第31話 夢
「あはは!落ちろ落ちろ!」
「なんでそうも、ハイテンションなのさ」
降り注ぐ流星を私は駆け抜けながら回避し続ける。本当にいかれてると思う。超能力の規模があまりにもおかしいのだ。何を考えていたらこんなことができるのか。
いや、何も考えていないからこそ、なのだろう。
「だけど、勝てない相手じゃない」
そう呟いた瞬間、彼女の周囲に魔法陣が展開される。我が技術部が生成した断絶結界。
ふわふわと宙を漂っていた少女は一瞬にして力を失い落下する。
「確かに君は強いけど、明確な弱点があった。ごめんね」
そう言って、私は懐から拳銃を取り出して彼女に突きつける。
「ははっ!まじかー!」
そう言って、絶体絶命となった状況でもなお、彼女は笑っていた。
「やっぱり、私には君のことが理解できそうにないや」
彼女には意志というものが全く感じられなかった。そこにあるのは空虚な存在というだけで、何のために戦っていたのかも、何もかもわからない。分かりたくもないのだけど。
「じゃあね?平和のために死んで?」
そう言って私はその引き金を引く。
パァン!と乾いた音が響いたと同時に、彼女の額に風穴が開く。いくら回復能力を有していたとしても、脳を貫いてしまえば超能力を使う余裕なんて存在しない。
「平和のため、かぁ」
多分、この世界は平和につながらない。何のためにやってんだってのは私にこそ刺さる言葉だよな。
そんな風に自嘲しながら、私はその場所を後にする。
「あいかわらず、いみわかんない」
「でしょー?」
「あのりゅうせいによけるようなすきまはなかった。なんでひとつもあたらないのか」
「いやいや、多少の傷くらいは負っちゃったよ?痛てーぜ」
まあ、明日には治ってるだろうけど。
「ふーん、じゃあこれは?」
そう言葉が聞こえた瞬間、先ほどと同じ乾いた音が鳴り響き、私の体に激痛が走るのだった。
「はっ!……はぁはぁ」
息が乱れる。
「う、あ、夢、か」
体のどこにも傷なんて存在しちゃいない。
「気にしちゃだめだ」
自分にそう言い聞かせる。
「……エンドロール」
私はその言葉をトリガーに能力を発動させる。
瞬間、私の手元に一冊の本が現れ、私はそれを抱きしめる。
「大丈夫。もう、大丈夫」
恐怖がなくなってくれるよう、願い続ける。きっと何とかなる。私は主人公にはなりえないのだけど、それなりに頑張るしかないのだ。……私がやらないといけないのだ。
そうしているうちに、私の意識はだんだんと薄れていく。大丈夫。あんな悪夢はもう見ないんだから。そして、私の視界は完全に暗転する。そこにいる誰かの気配にも気づけないまま。
「……なに?」
あるスラム街で私はある少女に手を差し出していた。彼女の特徴ともいえる真っ白な髪も薄汚れていて、着ている服も服というよりは布切れという表現のほうが適切だろう。
「端的に言えば、私の協力者になってほしい」
「……なんで、ただのしょうじょに?」
「君の頭脳が欲しい。それだけ」
そう言葉を返すと彼女は少し悩んで……。
「むり。わたしはそんなたいそうな」
「大丈夫。君の問題だって簡単に解決できる」
ここまで来るのはさすがに大変だったけど、その苦労も彼女の力をフルに貸してもらえるようになれば十二分におつりがくる。
「何言ってるか分かってる?」
私の言葉を聞いた途端、彼女は一瞬にして声色を変えて私をじろりとにらみつける。
「うん。だって、そろそろ……」
「リーダー!任務のほう完了しました!」
「ご苦労」
そうして、一人の青年が私たちのほうにまで駆け寄ってきて、手に持った遺体を無造作に放り投げる。
その遺体を見た瞬間、若干彼女は驚いたような表情を浮かべた後で、私のほうに視線を戻し、表情もまた無表情に戻る。
「さて、どう?これで……」
「なるほど。すべて分かってるんだ」
「さあ?全部分かっているなんて言えないけど、まあ人よりは多くを知ってるよ」
「ん。で、この場で報告したのも説得しやすくするため」
「そー。流石だね」
まあ、彼女のすごさは私が一番知っているんだけど。
「リーダー、この子なんなんですか?」
彼女の見た目は私と同じ、まだ幼稚園児くらいの見た目だ。だからこそ、そんな少女が私と冷静に会話を続けている、そんな光景は異常というほかないのだろう。……私も同じような見た目なのに、残念ながら全く疑問に思った様子はない。いやー、慣れって怖いよね。
「私と同類、なのかもね?」
「なわけ、わたしはせいちょうがおそいだけ」
「……」
まあ、冷静な口調で舌足らずな言葉を言われたら動揺するよね?
あ、そこじゃない?うーん、失礼なことはよくわかんないなー私。
「で、どうする?」
「……いい。ちからくらいかす」
「ありがとねー」
自分は大層な人間じゃないなんて言いかけてたくせに、よっぽど自分に自信があるようで……。まあ、彼女ほどの頭脳を持つ人間を私は知らない。驕ったっておかしくない。
「ん。よろしく」
「じゃあ、帰ろっか!」
そうして、私たちはしろという少女を連れてその場を後にする。ここから、この少女の力で私たちの組織は成長速度が飛躍的に向上することになる。がんばるぞー!




