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化け物  作者: 宵野 雨
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第25話 骸祈という少女

 私の生まれた家は、中でも優秀な陰陽師家だった。両親も兄弟も、みんな優秀な陰陽師だった。ただ、私を除いて。平凡的、とも言えないほどに私は陰陽師として才能がなかったのだ。結果、骸家の落ちこぼれ、出がらし、なんて蔑称を付けられるほどになってしまった。


「どうして、こんなこともできないんだ?」


 何度も何度もそんな言葉をぶつけられた。時には、殴る蹴るの暴力的な指導もあった。だけど、どんなに頑張ってもできなかったのだ。当然、それに歯向かうことなんてできなかった。

 陰陽師の扱う力は、周囲のエネルギーや妖に命じて発動するものだ。だけど、私には彼らをうまく扱うことができなかった。言うことを聞いてくれと泣き叫んでも、全く聞く耳を持ってもらえなかった。


 同年代の陰陽師の子供にも嗤われた。骸家がいくら有名な家の娘といえど、家族が庇うなんてことをしてくれるはずもなく、私の自尊心は削られ続けた。


「なんで、なんでできないんだろう」


 何度だって、そんな言葉を吐いて、吐いて……。いつしか私は諦めた。


 どんなに頑張っても追いつけやしないのだから。そして、私は陰陽師としての自分から逃げ出した。そして、私は自分をごまかすように仮面をかぶった。お調子者で空気の読めない人間という何も考えていないような、そんな仮面をかぶった。

 例えば、しろが幼気な幼女ではないことだってわかってる。だけど、それには気づかないふりをした。

 そうすれば、人からひどく嫌われるようなことはないから。嘲笑われることもないだろうから。それが私なんだとごまかした。


 そうして、そんな仮面をかぶり始めて少ししたころ、ある出会いがあった。


「ねえ、君、私と一緒に来ない?」


 フィーネという奏者という組織のリーダーを名乗る少女にそんな声をかけられたのだ。なんで私なんだろうと一瞬脳裏をよぎったが、私はその言葉を無視して、彼女の提案を承諾した。実家の呪縛から逃げ出したいという思いと、そして、裏を考えたくなかったから、そんな思いがあった。


「うん!よろしくね!」


 即答して、私は奏者という組織に所属することになった。組織は私の思っていた以上に温かいものだった。私を責めるような人もいなかった。だけど、私は自分の態度を変えるようなことはしなかった。怖かったのだ。この優しさが失われるのが、孤独になってしまうのが。だから、私は笑い続けた。

 そうして、しろらの知恵を借りて、私の陰陽師としての実力も向上していった。そう思っていただけなのかもしれないが……。

 そんな中、任務の一環で訪れ、転校した学校である少年に出会った。緋色未来というその少年に私は同じ匂いを感じたのだ。だから、勧誘した。その前に死にかける経験はしたのだが、幸い見逃されたようだし、気にする必要はないだろう。

 そうしてまあ、今に至るというわけだ。陰陽師としての道から逃げた私が、同じ陰陽師に追いつめられる。物語で言えば、かませ役にでもなるのだろう。情けない登場人物がその報いを受けた。彼を巻き込むことになってしまったことに罪悪感はあるが、それがきっと私の罪を示す痛みなのだろう。



 そうして、私は再度目を覚ます。


「目が覚めたか?」


「最悪な目覚めだけどね~」


 陰陽師の男は私を見下ろしながら、嘲笑う。イラっとする。するが、何ができるというのだろうか。圧倒的な格上相手に、抵抗する気力は……。


「で、私をどうするの?」


「お前、骸家の令嬢だろ?だったら、脅す材料にはなるか?」


「あいにく、私は実家とは縁切られたもんでね。そういう使い道は諦めてもらったほうがいいよ」


 実際のところは知らないが、おおよそ、家族は私を見捨てる選択を選ぶだろう。恨むつもりもない、私は期待に応えられなかった結果、家を第一に考える家族に見捨てられる。当然だと思うし、私も逃げ出したのだ、責める権利なんて持ち合わせちゃいない。


「嘘、というわけではなさそうだな?」


「つく必要がないからね~」


 まあ、組織のほうに請求すれば可能性はあるかもしれないが、それを口にするほど愚かじゃないし、見捨てられる可能性も大いにありうる。案外、あそこはドライな組織だから。


「……そういえばさ、私ってどれくらい気絶してたの?」


 ふと疑問に思ったことを質問する。


「3時間ってとこだな。残念ながら、助けは来てないな」


「はぁー。そりゃ残念だなぁ」


 そこまで時間がたっていないと判断されたのか、それとも……。ある可能性からは目を伏せ、私はその男に視線を向ける。


「まあ、そんなことはどうだっていいんだけど」


「自分の命を諦めたのか?」


「命なんてとっくに諦めてるからね~」


 だから、私は術式を起動する。自分の思考が支離滅裂になっていることくらいは理解している。それでもなお、私にはこれしかないのだ。さて、愚か者なりの抵抗を見せてやるか。


「さあ、目にもの見せてやる、ってね」


 瞬間、私の周囲に大爆発が巻き起こるのだった。

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