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化け物  作者: 宵野 雨
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第36話 奏者

 その瞬間、私の体に寒気が襲い掛かる。あの時、突然しろに裏切られた時のように。あの世界線ではそもそも味方じゃなかったみたいだけど。この世界じゃもう、それも解決したはず。


「リーダー、諦めるにはまだ早い」


「……なんで、ここに」


 そもそも、しろがここに現れるなんて未来は想定しちゃいない。いるはずがない。そんな未来はないはずなのに。


「わたしをなめすぎ、てんさいだから」


 いつも通り、舌足らずな口調で言うしろに、私の緊張がほぐれる。


「敵をだますにはまず味方から。リーダーの能力を超えるくらい私にはできる」


「……最高。最高だよ」


 まさか、こんな展開が待ってるとは。


「んー、ジョーカー降臨、みたいな?」


「うん。最高の切り札だよ」


 ジョーカーか。エンドロールの未来視に映らない力。確かに、私のピンチを切り抜けられる可能性の秘めた切り札には十分すぎる。


「じゃあ、運命への反逆といこうか」


「……このてんしょんつづくの?」


 あ、やっぱり無理やり合わせてくれてたんだ。ごめんね、ちょっとハイになってるみたいだ、私。


「でも、いい。やってやろ?」


「さあ、『奏でよう、エンドロール』」


 奏者にふさわしい、エンドロールを奏でようじゃないか。ハッピーエンド以外、認められるわけないでしょ?


 エンドロールはひとりでに開いて、私としろの間を揺蕩う。


「りーだーののうりょくはじめてみたかも」


 そんな感じに、私たちが会話していたわけだけど、いつまでもお相手さんが待ってくれるはずもない。


「は?まあ、動揺はしたが一人増えたところで俺にはかなわないだろ」


 そうして、その男は私たちに近づこうと身をかがめようとして。


「なるほど。リーダーの能力はわかった」


 ふと、そうしろはつぶやいて。


「だったら」


 そう言って、しろはエンドロールに手をかざす。


「因果よ、過去と未来をつなげ。過去は反転して未来となる」


 瞬間、その男は一気に脱力して地に伏せる。


「は?一体何が」


「過去に存在しないものは因果がない。なら、消えるのが定め」


 過去を反転させて未来に押し付ける。創造した強い自分は過去の弱い自分に上書きされる。突然現れたものは、因果がないから消滅する、ということだろう。

 まさに、創造の超能力をメタる力。創造したものは片っ端から消滅していく。男が手を掲げて何かを創造しようとし続けるが、何も現れることはない。

 だから、再度私は銃をその男に向けて、残り1発の弾丸を放つ。


「じゃあね、私たちの勝ちだ」


 その銃弾は無事、その男を貫いて、息の根を止める。


「じゃあ、りーだー、やくそくはまもって」


「……しろ、どこまで読んでたの?」


「さいしょから、りーだーがどこかでしのうとしてるのはわかったし」


「……うん、そっか。約束もわざと」


「ん。りーだーはりーだーだから」


「……ごめんね」


 すごいな、しろは。私は超能力に頼っていただけなのに、すべて自力でここまでたどり着くなんて。


「二度と、こんなことはしないで」


 一度、真剣な表情になってしろは言う。


「心配だし、死んじゃったら悲しい」


「……う、うん」


「だから、ちゃんと頼って?信頼して?」


「……ごめんね」


 以前、敵だからってこんな尽くしてくれた少女を信頼しきれなかった自分に、いやになる。


「べつに、なにがあったのかわかったし」


 いつも通りの口調に戻って、しろはそう言葉を紡ぐ。


「し、しろー!」


 私は感極まってしろに突撃する。


「え、ちょっと、はなれ……」


 しろは私に押し倒されてめちゃくちゃにされる。ふふ、主人を騙すのが悪いのだ。どんな目にあっても文句は言えねえよな?


 そうして、私たちは無事、奏者へと戻るのだった。


「さんざんなめにあった」


 そんな言葉をしろは残した。この言葉がしろの最後の言葉だった。……ごめん、嘘です。


「……ねえ、てつだわされるのはきいてない」


「しろにいろいろ伝えちゃったし使わなきゃ損でしょ?」


「それはわかるけど」


 あの時、リーダーの座を譲るためにいろいろな資料をしろに渡してしまった。当然、機密情報のオンパレードで、加えてエンドロールによる予言も書いてあるわけで。まあ、こっちはしろが見て私の場所に駆け付けないよう、直接渡した書類の中にはなかったわけですが。まあ、それだけの情報を持っている、かつ優秀な頭脳を持つしろを利用しないわけもなく……。


 そして、私にじろりと視線を向ける。


「さすがに、なにもできなくなるからうではなして」


「……ぴぎゃ!」


 気が付いたら、しろの腕を抱きしめていて。


「……まさか、きづいてなかった」


「い、いや?そんなことないし!」


「……まずいかも」


 流石に、これ癖になったらしろの迷惑だろうしやめなきゃだね……。

 そんな決意をするのだけど、うまくいくわけもなく。


「あの、リーダー、なんでしろさんに……」


 私はその後、しろに抱き着いたまま移動する姿が日々目撃されるようになる。

 そんなこんなで、私はエンドロールの代わりにしろを抱きしめる癖がついてしまったのだった。一緒に寝たいのを我慢してるんだ、少しは許してほしい。そんな言い訳を口にしながら。

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