第26話 邂逅
ひどい爆発音で俺は意識を取り戻す。
あたりを見渡すと、牢屋のようだった。そして、俺の姿は化け物のそれへと変わってしまっていた。
幸いにも、見張りはいない。俺の力はあくまでも人間の範疇を出ちゃいなかった。だから牢屋に閉じ込めておくという選択は間違いではないだろう。
俺は、鉄格子に向かって爪を突き立てる。そしてあっさりとその爪は鉄格子を切断する。こうなってしまえば、あとは簡単だ。組織に逃げ戻ってフィーネかしろにでも現状を報告してしまえばいい。
確かに、今の俺の力があれば、あの男にも勝てるかもしれない。だが、それは推測に過ぎない。ここで確実な手段はすぐにでもここから逃げ出して、報告すること。
だから、俺は、四つの足で強く地を蹴る。
そうして、俺は足を止めた。足が地面に張り付いてしまったかのように動かない。
……分かってる。逃げたほうが確実だとか、そんなこと言い訳に過ぎないんだって。単純に怖いのだ。あの少女が。関わりすぎてしまったから。あの少女の優しさにも気づいてしまったから。だから、怖い。拒絶されるんじゃないかって。
フィーネが言っていたように受け入れられる可能性のほうが高いことだって、あの少女がそんなことをする人間じゃないってことだって、ちゃんと理解できている。だけど、理解できているからと言って恐怖がなくなるわけじゃない。
だから、逃げ出したい。だから、俺は地を蹴った。蹴ったはずなのに……。
何かが俺に巻き付いてくるように、逃がしてくれない。なんで。怖いのだって変わらない。だったら、逃げればいい。
俺は、以前から、この体質になる前から力が強かった。体を鍛えてきた。動機は……子供にありがちな憧れだった。ヒーローになりたい。かっこいい存在になりたい。だから、強くなった。
そして、俺は強くなりすぎてしまったのだ。その原因がこの化け物になる体質だったのかはわからないのだが、少なくとも、同年代の相手とは比べ物にならないほどに力が強くなってしまった。やろうと思えば何でもできた。屋根まで飛ぶことも、鉄の棒を折ってしまうことだってできた。そんなことができる同級生がいれば、そりゃ恐怖する。そうして、俺のあだ名が化け物へと変わっていったのだ。
……だから、あの少女からその言葉を聞くことが怖い。だって、だって彼女は……。
そう考えた瞬間、俺はすぐさま方向を変えて、駆け出す。
だって、彼女は、俺をヒーローなんて呼んでくれたのだから。
〈side祈〉
「大見得を切って、この程度か?」
「はは、すでにボロボロだってのによく言うよ」
私たちは大爆発に巻き込まれ、満身創痍となっていた。正直、私は生き残るとは思っていなかった。私の体内から自爆するように術式を刻んでいたわけだし、内臓から爆発して人の形すら残らないものだと思っていた。
「お前は死にかけだろうに」
「うん。そうだね」
すでに、視界はほぼ見えちゃいないし、いたるところから、血は噴き出ている。下手をすれば内臓も外に出てきているだろう。痛みをほとんど感じないのは、アドレナリンでも出ているのだろう。いや、神経がすでに逝ってしまったのかもしれない。まあ、どちらにせよ私はもう、長くないだろう。
「さあ、二回戦だね!」
男の方向なんてさっぱりわからないが、私は前を向いて言葉を叫ぶ。命が尽きる前の一瞬を、私を残すのだ。
そうして、私は霊力を解き放って、そして、宙を舞っていた。
……は?
少なくとも、まだ私は行動を起こしちゃいなかった。そして、私は何か柔らかい場所に着地する。
「逃げるぞ」
そんな声が下から聞こえ、私は耳を疑う。ほとんど見えていない目でも聞こえてきた先にいるのが人間ではないことくらいわかる。
「……大丈夫。私は置いてっちゃって。生き残ってるなら、なおのこと」
人間の姿ではない。だけど、私にはそれが誰なのかわかっていた。わかってしまった。だから、私の自殺に巻き込む必要はない。
「そもそも、私はもう長くないから」
彼が生きているのならば、私という足手まといを抱えるよりは一人で逃げたほうが助かる見込みは高い。だから、そう言った。
……まあ、だけど、分かっていた。彼は逃げるような人間じゃないって。
「そんなことしねえよ。だったら、一緒に自殺でもなんでもしてやらあ!」
「やっぱり、狂ってるよ、君」
そうして、私は笑う。自分に囚われた私は、その衝動に従うしかないんだから。彼も笑っているのだろうか。そうに決まってる。だって、私と同類だから。
さあ、笑え。私たちは私たちらしく生き抜くのだ。
「……なんだ?そいつは?」
「さあ?強いて言えば、相棒、かな?……いや、ヒーローなのかもね」
かっけえぜ?なんてったって、ヒロインの窮地に駆け付け、大見得を切ってみせるのだから。こうなっちゃ負けられねえよな?
かすむ視界で私は、あの男のほうへ視線を向ける。だから、私は目を伏せた。
……結局、私は何なんだろう?




