこーぜ?一般人じゃない人同士でさ」
「……一般人でいたかった」
「その格好で言われても……」
めちゃくちゃ、一般人とはかけ離れた服装で一般人になりたいなんてことをいうベルに俺はそんな突込みを入れる。
「できるなら普通の服着たいけど、それじゃ、魔法が弱くなっちゃうから」
「あー、あるあるだねー。恰好をそれっぽくしないとうまく超能力が使えなくなっちゃうんだよね」
「そうなんだな」
あまり、そういうイメージを持っちゃいなかったから少し驚く。なりきる系の超能力だと格好とかもそれに合わせたほうがいいのか?
「うん。戸籍とかいろいろ魔法で偽造してるから」
「それが解けちゃまずいってことかー。じゃあ、寝……」
そんなことを祈は口にしようとしたとこで。
「あ、ここからは男子禁制だぜー。離れた離れた!」
いや、どこに禁制要素があったんだ?なんてことを思いながら、俺と太陽は言われるがままその場を追い出される。
「追い出されちゃったね?未来」
「ああ。つーか、こっち側の人間ありふれすぎだろ」
「いやー、ほめないでよ」
「ほめちゃねえぞ?」
「超能力者は少ないよ?各都道府県に一人いるかいないかくらいじゃない?」
「それならそれで、なんでここに集まってんだよ」
「そりゃ、君がそういう体質なんでしょ?そんな雰囲気、運命を背負ってんのさ」
「運命ねぇ」
そんなものがあるのだろうか。もし、あるのだとしてもそれは祈が持っているもので、俺には似合わないよな。
内心、そんな風に自嘲する。だって、俺がまたヒーローになりたいなんて思えたのは紛れもなく祈のおかげで、それがなければ俺はいつまでもふてくされていただけだろうから。




