第29話 リベンジマッチ
〈side祈〉
ひどく馬鹿馬鹿しいと思えた。私の存在が。根本的に私という人間は自分を大切には感じられないのだろう。だから、彼が言った私へのプロポーズの言葉すら馬鹿馬鹿しく思えた。
多分、彼も逆の立場なのだとしたら同じことを思うだろう。だって、私も、彼も何者かになりたいと願っているだけで、何者にも慣れないのだから。……まあ、私にとってはヒーローだったって言ってあげてもいいかもしれないけど。ともかく、ただ思ったのだ。私が自分から死のうとするなんて馬鹿馬鹿しいって。死ぬとき死ねばいいだけだろうに。死ぬことだってどうでもいい。死ぬなら死ぬし、死なないなら死なない。それを決めるのは私らしくない。
「我が声よ、響け」
だから、語り掛ける。私が陰陽師として彼らを扱うことはできない。だってどうしたいのかが明確に存在しないのだから。
「我が身を捧ぐ。故に、舞え、踊れ、狂え」
私はただ身を任すのだ。その衝動に。彼らの感情に、直感に。
「……強いて言うなら、纏魔って感じかな?」
ふわりふわりと私の周囲を風が舞う。何の妖なのかはよく分からないが、まあなんだっていい。変なことをしなければ。
全身に血が霊力が巡っているのを感じる。いや、私のものではないから妖力としておこうか。それが体全身を巡りまわって、力が溢れる。傷がふさがって、朦朧としていた意識、視界も次第とはっきりする。
「じゃ、行ってくるねー」
そうして、私は風に任せて宙を舞う。
「は?いや、ちょっと待て!」
「あはは!こっちこっち」
未来が私を追いかけて駆け出す。いやー、楽しいね。自由って感じがして。気楽に、赴くままに、鑑みず、私は今を謳歌するのだ。
「さてー、ここかな~?」
感覚に任せて、私は足を止める。浮いてたからもともと足は動いていなかったが。
「……じゃあ、目覚めてるだろうしリベンジマッチ開始~」
私は、周囲に風を解き放って周りの瓦礫を吹き飛ばす。そうして、私たちを追い詰め、未来に追い詰められた男の姿を発見する。
「うーん?意識失ってるっぽいけど……。つまんないよね!」
そうして、私はその男の周囲に妖力を回して回復させる。何やってんのって思うよね?私も。
「あ?……っ!」
そうして、目を覚ました男は私と、未来の姿を視界に収めた途端、地を蹴って逃げ出す。
「そりゃだめだよ~。私の相手をしてもらうんだから~」
周囲に氷の壁を作り出して私は言葉を発する。
「どっちが悪役か分からねえな、こりゃ」
「おー、確かに逃げようとした相手を閉じ込めるのは悪役の特権だよね!」
「なんで楽しそうなんだ?」
楽しいからです!
「じゃ、未来も隔離しましてーっと」
「いや!?は!?それじゃ助けに入れないんだが?」
「まあまあ、落ち着いてこー。君なら壊せるって、多分」
使ったの初めてだから強度とか知らないんだけどねー。
「幸い、と言っていいのか?これは?」
閉じ込められた男は、未来とは別の空間に隔離されていることに気づき、そんな言葉をこぼす。
まあ、いいんじゃないでしょうか?知らないけど。
「じゃ、リベンジさせてねー」
「お前はお前で軽いな!?」
「おー、突っ込みお上手ー」
そこまで上手か?なんて突っ込みが未来のほうから聞こえてくるが、気にしない気にしない。
「死にたいならかまわないが」
若干困惑した様子で、男は私の周りに術式を展開する。
「うーん?ワンパターンだね~」
だから私はそれらすべてを迎撃しようとして、やめる。
「だったら、こういうのはどう?」
私に向けて放たれる炎、水、風といった殺意が、私がくるりと回るだけでその方向を変える。
「どう?自分の術式に牙を向けられるのは?」
「最悪だな」
そう軽く呟いて、男はその術をすべて迎撃する。
「おー、お見事」
「馬鹿にしているのか?」
純粋にほめただけだというのに、全く近頃の若者は……。私のほうが若いけど?
「じゃあ、次次行ってみよー」
そうして、術を発動しようとして。
「あー、うん。こうじゃないなー」
それらを改変して放つ。
「おー、私って冴えてるぜー」
初めて見るくらいの威力に変わった術は男に飛来して、貫く。
「次は何をするー?」
私は煙経つその場所に目を向けるが、一切反応がない。
「むー、風ーやっちゃえー」
私は風を起こして煙を晴らす。
「あー、意識ないみたいだねー」
うーん、流石に起こすのはあれだしなー。しゃーなし、拘束しとくかー。やったことないけどね!
「さーて、縛っちゃえー!」
地面から縄が生成されて、その男を縛り付ける。
つんつんと男をつついてみるが反応はない。
「あー、この縄霊力封印持ってるじゃん。いやー怖い怖い」
これに縛られちゃ私もひとたまりもないよー。こんなの作れるなら、妖さんに喧嘩売っちゃだめだね~。なんで使役しても仕返しされないんだろうね?その辺は分かんないけど、どうでもいいや。
「終わったよー」
律儀に待っていた未来の隔離状態を解除して、手招きする。うーん、見たところ未来が攻撃してきたら、あの結界は一二回殴られると壊れそうだねー。あの攻撃力防げるなら十分なんだけども。
「どうですか!?覚醒祈ちゃんの姿、雄姿は!?」
「……かっこいいかっこいい」
「投げやりだなぁ」
「こんな惨状作り上げといて何言ってんだ?」
そう言われて周囲を見渡してみる。穴ぼこだらけで、瓦礫が散乱したこの空間は何かの災害が起こった後と言われても疑わないだろう。まあ、私たちの超能力は災害のようなものですからー?
「ばっちぐーでしょ!」
「……とりあえず、撤退するってことでいいか?」
「乗り悪いなー、もう。まあ、それでいいよー。私の術じゃ失った血までは戻せなかったみたいだからねー」
「は?」
「じゃ、おやすみー」
そう言って私は目を閉じる。心地よい睡魔に流されるように。
「おい!俺が連れて帰らなきゃいけねえのかよ!?」
そんな、彼の怒号を聞き流しながら。




