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化け物  作者: 宵野 雨
32/65

第32話 しろとフィーネ

〈sideしろ〉


「ずいぶん、なつかしいゆめをみた」


 本当に、懐かしい夢だった。私が奏者に勧誘される前はあるスラム街で暮らしていた。この幼女スタイルもその時に身に着けたものだ。


 あの時は、父がそのスラムの支配者的な存在で私は、あいつのいいなりという関係だった。基本、私の活躍は父の活躍にすり替えられるし、殴る蹴るの暴行はしょっちゅうだった。いくら私が天才だからといえど、反抗すれば簡単に息の根を止められる状態であったし、あいつにも私の賢さは知られていたし警戒もされていた。

 突然、私となんの関係もない奏者が乗り込んでいなければもっと取り返しのつかないくらいにひどい状況になっていただろう。


「しろねえ、髪ぼさぼさー」


「ん、ととのえるからこっちきて」


 そんな私が今平和に過ごしている。こんな未来は予想していなかったし、リーダーには感謝しかないわけだけど。


「そういえば、研究は順調なの?」


「ん、かんぺき」


「がんばってねー」


「ん」


 当然、今後も頑張らないといけないことだらけだ。でも、それくらいしなきゃ恩は返しきれないだろう。


「しろー、起きてるー?」


 アリスとのんびりと雑談をしていたら、そんな声が部屋の入口の扉のほうから聞こえてきた。


「ん。起きてる」


「じゃあ、準備できたらでいいから、私の部屋に来てくれない?」


「ん。りょうかい」


 何か話でもあるのだろうか?簡単な用事なら、部屋にでも入って話してくれればいいのにそんな重要な話があるのか。


「ん、ちょっといってくる」


 ある程度アリスの髪を整えてから、彼女を私の膝の上から降ろす。


「あぁ……。行ってらっしゃいー」


 若干ショックそうな声を上げつつも、アリスは素直に私を送り出してくれる。


 ヤンデレ的なキャラにならなくてよかった。……私が言えたことじゃないか。


 私はドアに手をかざして、ドアを開ける。手をかざすだけで、人物を識別してドアを開くか開かないかを決める。私が開発したドアである。今この組織のドアのほとんどはこの機能をつけており、侵入者は入り込めないようにしている。いくつかの種類を分けてるから、解析されて突破されても他を突破することは難しいと思う。よっぽど特化した超能力ならべつだろうけど。


 そうして、私はリーダーの部屋へ向かうのだった。昨日と同じように。



〈sideフィーネ〉


 私は、本を開いてしろが来るのを待つ。


「……やっぱりおかしい」


 私は自分の手元にある本を眺めながら、そんな言葉をつぶやく。


「……おかしいって?」


「ふわぁ!」


 突然聞こえてきたその声に私は驚く。さすがに考え込みすぎていたか。気をつけなきゃいけないな。


「し、しろ驚かさないでよ」


「のっくはした、りーだーがきづかなかっただけ」


「お、おう」


 それは私が悪いか。


「で、ようって?」


「あー、そうだったそうだった」


「よんだがわなのに」


「う、うん、そうなんだけど」


 忘れてたわけじゃないんだよ。ただただ、頭が回ってなかっただけで。


「で、はなしは?」


「そうだね。話っていうのは……」


 そうして、私が紡ごうとした言葉は口からうまく放つことができない。ああ、やっぱり私って駄目だな。

 だけど、言わないなんて選択肢があるわけない。だから、意地でも紡げ。


「……なるほど」


「うん、だからお願いしたいんだけど……」


 きっとこれには本当にしろが適任としか言えないのだ。


「……わかった、ただし」


 そうして、しろはある条件を紡ぐ。想定外のことではあったけど、受けてしまっても問題ない条件だった。


「なら、任せたよ」


「ん。約束」


「分かったって、ちゃんと守るから」


 私の考えが杞憂だったらの話なんだけど。


「ならいい」


「頼んだよ。いろいろ詳しいことはこの紙に書いてあるから、参考にして」


 私が紙束を差し出しながらそう言葉を口にする。


 それを受け取ったしろは、ぱらぱらと中をめくってから。


「ん。おぼえた」


「……相変わらずすごい頭脳だこと」


 映像記憶ってやつだろうか。とても私にはできそうにはない。


「ちっともおどろいてないくせに」


「はは、どうだろうね。……でもまあ、私ほどしろを知ってる人間はいないから」


「ん。そう」


「そこはもう少し照れた反応するのが乙女ってもんじゃないの?」


「もとめられないことはしないしゅぎ」


「大嘘つきめ」


 何度も求められている以上のことをこなしてきたくせに、全くもう。


「これでおわり?」


「うん。呼んだ理由は今のだけだよ」


「ん。りーだーのへやがせきゅりてぃはげんじゅうだからりかいできた」


「いやー、他の場所だとあいつが出てくる可能性があるから」


「ふふ、たしかに。しごとのじゃまにならないときはよくあらわれる」


「そうなんだよー。迷惑」


「……かいひできるでしょ?」


「いやー、できなくはないけど、面倒」


「じつがいはない、と」


「そー。いやはや、私以外にもいい女なんていっぱいいるのにねー」


「りーだーはいいおんなだよ?」


「純粋無垢な顔してもだめだよー、しろはそういう風にからかえないって」


「むー、まあ、まけないとだけ」


「うん。しろはいい女になれる、頑張って!」


「ばかにしてる?」


 馬鹿にはしてないよ?しろはすこし癖が強すぎるよなーって思っただけで。


「べつにいいけど」


「いいんだ」


 いや、まあ、しろのこの口調は全部わざとなわけだし、自分が相当変人であることくらい自覚しているのだろう。


「じゃ、わたしはいろいろあるから」


「うん。頑張ってねー」


 しろを送り出して、私は一つ息をつく。


「うん。私も頑張らなきゃね」


 一人、呟いたその言葉はあたりを虚しく反響するのだった。

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