第30話 生還
「おつー」
「ほんとに疲れた」
「げきやばにんむみたいだったし、おつかれ」
その後、俺たちは組織のほうに戻っていた。いや、あの直後、女の子を運ばせるわけにはいかないって呟きながらしろが現れて連れて帰ってくれたのだが。
「あの時、なんで近くにいたんだ?」
「まあ、しょうじきせいこうするとおもってなかったから」
「そりゃ、酷いな」
まあ、俺があの姿を晒すことを選ばなければ、祈の覚醒がなければ、少なくとも祈は死んでいた。成功する可能性だけで見れば低かっただろう。
「そもそも、わたしはふたりだけのとつにゅうにははんたいだった」
「だったらなんで……」
「りーだーのどくだん」
「……は?」
フィーネが強硬して、俺たちが危険になる選択を選んだってことか?
「そうだよ。私がやれって言ったの」
「りーだーのめいにはさからえない」
「よく言うねー。しろねえは、むぐっ!」
何か喋ろうとしたアリスの口をしろは抑えつつ、フィーネのほうに視線を飛ばす。確かに、出番はなかったとはいえずっと近くにいたらしいしな。それで命令には従うしかなかったなんて、悪役ぶったところでだろう。
「で、どうだった?」
「……俺の秘密を祈にばらすことが目的だったってことでいいのか?」
「あー、そう考えちゃうかぁ。うん。まあ、半分当たり」
「あとはいのりのとらうまこくふくってことでしょ?」
「そう!ザッツライト!」
「……リーダーもキャラブレブレだねー」
確かに、ザッツライトなんていうのは祈のキャラだろう。フィーネが言っているというのは違和感がある。
「私は見た目通りの幼女ですから?イメージ通りに動いたっていいじゃない?」
「ようじょはそんなしゃべりかたはしない」
幼女同士の争いが始まりそうな予感があった。
「まあ、何らかの考えがあったんなら別に構わねえよ」
俺と祈の距離は縮まったし、祈もトラウマを乗り越えられた、と思う。すべてがいい方向に転がっているってことは事実だった。多少の愚痴はあるにせよ責めるのは筋違いだと思う。
「へー、優しいねー」
「で、祈は大丈夫だったのか?」
祈はと言えば、帰ってきてすぐ検査を受けることになった。内臓だってほとんど飛び出していたようなものだし、心配でしかないのだが。
「だいじょうぶ。あれくらいならなおる」
「うん。治療は終わってるから明日には会えると思うよ」
「しぬいがいはかすりきずだから、もじどおり」
やっぱりこの組織の以上技術にはいつまでたっても慣れそうにないな。
「まあ、一般人なら心配なのは分かるし、お見舞いにでも連れてってあげよっか」
そう言って先導するフィーネに俺はついて行く。
「治療室には初めて来たが、なんか病院とは違うんだな」
周囲には、人造生物でも入っていそうな水槽や、なにやら電子音を奏でているコンピュータそういったものが無造作に設置されている。
「まあ、病室みたいなとこもあるけど、検査設備とかいろいろなものがあるからねメカメカしくなっちゃうもんなんだよ」
「もっとしんぷるにできるはずだけど、ろまんとかいってつくるやつがいっぱいいる」
「ならではだなぁ」
こういう組織だからそんなロマンの塊のような設備を開発できるのだろう。一般的な会社なら、もっと整頓された設備が求められるのが基本だろう。5Sなんてものがあるくらいだしな。
「と、ここが病室だよ」
そうして、がらがらと音を立てて開く扉。病院によくあるスライド式のドアだ。どういう利点があるのかは知らないのだが。
「おー、いらっしゃいー」
「もう意識戻ってんのかよ」
「意識戻ってる?嘘」
素で驚いた様子のしろ。いつもの舌足らずな口調じゃない。本当に想定外だったのだろう。なんというか、祈ならあり得るとすら思ってしまう。
「さすがにそうていがい」
「そこは取り繕わなくていいんじゃないかなー?」
「お、気づいてないふりもやめたんだ」
「しろも気づいてたんだねー」
「うん。でもこのくちょうはおとくだからやめられない」
「お得かどうかはよくわかんないけどー、まあアイデンティティとしていいんじゃない?読みにくいけど」
「急なメタ発言はやめようか」
フィーネが突っ込みを入れて、空気は静まり返る。
「メタ、発言?」
「それは掘り返さないでね!」
全く、突っ込んだ側だというのに、掘り返すなとは。
「じゃ、私は仕事があるから」
そう言って、立ち去ろうとするフィーネ。そうして何か思い出したかのように振り返って。
「役得な思いをした未来君は正常でいられるかなー?」
謎のあおりをして戻っていくのだった。もしかして、フィーネはしろが祈を連れ帰ったと知らないのだろうか。それとも……。微妙な空気感のあと、祈の言葉で俺はフィーネの狙いを理解する。
「ほー?何をしたのか吐いてもらおうかなー?」
確かに意識を失った状態だったから、祈は誰が連れて帰ったか知らないわけで。俺に矛先が向けられるのは当然といえた。やっていたならともかく、やってもいない冤罪で責められてはたまらない。俺はどうにか言い訳を続けるのだった。何やら、笑みを浮かべるしろに内心イラつきつつ。




